テーブルゲームがもたらす新たな地域コミュニティと無限の可能性の創生「TxGAME」【秋田県秋田市】
2024年7月13日土曜日。無料でテーブルゲームを通じた交流会を行っているTxGAME(ティーバイゲーム)の取材に秋田市文化創造館へ訪れました。この日は三連休初日、近くの会場で別のイベントが行われていたため、人の出入りも多く非常に活気のある1日でした。
今回は創設者であり代表の木村允(きむら・まこと)さんにインタビューを行い、木村さんがどのような思いでこの団体を創設したのか、また、これらの活動がどのような良い影響を秋田にもたらすのかを聞いてみました。
-木村さんがこの活動を始めたきっかけとなった出来事はなんですか?
木村さん:私が活動を始めるきっかけとなったのは仕事の経験からです。私は日系IT企業の駐在員としてベトナム人と日本人が共同で行うシステム開発プロジェクトに携わっていました。主に日本企業が考えたシステムを外国人が開発するというもので、私は基本的に営業やマネジメント、PMO、事務処理等の裏方を担当していました。
基本的にどのプロジェクトも優秀なメンバーが揃っていて技術面での心配はほぼありませんが、それでも問題は必ず生じるもので、その大半が「コミュニケーションミス」によるものでした。
日本語は「主語を省略できる言語」です。例えばよく会う友達に「明日は?」と尋ねればこちらが求めている答えを返してくれると思います。日本人はそれが当たり前なので主語を意識する代わりに″会話の文脈″を意識しながら展開します。
しかしそれは世界でも珍しいことであるため、これが外国人には伝わりません。外国人から言わせれば、日本人は「あいまいな話ばかりする人種」と判断されます。いくら優秀なメンバーが揃っていてもコミュニケーションミスが生じればプロジェクトの成功は難しくなります。
それゆえに外資系と日本企業を交渉力の面で比べると日本企業の方が明らかに遅れを取っているのです。
もう一つ原因があります。それはネット社会の昨今、公私を問わずSNSやチャットツールで物事を進めるのが当たり前になっていることです。先ほどの”文脈”に関する問題もさることながら、そもそもチャットは文字ベースのコミュニケーション手段です。文章で会話する以上は双方の国語力が対等で近しくなければなりません。チャットやSNSで誰もが簡単に情報発信をできますが、同時に誤解や曲解の温床にもなっています。
私はこの経験から、「世界から見た日本」の今後において「対面でのコミュニケーション能力を伸ばす環境」が求められているのではないかと考えるようになりました。海外の大学ではしばしばディベート(討論)を取り入れているところも多いですが日本ではほとんど目の当たりにすることはありません。
そこで思いついたのがテーブルゲームの活用でした。テーブルゲームは世界に3万種類以上あり、年齢・性別を問わずに楽しく遊べるものが多く汎用性も高く、人それぞれの好みに合わせたゲームの提案もできます。何よりコミュニケーションの機会ができる点が素晴らしいのです!!
テーブルゲームを研究していくうちにその潜在能力の高さに驚きました。例えば運動が嫌いな人はスタジアムに足を運んでまで野球やサッカーを観戦しようとは思いませんが、テーブルゲームはその多様性から、ほぼ誰にでもその人の好みに合うゲームを発見できます。身体の不自由な人でも遊べます。これはパソコンやテレビ並みの汎用性があり、他のコンテンツにはない大きな特徴といえます。
また、年齢性別を問わず、上司や部下、家族、友人、初めて会った人でも同条件でゲームに臨むことから、ゲームを通じてフラットなコミュニケーションの機会を作ることができます。
非日常的なコミュニケーションの機会を提供することで、サードプレイス(職場とも家庭とも異なる第三の場、ストレスから解放され、それぞれが憩うことができる場所)として機能します。
※参考資料 あきた青年公論 2024第121号 ひろば 「空の入口へ」
-テーブルゲームが秋田にどのような良い影響をもたらすと考えていますか?
