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ブリ・ヒラマサ・カンパチなど【ブリにそっくりなサカナ全7種の見分け方を図解】

TSURINEWS

ブリに似た魚たち(提供:椎名まさと)

日本に生息するブリ属の魚は、ブリ・ヒラマサ・カンパチ・ヒレナガカンパチの4種です。いずれも重要食用魚でありますが、「見分け方がよくわからない」という方も多いかと思われます。今回はブリ属4種の見分け方と、ブリ属に近縁な魚の見分け方をご紹介します。

(アイキャッチ画像提供:椎名まさと)

ブリ属とは

ブリ属は、スズキ目アジ科の属です。マアジなどとは別の亜科となり、体側にある稜鱗(ぜんご、ぜいご)がなく、体側には黄色い縦帯があります。

大型種が多く、日本に生息するブリ属魚類はいずれも重要産業種です。しかしながら4種は互いに似ており、特にブリとヒラマサ、カンパチとヒレナガカンパチは互いに極めてよく似ています。

ブリ(Seriola quinqueradiata)

まずはブリ。この魚はブリ属の中でももっとも日本人になじみの深い魚といえるものです。北海道から鹿児島県までほぼすべての沿岸に分布しています(沖縄ではまれ)。

島根県産のブリ(撮影:椎名まさと)

海外では朝鮮半島、ロシア東岸に見られるのみで、アジアの大陸棚に生息する種です。

体長1mほどになる大型魚ですが、それでもヒラマサやカンパチの大型個体よりは小さいと言えるでしょう。ブリは美味しい魚であり、さまざまな料理で賞味されています。

ブリの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

ブリの特徴はまず眼がやや下方にあること(吻端を通る体軸よりも眼が下のほうにある)、眼を通る斜め帯の模様がないことです(「ブリの同定ポイント図」の1)。

これによりカンパチとは容易に識別できます。

ブリ(左)とヒラマサ(右)の上顎後端(撮影:椎名まさと)

ヒラマサとは上顎後端が角ばっていることで見分けることができます(図の2および上写真)。

また、胸鰭と腹鰭が同じくらいの長さであることでも見分けることができます(ヒラマサでは胸鰭は腹鰭より短い/図の3)。

黄色帯は細く、ヒラマサほど明瞭ではないことが多いです。

もじゃこ漁で採集されたブリ稚魚(撮影:椎名まさと)

産卵期は冬~春で、春~初夏に流れ藻について泳ぐ稚魚(もじゃこ)を採集し、これをブリ養殖の種苗とします。

もじゃこの体側には黒色の横帯が出ていますが、これは成長すると薄くなり、やがては消えてしまいます。

ヒラマサ(Seriola aureovittata)

従来は(局所的ではあるものの)世界の温帯海域に生息するとされたヒラマサではありますが、近年は3種に分けられています。

日本産のヒラマサの学名も”Seriola lalandi”から変更されており、昔使われていた”Seriola aureovittata”という学名が復活しています。ヒラマサの分布域は北海道から九州までの各地沿岸、瀬戸内海、伊豆、小笠原諸島、屋久島。海外では朝鮮半島、ピーター大帝湾、山東半島に分布していて東アジア特産種といえます。

長崎県産のヒラマサ(撮影:椎名まさと)

一方、”Seriola dorsalis”は北東太平洋(アメリカ西海岸)、”Seriola lalandi”はアルゼンチン、ブラジル、チリ、トリスタンダクーニャ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど南半球に分布します。

食用になり「ブリ属の中でも最もうまい」という人もいます(筆者も)。ただし本種はシガテラ毒をもつこともあり、大型個体は注意が必要です。

Seriola lalandiは全長193cmにもなるとされます。なお、『沖縄さかな図鑑』においては本種が沖縄に分布することは示されていないものの、極めて稀ながら沖縄県からの記録もあるようです。

