戦後80年!戦勝国アメリカのハリウッドが描いた太平洋戦争映画5選「硫黄島からの手紙」…
太平洋戦争の終結から80年が経過しようとしている。終戦前に生まれた人、つまり80歳以上の日本の人口は全体の10パーセント。戦争を記憶している当時5歳以上の人、すなわち85歳以上となるとその数は半減する。実体験として戦争を語れる人が減っているのは仕方がないが、それは語り継いでいかなければならないこと。
その手段のひとつに戦争映画がある。1980年代なら『連合艦隊』(1981年)や『大日本帝国』(1982年)、そして戦後40周年を記念して製作された『ビルマの竪琴』(1985年)といった邦画の大作が、太平洋戦争を描いた作品としては記憶に残るところだろう。しかし、今回編集部から下された原稿のテーマは洋画5選。これを1980年代以前の作品に見出すのは難しい。というか、無理。
戦勝国であるアメリカが反戦というテーマを映画にガチで盛り込むようになったのはベトナム戦争以降で、1980年代のハリウッドでは自国の戦争を総括することが先んじられていたのは、『プラトーン』(1986年)の例を出すまでもない。とはいえ時が経つにつれて、ハリウッドも冷静に、太平洋戦争を分析した秀作を送り出すようになった。本稿では今観ても骨っぽさを感じるハリウッド製太平洋戦争映画をピックアップする。
シン・レッド・ライン(1998年 / 監督:テレンス・マリック)
兵士の疲弊をドキュメンタリータッチでとらえた映像
名匠テレンス・マリックが20年ぶりにメガホンを取った本作は、太平洋戦争の激戦地として有名なソロモン諸島、ガダルカナル島の戦いを題材にしている。この島で日本軍と戦った兵士たちが、どれほどの恐怖を経験したのか? その過程で何を失ったのか? 兵士の疲弊をドキュメンタリータッチでとらえた映像は、戦勝国の兵士が、イコール勝者ではないことを物語っている。哲学的な視点で大戦を見つめ直した逸品。ベルリン国際映画祭では最高賞の金熊賞を受賞した。
ウィンドトーカーズ(2002年 / 監督:ジョン・ウー)
ニコラス・ケイジ主演、戦争が人間にもたらすカオス
香港アクションの鬼才ジョン・ウーがハリウッドで手がけた第5作。『フェイス / オフ』(1997年)に続いてニコラス・ケイジを主演に迎え、1944年のサイパン島での戦闘を描き切った。ネイティブアメリカンの通信兵を護衛する任務を与えられた主人公は、ソロモン諸島での戦闘で多くの戦友を失い、また自身も重傷を負ったことから日本兵を激しく憎んでいる。一方で、野営地の日本人の子どもに優しく接する。本来の彼は、カトリックを信奉する “いいヤツ” なのだ。これだけを見ても、戦争が人間性にカオスをもたらすことがよくわかる。
硫黄島からの手紙(2006年/ 監督:クリント・イーストウッド)
イーストウッドが見据えた戦時下のヒューマニズム
2度のアカデミー賞に輝く巨匠クリント・イーストウッドが、日本兵の視点に立ち、1944年から終戦までの硫黄島での戦闘を検証。実在の陸軍中将である栗林忠道(渡辺謙)が、圧倒的な劣勢の中でどう動いたのか? 当時の軍人には珍しく、彼は部下への体罰を禁止し、無駄な玉砕を避け、兵士たちを少しでも長く生きらせるために持久戦に重点を置いた。イーストウッドは、そんな彼の戦時下でのヒューマニズムを見据えてドラマを構築。栗林の部下に扮した二宮和也の好演も忘れ難い。アメリカ側から、この戦闘を描いた『父親たちの星条旗』と併せて観て欲しい。
ハクソー・リッジ(2016年 / 監督:メル・ギブソン)
大戦末期の沖縄戦にスポットを当てたメル・ギブソン監督作品
俳優のメル・ギブソンは映画監督としても知られており、アカデミー賞受賞作『ブレイブハート』は有名なところ。そんな彼が監督に専念し、大戦末期の沖縄戦にスポットを当てたのが本作。主人公のデズモンド・ドスは実在の人物で、戦場で人を殺すのではなく、救うことを選んだ衛生兵だ。クリスチャンの教えに従って、銃を持つことを拒否した彼は逆境に屈することなく兵役試験をパス。1945年5月に沖縄に送られた。次々に倒れていく米軍兵士75名の命を救うのみならず、重傷を負った日本兵をも救う。戦場のカオスに置かれても狂気に駆られることなく信念を貫いたその精神は、どんな兵士よりも強いのではないだろうか。
ミッドウェイ(2019年 / 監督:ローランド・エメリッヒ)
日米双方の視点がバランスよく取り入れ戦争という状況のパノラマを描き切る
1942年のミッドウェイ海戦は1976年に『ミッドウェイ』のタイトルで一度映画化されているが、アメリカ寄りの視点が強調されており、日本人としては少々微妙な気分になった。それに比べると、同じ題材の本作は日米双方の視点がバランスよく取り入れられている。
海戦へと至る日米双方の戦略を緻密にたどりながら、そこでどんな戦闘が行なわれたのかを再現。無線傍受やその分析といった前哨戦から海戦のスペクタクルまで、大きなスケールで見せてくれる。一方では、戦場に臨む兵たちの共感意識や恐怖心の描写も。監督のローランド・エメリッヒは『インデペンデンス・デイ』などの大作で知られているが、彼らしいスペクタクル描写はそのままに、戦争という状況のパノラマを描き切った。
“戦争とは、人を殺すこと” とは『ハクソー・リッジ』の劇中セリフ。なので当然、これらの作品には正視に耐えない暴力的な描写もあるが、だからこそ反戦のメッセージも伝わってくる。世界を見まわすと戦争はつねにどこかで起きてきたし、今現在も “人を殺すこと” は行なわれている。日本は幸いにして、80年にわたりこの状況から遠ざかることができた。しかし、この先のことはわからない。これらの映画のメッセージが、さらに多くの人に届くことを願う。