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地域まるごとホテル@三浦半島 滞在型観光攻めの一手

タウンニュース

滞在型観光攻めの一手

地域一帯をホテルに見立て、飲食や体験企画を組み合わせて地域活性化を目指す黒岩祐治県知事の肝いり事業「地域まるごとホテル@三浦半島」。現在、三崎港と横須賀市秋谷・芦名・佐島の2エリアで採択されており、各地域独自の魅力をまるごと体験できる新たな旅の構築が進む。三浦半島の課題とされる滞在型観光の推進に向けた最新の動向を探った。

横須賀「宿坊」で武士道追体験

秋谷・芦名・佐島エリアで新たな事業として採択されたのが、本来は僧侶や参拝者が宿泊する「宿坊」を切り口としたホテルプランだ。浄楽寺を拠点に鎌倉時代からの武家文化に触れながら、地場の食材や自然を楽しんでもらう。

三浦一族の武将・和田義盛が創建したとされる同寺。運慶が造像した阿弥陀三尊像と随侍する不動明王像、毘沙門天像(いずれも国指定重要文化財)を代々受け継ぎ、約830年にわたって歴史を紡いできた。

中軸になるのは、この歴史的ストーリーだ。戦乱の世に生きた武士は明日とも知れぬ命。常に己と向き合ったであろう姿を、ろうそくの明かりだけで運慶仏を拝観する「暗闇参り」や写経を通じて追体験する。

さらに、江戸時代末期の豪農・浜浅葉家の当主が残した「浜浅葉日記」に記される食材や風習、年中行事に基づく食文化を再現。近隣の飲食店「三浦半島食蔵Loriga」と連携し、当時の食事をイタリアンで味わってもらう。

宿坊体験では、料理教室を手掛ける「クックバル葉山」と釣り船を営む「佐島鶴丸」とタッグを組み、目の前の海で獲れる魚や周囲の山々で採れる野菜を調理してもらう企画も用意した。

プランを考案した同寺の土川憲弥副住職は「共通するのは『命』に触れてもらうこと。自分を見つめ直すことでリフレッシュ感を得て、人生を大切に生きる意識を高めてもらいたい」と狙いを話す。

現在、宿坊場所となる平屋建ての民家の改修工事が進んでおり、開業は7月以降を予定。事業が軌道に乗れば他の寺社にもノウハウを共有し、「寺を中心とした賑わいの創出」を図りたい考えだ。

三崎港「三崎の風情」楽しむ滞在

三浦半島の南端に位置する三崎港エリアでは、2020年から付近一帯の古商家などを活用した宿泊棟の運営を行っているミウラトラスト(株)を中心に展開される。

同社は「三浦半島の旅宿」を掲げ、港町一帯をひとつのホテルとして捉える「アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)」の概念を取り入れた観光事業を実践している。三崎地区の商店街などにある歴史的な邸宅や趣深い商家、蔵を改装した宿泊施設を6棟手掛けており、今回の事業採択を受けて7棟目の開設に踏み切る。

手を組むのは、付近にある飲食店「サカナと酒菜だ粋─DAIKI-」と海南神社、うらりマルシェほか。宿泊施設は、海南神社に向かう参道入口で長らく和食料理店だった建物を転用する。建築年数は不明だが、和の風情をそのまま生かして大人数向けの一棟貸しとして機能させていく。

現地を訪れた人たちの過ごし方として、海南神社の本殿見学や神主による三崎の歴史紹介のほか、連携している飲食店主に同行して鮮魚の仕入れを体験する「魚の目利きツアー」などのコンテンツを提供していく。

ミウラトラストが運営している既存施設の利用者は、20代の若者からファミリー層と幅広く、都内から訪れる人が大半。古い建造物とレトロ感のある港町に興味を抱く感度の高い人たちで、同社代表取締役の中川康太さんは「新しい層の観光客誘致につなげたい。訪日客の獲得にも目を向けていく」と意気込む。現在、週末を中心に客室の稼働率は100%近いが、まち全体の勢いが乏しい平日が課題。分散型ホテルの概念を広めていくことで地域に活気を呼び込むという。

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