シャチでもブリでもない謎の深海魚『シャチブリ』を食べてみた 無限ヌルヌルに大苦戦
深海漁で稀に漁獲される珍魚「シャチブリ」。手に入ったので食べてみました。
謎の深海魚シャチブリ
先日、なじみの鮮魚店から「面白い魚が入荷しました」という連絡をもらいました。
DMを開けてみると、なんとも不思議な顔つきの魚の写真が表示されました。ひと目見てすぐに「深海魚だ!」と思わせる質感とシルエットに「なるほど、深海性のタラの一種かな」と思いましたが、正体を聞いてみると「シャチブリです」とのこと。
シャチブリは相模湾や駿河湾など、深海魚の漁が盛んな地域ではときどき水揚げされるものの、流通に乗ることはまずないという珍魚。自分も食べるのは初めてで、すぐに購入を決めて送ってもらうことにしました。
由来は「鯱」っぽいから
このシャチブリ、名前を聞いただけではシャチなのかブリなのかはっきりしろという感じですが、もちろんそのどちらでもありません。その名前は「鯱」に由来しています。
この鯱は海洋性哺乳類のシャチではなく、かつて日本で信じられていた想像上の生物です。現在でも、城のてっぺんに据え付ける「シャチホコ」などにその名残があります。
シャチブリは顔つきがその鯱に似ていて「鯱ぶっている」ように見えることからシャチブリと名付けられたのだそうです。
食べられるの?どんな味?
手に入ったシャチブリを調理してみると、普通の魚とは全く違っていました。
全長は1mほどあり小さい魚ではないのですが、全身がゼリー状で筋肉らしさを感じられず、とくに頭部は水風船よりも柔らかく頼りない質感です。そしてこの頭部からは無限にヌルヌルした粘液が放出され、どれだけ洗っても落としきれません。
骨は柔らかそうだったので、内臓を取ったあとそのままぶつ切りにして煮立ててみましたが、水分の多い身はあっという間に溶けてドロドロに。仕方なくそこに味噌を溶いて味噌汁にしてみましたが、旨味は感じさせるものの粘液のせいで全体が不快な食感になり、細かくて舌に触る小骨と相まって美味しく食べることはできませんでした。
今後急に水揚げが増えるということもなさそうで、食卓に上ってくることはないものと思われますが、もし鮮魚店で見かけることがあれば「怖いもの見たさ」で試してみるのはアリかもしれません。
<脇本 哲朗/サカナ研究所>