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『神話に登場する機動兵器』天空の城ラピュータ、ヴィマナ、ナグルファルとは

草の実堂

ヴィマナ
画像 : イギリスの強力な戦艦「ドレッドノート」 public domain

機械は、文明が生み出した最たる利器である。

人類は、既存の道具を機械化することで、その機能や利便性を飛躍的に高めてきた。

たとえば船に蒸気機関を搭載し「蒸気船」とすることで、大洋を越える長距離航海が現実のものとなり、他国への侵攻すら可能となった。

やがて攻撃側は「軍艦」を建造し、防御側は対抗して「要塞」を築くなど、機械の力は軍事にも応用されていった。
こうした発想は神話や幻想の世界にも投影され、各地には巨大戦艦や自律的に動く要塞といった伝承が語り継がれている。

今回は、そうした人知を超えた「機動兵器」の伝承について解説していく。

1. プシュパカ・ヴィマナ

画像 : プシュパカ・ヴィマナ public domain

プシュパカ・ヴィマナ(Pushpaka Vimana)は、インド神話に登場する空飛ぶ宮殿である。

古代インドの文学作品『ラーマーヤナ』にて、その存在が言及されている。

ヴィマナは元々、財宝の神クベーラの所有する宮殿であり、意のままに何処へでも行くことができる、便利な乗り物であったそうだ。

ところがクベーラが住まうランカー島(現在のスリランカ・セイロン島)を、ラーヴァナという魔王が襲撃し、島と共にヴィマナも奪い取ってしまったという。

ラーヴァナは圧倒的に強く、誰一人として敵う者はいなかったとされる。

こうして、魔王軍を組織し各地で悪行を働くラーヴァナであったが、偉大なる英雄ラーマの妻、シータを誘拐してしまったのが運の尽きであった。

ラーマとその仲間たちはランカー島に攻め込み、ラーヴァナの軍勢を壊滅状態に追い込んだ。
無敵のラーヴァナも、ラーマの奥義「ブラフマーストラ」には敵わず、とうとう討ち取られることになる。

そしてラーマとシータはヴィマナに乗り、故郷へと帰って行ったと伝えられている。

2. ナグルファル

画像 : ナグルファルの切手 アンカー・エリ・ペーターセン作 public domain

ゲルマン民族に伝わる神話、いわゆる「北欧神話」には、様々な船舶が登場する。

なかでも「戦艦」と呼ぶにふさわしい存在の一つが、ナグルファル(Naglfar)である。

北欧神話には、世界の終焉を描いた「ラグナロク」というエピソードが存在する。
ラグナロクは、神々の住まう土地に様々な怪物や勢力が攻め込み、敵も味方も一人残らず戦死するという壮絶な物語だ。

この戦いにおいて神々と対峙する勢力のひとつが、炎の国ムスペルヘイムに住む巨人たち「ムスッペル」である。
彼らが所有する軍艦こそが、ナグルファルなのだ。

ナグルファルは、大量の「死人の爪」を材料として作られた、かくもおぞましい船だという。
この爪は、死者の国の女王「ヘル」が集めたものだとされる。

『古エッダ』や『散文のエッダ』などの古文献は、ムスッペルたちがナグルファルに乗って世界を蹂躙するさまを記している。

古代ゲルマン人は、ラグナロクが未来に実際に起こる出来事だと考え、ナグルファルが造られることがないよう、死者が出た際は必ず爪を切ってから埋葬していたという説がある。

3. ラピュータ

画像 : ガリバーとラピュータ J・J・グランヴィル作 public domain

ラピュータ(Laputa)は、空飛ぶ要塞島である。

かの超人気アニメ映画「天空の城ラピュタ」に登場する、「ラピュタ」の元ネタになった存在として名高い。

アイルランドの作家ジョナサン・スウィフト(1667~1745年)の著作『ガリバー旅行記』にて、その存在が語られている。

ガリバー旅行記といえば、小人の国のエピソードが有名であるが、主人公のガリバーはその他にも、巨人の国や馬人間の国など、様々な国へと訪れている。
なんと我が国、日本にも来たという設定があり、作者の見聞の広さに驚かされる。

さて、件のラピュータはガリバー旅行記の第三部に、次のような形で登場する。

(意訳・要約)

ガリバーは、冒険を愛する男だった。
これまでにも数々の国を訪れては散々な目に遭ってきたが、それでも彼の冒険心は衰えなかった。

1706年、またしても航海に出たガリバーだったが、嵐に巻き込まれ、さらには海賊に襲われて船を奪われてしまう。
やがて小さなボートに乗せられ、ひとり海に放り出された彼は、無人島に流れ着く。

死を覚悟したそのとき、空から突如、巨大な「空飛ぶ島」が現れ、ガリバーを救出した。
この島の名は「ラピュータ」。住民は高度な科学技術を持ちながらも、科学を妄信するあまり他のことには無頓着で、理性と合理のバランスを欠いた者たちであった。

ラピュータは地上の国「バルニバービ」を支配していた。
バルニバービでは圧政に苦しむ民衆が反乱を起こすこともあったが、ラピュータは上空から太陽や雨雲を遮ったり、石を落とすなどして強引に鎮圧していた。

また、バルニバービでは、ラピュータの科学に憧れたエセ科学者たちが実験を繰り返していた。
しかし、彼らの農法は役に立たず、豊かな土地は荒廃していく。

また、言葉の代わりに「物」を使って会話しようとしたり、暴力で約束を守らせるといった、常軌を逸した試みも横行していた。

ラピュータもバルニバービも、まともに機能していない社会だった。
そんな国に長くいる価値はないと判断したガリバーは、そこからの脱出を決意する。

このエピソードには、18世紀ヨーロッパのさまざまな社会批判が込められている。

たとえば、「感情よりも理性を優先すべきだ」とする啓蒙思想、役に立たない研究に熱中する王立協会(イギリスの科学団体)、そしてロンドンに支配されていたアイルランドの状況などが、物語の背景として風刺されているのだ。

機械は時に、支配や破壊の象徴としても語られてきた。

こうした神話や物語に登場する「機動兵器」は、単なる幻想ではなく、人類が機械とどう向き合ってきたかを映し出す鏡なのかもしれない。

参考 : 『ラーマーヤナ』『古エッダ』『ガリバー旅行記』他
文 / 草の実堂編集部

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