木村さん:秋田県が抱える問題として少子高齢化と自殺率、県外流出率の高さが問題となっています。まず少子高齢化によって世代交流が激減し、人々のコミュニケーションの場がどんどん無くなっています。また核家族化が進みアパートやマンションに住む人達は増え、昔みたいに近所の子供達が公園や空き地に集まって遊ぶということも少なくなっています。
秋田県の人口減少率は日本一で、年間1万人以上も減っています。そして秋田県は自殺率がとても高いです。これらを端的に表すなら景気が悪い・遊び場がないと言ったところですね。秋田弁でいうなら「おもしぇぐねぇ!!(面白くない)」の一言です。
景気悪化の背景には日本経済全体の競争力低下もありますが、秋田県は外貨獲得手段の不足も原因なのではないかと考えています。
話は変わりますが、私の知り合いに、岐阜県に住み自殺防止活動をしている、住職の根本一徹(ねもと・いってつ)さんがおり、私は12年ほど前からその活動のサポートをさせていただいております。
根本さんいわく、「たとえば自殺を考える人について-10から+10まで段階を分けるとします。+10の段階の人は自殺と無縁。ー10の人は今にでも・・というイメージで考えてください。この区分けで例えると、相談員がサポートして助けられるのは-6~-7の段階程度までです。そこで、どうすれば-7以下にならない仕組みを作れるのかを考えました。その結果、自殺防止活動においてサードプレイスの存在は非常に重要という結論に至りました」とのこと。
変化のない日常生活で一人思い詰めてしまうのが自殺の主な要因であり、それをほぐすのがサードプレイスなのです。これはまさに、今の秋田に必要とされているのではないでしょうか?
-確かに今の秋田の取り巻く状況を考えるとテーブルゲームが非常に重要になってきますね。
木村さん:様々な魅力を持つテーブルゲームがサードプレイスの提供だけでなく、自殺予防や年配の方達の認知症予防に大きく貢献できると考えています。
-先ほど秋田県は外貨獲得手段が不足しているとおっしゃっていましたが、テーブルゲームとどんな関係がありますか?
木村さん:秋田県というより日本全体が国際化で大きく後れを取っています。特に秋田は日常での国際交流機会が不足している印象です。テーブルゲームはドイツ・フランス・韓国・台湾でとても大人気で、秋田で地元の人とテーブルゲームで交流できる拠点を作れば、テーブルゲームを通じて外国人と非言語的コミュニケーションを築く機会を創ることができると考えています。
秋田県は四方を海と山で囲まれた、言わば「陸の孤島」です。この地元を陸の孤島から空の入り口にしたいと考えております。
-つまりターゲットはインバウンド(訪日外国人観光客)ですね。
木村さん:その通りです。現在我々は秋田県の観光をテーマにしたテーブルゲームの開発を進めています。大曲の花火や田沢湖といった既存のコンテンツも大事なのですが、全国的にあまり知られていない観光資源や祭りにフォーカスしたゲームを作っています。
本日サンプルを用意できなかったのですが、現在は秋田県の観光をテーマしたゲームを制作中です。たとえば竿灯(かんとう)や大曲の花火、横手のかまくらなど、県内にある様々な観光スポット、観光イベントをゲームを通じながら学んでもらうものです。クラウドファンディングでの資金調達を達成したあかつきには秋田県内すべての小学校へ寄贈させていただく予定です。難産ではありますが、楽しく開発に取り組んでいます。
-今後の課題やビジョンを教えてください。
木村さん:現時点で1つのイベントで約60~70名の参加者が来ていますが、より多くの方々にテーブルゲームを認知していただき、外貨獲得機会の創出とサードプレイスの構築、コミュニケーションスキルの向上と機会創出を実現していきたいと考えております。そのためにも活動範囲を広げ、県内各地でイベントを行う予定でいます。
