【倉敷市】令和7年度 岡山大学資源植物科学研究所 一般公開(2025年5月10日開催) ~ 歴史ある研究所で植物のふしぎにふれてみよう
研究所と聞いて、どのような印象を抱きますか。
研究者が日々研究に勤(いそ)しみ、人類の未知と向き合う場所。その雰囲気にどこか秘密めいた印象を抱くかたもいるのではないでしょうか。
倉敷美観地区のすぐ近くにある農学系の研究所「岡山大学資源植物科学研究所」。年に一度、研究所が一般公開される機会があったので行ってみました。
普段見ることのない研究所の中身と、知的興味をくすぐられる展示や実験の数々をレポートします。
岡山大学資源植物科学研究所 一般公開について
一般公開は2025年5月10日(土)に開催されました。
当日は「植物のふしぎ」をテーマに、研究成果の紹介や、身近な植物についての実験、所内の圃場(ほじょう)見学など、大人から子どもまで楽しめる企画が数多くありました。
圃場(ほじょう)
農作物を栽培するための場所。ここでは水田や畑のことを指します。
研究所の紹介
岡山大学資源植物科学研究所の前身「財団法人大原奨農会農業研究所」は、大原美術館や倉敷絹織(現在のクラレ)などを創った大原孫三郎氏により、1914年に私立の農業研究所として設立されました。
大原家は倉敷の大庄屋。所有する水田で働く農民の福祉向上のためにも農業研究所が必要だと考え、本研究所を設立したそうです。
戦後、農地改革法により資産が半減したため、研究に要する資産を1952年に岡山大学へ寄付し、国立大学付属の研究所として再出発しました。
現在は資源植物科学研究所の名前が示すとおり、麦やイネなどの主食となる穀類や作物に関する基礎研究などをおこなっています。
当日のようす
当日は研究所内の各所を使って、研究成果についての紹介や各種見学会が開催されました。
その一部を紹介します。
土壌が農作物の発育に与える影響についての研究
「米作りは土づくりから」という言葉を、聞いたことありますか。
イネをはじめ農作物の育成において土壌の与える影響は非常に大きく、古くから研究テーマとして取り上げられています。
こちらでは土壌の栄養成分などを調整することで、イネや大麦の生育にどういった影響が出てくるかという研究の成果を紹介されていました。
別のコーナーでは、遺伝子レベルで植物に酸性土壌に対しての耐性を持たせる術についての研究紹介もありました。世界の農耕地の30〜40%は酸性土壌といわれており、このような条件下で育つ作物を作れば、食糧事情の改善にもつながります。
走査型電子顕微鏡(SEM)観察見学会
研究所には普段目にすることのない高価な実験装置も多数あります。
走査型電子顕微鏡(SEM)もそのひとつで、光学式顕微鏡では見ることのできないミクロの世界を観察できます。
今回はアリの表面を観察。ミクロの眼で見ると肉眼とはまったく違うものにみえるのも興味深いですね。
走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)
通常の光学式顕微鏡が光をそのままとらえるのに対し、光のかわりに電子線をあて、物体からの反射を検出して画像化する顕微鏡です。物体表面の微細な構造や形状を高分解能で観察できます。植物の観察だけではなく、金属などの表面を観察することも得意です。
研究所で栽培された大麦を使った麦茶の無料試飲
中庭では研究所で栽培された大麦を使った麦茶の無料試飲のコーナーもありました。
また、中庭の周辺にはさまざまな品種の麦が並べられていました。
元の品種と品種改良されたものを見比べると、品種改良することで穂のサイズも大きくなっていることに気がつきます。
また、それによって多くの麦を収穫できます。
クイズラリー
館内では、各所に置かれている問題を解いてめぐるクイズラリーも開催されました。
展示をよくみていくと答えがあります。楽しみながら知識を深められる企画ですね。
クイズラリーをクリアすると、植物のタネ(ヒマワリ、フウセンカズラ、グラスジェムコーンのいずれか)がもらえます。
史料館
敷地内にある史料館では、今回の一般公開にあわせて特別展『大原農研』の記録 -意志を受け継ぐ- を開催。
研究所が開設された当時に使っていたカメラや顕微鏡などの実験器具、大原孫三郎に宛てられた書簡などの貴重な資料が展示されていました。
創設者の大原孫三郎が、いかにこの研究所に力を入れていたかをうかがい知れました。
おわりに
筆者は普段から研究所の前をよく通るものの、今まで中に入ったことがなく、いわば近くて遠い施設でした。
昨今の米価格の高騰などにも関連する、食糧事情の改善にもつながるような研究をしているなど、子どもや一般のかたにも分かりやすいく紹介されていて、研究内容についての理解を深められました。
また、研究者も多国籍で、特にアフリカ系のかたが多く在籍していたことがとても印象に残っています。
帰国後は母国の食糧事情を改善するための一翼を担うのかと思うと、胸が熱くなりますね。
農業のイノベーションを倉敷から、人々の生活を豊かにするべく研究者たちの終わりなき挑戦は続きます。