ヒラマサの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

眼がやや下にあり、眼を通る帯もなくブリによく似ていること(「ヒラマサの同定ポイント図」の1)、ヒラマサでは上顎後端がまるいこと(ブリでは角ばる/図の2)、普通、胸鰭は腹鰭より短いこと(ブリではほぼ同長/図の3)により見分けられます。なお、上顎の特徴はブリの項をご参照ください。

また体側の黄色縦帯はヒラマサの方が明瞭で太く出ています。この黄色縦帯と胸鰭の位置関係で、黄色縦帯と胸鰭の間に隙間ができるのがブリ、隙間がないのがヒラマサともされますが、ブリでも隙間がないこともあり、注意が必要です。

ブリとヒラマサの自然交雑個体について

近年は山口県北部の日本海沿岸においてブリとヒラマサの中間的な個体が漁獲されるようになり、mtDNAを用いた雑種判別を行ったところ、中間的な特徴を示した31個体中28個体が交雑による「雑種」、その28個体中25個体がF1、3個体がヒラマサ方向への戻し交雑であることが判明したというデータもあります(Takahashi et al. 2021)。

現在は雑種形成が進行中とされていますが、これについては「親となっている種のどちらかが急速な分布の変化を示した」という仮説がたてられており(Takahashi et al. 2021)、日本海の海水温上昇によりブリの分布域の拡大という気候変動による影響や、ブリのバイオマスの急速な増大が示唆されます。そして雑種F1個体が少なくとも部分的に繁殖能力があるとも示唆されており、今後も調査が必要です。

なお、「雑種が少なくとも部分的に繁殖能力があることも示唆」されているということは、現在行われているブリとヒラマサの人為的な交雑個体(通称ブリヒラ)が海面養殖されていることが気にかかるところです。故意による放流は論外ですが、嵐などで交雑個体が逸脱しないよう細心の注意をはらう必要があります。

カンパチ(Seriola dumerili)

全長1.5mを超える大型のブリ属魚類です。日本産のカンパチの学名は従来”Seriola purpurascens”とされましたが、現在は大西洋産のものと同一種とされ、地中海のニースを基産地とする”Seriola dumerili”という学名が充てられることが多いです。

鹿児島県産のカンパチ(撮影:椎名まさと)

日本では各地沿岸に生息しています。沖縄県でも見られ、沖縄県で水揚げされるのはほぼカンパチか、ヒレナガカンパチです。

身は刺身にして非常に美味です。ただし、英語名ではGreater amberjack、またはGreater yellowtailと呼ばれる通り188センチにもなる巨大種で、シガテラ毒をもつこともあるらしく大型個体を食する際は注意が必要とされます。

カンパチの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

カンパチとヒレナガカンパチはほかのブリ属と比べると眼の位置がやや高いところにあり、頭部には眼を通る黒い斜帯が入るという特徴があります(「カンパチの同定ポイント図」の1)。

これを八の字に見立て「間八」と呼ぶようになった、とされましたが、成魚ではこれが薄くなるため注意が必要です。

ヒレナガカンパチとの見分け方は背鰭の形と尾鰭の色彩で、カンパチは背鰭の前方がのびずカマ状にならないことや(図2)、尾鰭下葉先端が白くなることでヒレナガカンパチと見分けられます(図3)。

ただし尾鰭下葉の色彩はわかりにくいこともあります。

ヒレナガカンパチ(Seriola rivoliana)

カンパチによく似た南方系の大型種です。学名”Seriola rivoliana”は大西洋産で、記載が不明確な種のものであるとされ、西太平洋(南シナ海)~インド洋のものについては”Seriola songoro”という学名が与えられることもあります。ただしSmith’s Sea Fishesでは”Seriora songoro”は”Seriora rivoliana”のシノニム扱い。

突き漁で漁獲されたヒレナガカンパチ(撮影:椎名まさと)

琉球列島ではカンパチよりも太っており身質がよいとされます。ただ筆者はここで紹介している魚についてはほぼすべて食していますが、残念なことにこのヒレナガカンパチだけはいまだ食することは叶っておりません。