ただ、イベントを続けるにはどうしても「お金」の問題が発生します。参加者の方々にはテーブルゲームの魅力を体験していただきたいので、参加料をいただくことは考えておりません。そこでクラウドファンディングや後援・協力者を募集しています。現在後援に秋田市や県の教育委員会、ABS秋田放送、CNA秋田ケーブルテレビ、秋田魁新報社、株式会社EGENの皆様がいます。それ以外の方々とも協力していただければもっとスムーズに資金や場所の確保できるかと思います。
-「お金」の問題は結構シビアですよね。
木村さん:今計画しているのは、飲食関係の方々とのコラボを予定しています。テーブルゲームの存在をより身近にしていくには様々な団体様との繋がりも大事ですからね。
-私もテーブルゲームがやりたくなってきました(笑)。
木村さん:よければ、ここに来られているスタッフや参加者の皆さんと一緒にゲームをやってもいいですよ(笑)。
-本当ですか?。お言葉に甘えて、おすすめのゲームをやっていきます(笑)。今回はお忙しい中インタビューに応じていただき、本当にありがとうございました。
木村さん:こちらこそわざわざ取材していただきありがとうございました。
インタビュー終了後私も様々なテーブルゲームで遊びましたが、特に面白いと感じたのが、「ディンゴの夢(Dingo’s Dream)」です。一言で説明すると、ビンゴゲームとスライドパズルをミックスさせたようなテーブルゲームで、基本的にビンゴゲームと同じように縦・横・斜めを揃えたり、カードの指示と同じ場所をビンゴ状態にしたりすることを目的としています。その際必ずパネルが1枚余るようになっていて、その余ったタイルで5×5に置かれたタイルを押し出していくので、ビンゴのように運任せなだけでなく、自分で考えながらスライドしていくパズルゲーム的な要素が発生します。
なぜタイトルに「夢」があるのか、それはモチーフとなったオーストラリア先住民の文化”Dreaming”(夢を見る)から来ており動物もコアラやディンゴ(オーストラリアの野犬)、カンガルーといったオーストラリア固有の動物が絵柄に使われているからです。
2~4人用で各プレイヤーは、夢の世界で自分の動物をより早く導くことを競いあっていくというシンプルながらも非常に奥深いゲームでした。
取材をしつつ、私自身も実際に色々な方々とテーブルゲームで遊び、童心に帰ることができました。及ばずながらTxGAMEの活動に貢献できれば幸いです。
関わりしろ
■イベント開催の後援・協力
・県内外・海外から参加できるイベントを開催するための場所の提供
・イベント開催のための資金の援助
・イベントでコラボをしてくださる飲食業・アーティスト活動をされている方
・ボランティア運営スタッフ
■イベントに参加したい方
・ボードゲームのイベントに興味があり参加したい方
・ボードゲームを通して参加者とコミニュケーションを取ってくださる方
公式サイトURL:https://txg.jp/ja/
公式X(Twitter)アカウント:https://x.com/TxGAME_AKITA
イベント開催予定表URL:https://docs.google.com/spreadsheets/d/14roOdnMm4kdnL64OWkXdgMJ_qSampUuzr-tvEGeGhb4/edit?gid=0#gid=0
予約不要
開催時間:9:30-20:30
開催場所
1.秋田市文化創造館
所在地:〒010-0875 秋田県秋田市千秋明徳町3-16
駐車場無し 文化創造館正面にある秋田芸術劇場ミルハスもしくは徒歩5分圏内にある秋田市公営駐車場、エリアなかいち駐車場を利用。
2.みんなの実家門脇家
公式URL:https://www.all-akita-furusato.jp/introduction.html
所在地〒010-0136 秋田県秋田市上新城中片野36-35
駐車場20台程度
「あきたの物語(https://kankei.a-iju.jp/)」は、物語をとおして「関係人口」の拡大を図ることで、県外在住者の企画力や実行力を効果的に生かした地域づくりを進め、地域の課題解決や活性化を促進する事業として秋田県が2023年度から始めました。秋田県や秋田にまつわる「ローカリティ!」のレポーターや地域の関係者が、秋田県各地の人々の活動を取材し「あきたの物語」を執筆して秋田県を盛り上げています。