ロエーロにフレッシュな風を吹き込む「バヤジ」
5月、イタリア・ピエモンテ州のロエーロの生産者「バヤジ」醸造担当のアドリアーノ・モレッティ氏が来日し、「リストランテ アクアパッツァ」(東京・青山)でメーカーズランチを開催した。果実味豊かでフレッシュなバヤジのワインの魅力を探った。
チャーミングでフルーティーなロエーロ・ワイン
ロエーロは、イタリア・ピエモンテ州に位置するワイン産地だ。砂と石灰岩が混じった柔らかな土壌で、ネッビオーロで造られる赤ワインとアルネイスで造られる白ワインを産する。どちらもチャーミングな果実味を持ち、親しみやすくライトなワインが好まれる現代にぴったりなワインだ。
「バヤジ」では1900年代からブドウ栽培を行っていたが、アドリアーノ・モレッティ氏が引き継ぐ前は自社醸造を行わず、ブドウはほかのワイナリーに売っていた。2014年に家業に参加したモレッティ氏がワイン造りをスタートし、当時、年間2000本だった生産数は、現在では2万本にまで成長した。
モレッティ氏は、家業を継ぐ前にモデルやソムリエとしてのキャリアを積んだという異色の経歴の持ち主だ。彼自身、36歳という若き生産者だが、「ロエーロにある約80生産者のうち半数が若手です。トラディショナルな産地とは異なった新たな動きが起きています」と話す。今までの生産者たちは、ほかの産地から受けた影響をロエーロ・ワインに反映させようと試行錯誤していたが、モレッティ氏は、あくまでロエーロの個性と自分のスタイルを掛け合わせて生まれるワインを造りたいという。
モレッティ氏は、ロエーロという土地のテロワールを表現し、料理に寄り添うワインを造りたいと語る。醸造学校で科学的にワイン造りを学んできたわけではない。「パッションでここまでやってきた」と言い、ソムリエとして鍛え上げられた舌、感性を生かしたワイン造りを行っている。
同じピエモンテ州の銘醸地、バローロやバルバレスコを意識して、樽を効かせたロエーロ・ワインもあるというが、バヤジのワインはフレッシュで、いい意味で肩の力が抜けている。
挑戦心とセンスが光る、料理に寄り添うフレッシュなワイン
『ロエロ ロッソ 2019年』(ネッビオーロ100パーセント)は、非常にアロマティックで、今飲んで美味しいワインだ。イチゴ、ラズベリーなどの赤系果実の香りに、ヴァニラやリコリスのニュアンスが重なる。酸はフレッシュで、口中で横に広がるようなタンニンを感じる。このタンニンが料理との相性を高めるポイントだという。
ロエーロのあるクオーネ県ではバローロとバルバレスコも造られているが、産地が近いとはいえその味わいは大きく異なる。バローロとバルバレスコは泥灰土がメインの土壌で、力強いワインが生まれる一方、ロエーロは柔らかい砂質土壌で、アロマが豊かで早くから楽しめるワインになる。
『プロメテウス 2021年』(アルネイス100パーセント)は、黄桃や菩提樹、カモミールなどの香りがふくよかに広がる。軽やかなタンニンを感じ、アフターの果実感がワインにフレッシュさを与える。アンフォラで100日間マセラシオン(*2)を行い、果皮を取り除いてから、アンフォラで9カ月、瓶内で最低6カ月熟成させた。
*2 ブドウの果皮を果汁に浸す、醸し作業
ワイン名は、ギリシャ神話に登場するタイタン(巨人)族の1人、プロメテウスに由来する。人類に火を与えるために神々から火を盗んだ“反逆的”な神であるプロメテウスのように、イタリアの呼称システムや古典的なアルネイスのスタイルに反抗する気持ちが込められている。
「時代とともに、ワインを飲む人、ワインの造り方は変わっていく。時代の流れに合わせるバランス感覚が重要です」とモレッティ氏。新しい感覚で自身のスタイルを表現するモレッティ氏のワインに注目したい。
ワインの問い合わせ先:㈱Grando TEL. 03-6264-2512