なお背鰭はほかのブリ属同様2基ありますが、写真ではうまく写っていません。

ヒレナガカンパチの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

ブリやヒラマサに比べ眼が上の方にあり、眼を通る暗色帯がある事から(同定ポイント図1)、カンパチによく似ております。

第2背鰭の前の方は高くのびており「カマ状」になること(図2)、尾鰭下葉先端が白くないことで見分けられます(図3)。

ブリ属によく似ている別属の魚3種との見分け方

ここからは、ブリ属に似ている魚を3種解説します。

ブリモドキ(Naucrates ductor)

ブリモドキ属の魚はブリモドキのみですが、世界中の温帯・熱帯海域に生息し、日本では北海道以南の各地の沖合に見られます。

愛媛県のブリモドキ(撮影:椎名まさと)

外洋性の魚で大型のサメなどについて泳ぐことでよく知られています。全長50cmほどになりますが普通はもっと小さいです。身はやわらかいものの、刺身や揚げ物などにして美味しい魚です。

ブリモドキの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

ブリ属とブリモドキの大きな違いとしては第1背鰭にあります。

ブリモドキの第1背鰭は小さな棘条のみからなり、棘条をつなげる鰭膜がありません(「ブリモドキの同定ポイント図」の1)。体側にはブリの幼魚のように目立つ横帯がありますが、この横帯は成魚でも消えません(図2)。

アイブリ(Seriolina nigrofasciata)

アイブリはアイブリ属の魚で、ブリモドキ属同様1属1種のみとされます。

鹿児島県産のアイブリ(撮影:椎名まさと)

古くは「ねったいぶり」とも呼ばれた種で、南方系の種です。しかしながら日本においては沖縄のほか、新潟県以南の日本海および茨城県以南の太平洋沿岸でも漁獲されており、やはり身はやわらかいものの刺身などにして美味です。

アイブリの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

本種の特徴としては吻がブリ属に比べ明らかにまるくて短いこと(「アイブリの同定ポイント図」の1)、体側に斜めに入る黒色帯があること(成魚では不明瞭/図2)があげられます。

ブリモドキともよく似ており、しばしば間違えられますが、第1背鰭はブリモドキと異なり鰭膜を有しているので容易に見分けられます(図3)。またブリモドキは体側の帯は斜走帯ではなく明瞭な横帯であることでも区別できます。

ツムブリ(Elegatis bipinnulata)

ツムブリもまた1属1種の魚です。全長1mを超える大型種で、食用となり刺身などでかなり美味な魚です。

愛媛県産のツムブリ(撮影:椎名まさと)

南方系といえますが、千島列島からの記録もあり、日本では青森県以南の日本海・太平洋沿岸に分布しています。国外でも全世界の温帯・熱帯海域に分布します。

ツムブリの同定ポイント図(撮影:椎名まさと)

体側にはブリ属にはない青い縦線が走り(「ツムブリの同定ポイント図」の1)、Rainbow runnerという洒落た英語名がついています。

ブリ属に似ているものの、第2背鰭および臀鰭のそれぞれ後方に小離鰭があるのが特徴です(図2)。第1背鰭は小さいものの鰭膜があります(写真の個体は鰭膜が破れている)。

主要参考文献

久新健一郎・尼岡邦夫・仲谷一宏・井田 斉・谷野保夫・千田哲資.1982.南シナ海の魚類.海洋水産資源開発センター,東京.335pp.

中坊徹次編. 2018. 小学館の図鑑Z 日本魚類館.小学館.東京.528pp.

下瀬 環.2021. 沖縄さかな図鑑.沖縄タイムス社,那覇.208pp.

Smith M.M. and P.C. Heemstra (eds.) 1986. Smiths’ sea fishes. Springer-Verlag Berlin.ⅩⅩ+1047 pp.

Takahashi H T. Kurogoushi R. Shimoyama and H. Yoshikawa (2020). First report of natural hybridization between two yellowtails Seriola quinqueradiata and S. lalandi. Ichthyological Research. 68:139-144.

(サカナトライター:椎名まさと)

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