上野水香が神奈川県民ホール開館50年&休館前に感謝の思いを込めてバレエ・ガラ公演「Jewels from MIZUKA 2025」をプロデュース~「温かい舞台にしたい」
神奈川県民ホール開館50年を祝い、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルでかながわ観光親善大使も務める上野水香がプロデュースするバレエ・ガラ公演「Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」が2025年3月8日(土)神奈川県民ホール大ホールにて催される。2014年の初回、2018年の第2回に続く3回目の本公演では、日本を代表するバレリーナ上野と彼女の信頼厚い仲間たちが集い"宝石箱"のように多彩な魅惑の詰まった舞台を披露。上野はモーリス・ベジャール振付『ルナ』に初挑戦するほか4作品を踊る。また、本公演は、4月以降休館することになった神奈川県民ホールの休館前イベントとして令和7年3月に神奈川県主催で実施する「ありがとう神奈川県民ホール」のメイン公演でもある。上野に、過去2回の軌跡と今回の公演に向けての抱負を聞いた。
■地元の神奈川県民ホールで重ねた、プロデュース公演の軌跡
――この度プロデュース&出演される「Jewels from MIZUKA 2025 ジュエルズ・フロム・ミズカ 2025」は、神奈川県民ホール50年を祝うと同時に、休館前イベント「ありがとう神奈川県民ホール」のメイン公演となります。企画を聞いたときの率直な気持ちを聞かせてください。
お話をいただきうれしかったです。神奈川県民ホールは、神奈川県民である私にとって子供のころから一番近くにある大きな劇場だったので、海外の有名バレエ団や日本の一流バレエ団の公演があると観に行っていました。なじみのある劇場で座長公演ができるのは初回のときからありがたく、家族や仲間、自分を見出してくれた地元の方々といった周囲に対する感謝の念が沸き起こります。休館は寂しいですが、休館前イベントのメインを飾ることができて光栄です。
――過去2回、ご自身で出演者を決めたり、演目を選定されたりされました。実際に公演プロデュースをされてみて、いかがでしたか?
座長公演に憧れていたので、やりたかったことを全部詰め込みました。ローラン・プティさんの作品、古典作品など、私にとっての大切な作品を入れました。そして、東京バレエ団の皆にも普段の舞台では見えていない違った一面を出せる演目を踊ってもらったり、ご縁のある海外からのゲストの方にも出ていただいたりして豪華な公演になりました。
――2024年11月の記者会見の席上、東京バレエ団の後輩たちから「水香さんの教え方は分かりやすい」と言われたとおっしゃいました。何を心がけたのですか?
私は何か指示を出す場合、機械的に言うのではなく理由を具体的に伝えます。たとえば「正面を向くのではなくて、ちょっと斜めに構えてほしい」というとき「私たちの身体は欧米人のように厚みがないから、身体の使い方により気を付けて立体感を出すためにやるんだよ」と。私自身、納得のいく動きしかしたくないので、どうすれば皆が納得いくのかが分かるんですよ。
――過去2回、東京バレエ団の団員に創作を依頼して新作を発表しているのも新鮮ですね。
東京バレエ団が「The Tokyo Ballet Choreographic Project(コレオグラフィック・プロジェクト)」(2017年~)を始める以前からですね。神奈川県民ホール年末恒例の「ファンタスティク・ガラコンサート」で踊る新作も団員にお願いしてきました。私は人生そのものが「自分を発見するための時間」だと思うんです。いろいろな人と接したり、さまざまな経験をしたりして最終的に死ぬ前に「自分ってこういう人だったんだな」と発見するのではないかと。その意味でも、バレエは自分の表現を発見する時間であってほしい。私は、その人にしかできない表現を発揮してほしいという気持ちを持って舞台を創ったり、指導したりしています。
――座長として踊るだけでなくプロデュースも手がけるとなると当然ハードですね。
時間的にも身体的にも大変です。初回に関してはバレエ団が大分オーガナイズしてくれたのですが、前回はゲストをたくさんお呼びしたので、そのやり取りなどもあって朝から晩まで神奈川県民ホールのスタッフの方とやりとりをしました。大変な日々でしたが、達成感があるというか、出演者それにお客様が喜んで楽しかったという顔をしてくれるのがうれしいですね。
■7年ぶり3回目となる待望の公演に向けて
――3回目となる今回のプログラミングでこだわっている点はどこですか?
初回のようにやりたいことすべてを詰め込むのではなく、さまざまな方の意見もお聞きしながら最終的に今の形になりました。今回も東京バレエ団の後輩がたくさん出てくれます。「Jewels from MIZUKA」では、彼ら彼女たちがバレエ団公演で踊るのとは違った一面をお見せしたい。良い意味での「らしさ」を出して、のびのびと踊ってほしいというのが私の願いです。いっぽう、ゲストに関しては自然とご縁で決まりました。
――親交があり共演を重ねる柚希礼音さん(女優、元 宝塚歌劇団星組トップスター)が登場するのも話題です。
「Jewels from MIZUKA」をやるたびに柚希さんをお誘いしていたのですが、今回ついに実現します。柚希さんのコンサート「REON JACK」で共演している辻本知彦(※「辻」の字はしんにょうの点がひとつ)さんの振付のデュエット『逢いたくていま』を踊ります。デュエットといっても、バレエダンサーの男性と踊るパ・ド・ドゥとは味わいが違うので、必ず楽しんでいただけると思います。柚希さんが男役っぽく見えたり、私たちが女性同士の親友に見えたり、魂のような存在同士に見えたりと、いろいろな瞬間があって素敵です。最終的には「二人がいつも同じ思いでいるんだ」ということが踊りを通して伝わるかと。私たちはいつも踊り終えると泣いて感動しているくらい思い出深い作品です。男女とかを超えた、人間同士の関係を出せるのが理想です。
――新作『パリのアメリカ人』(振付:ブラウリオ・アルバレス)も踊ります。
昔、恩師の小倉佐知子先生が発表会で『パリのアメリカ人』を振付してくださり好きでした。クリストファー・ウィールドンが演出・振付したミュージカルもブロードウェイで観ていますが、私はガーシュウィンの音楽が好きです。洒落た雰囲気のバレエをやりたいので、街中で男女が自然体で舞うような空気感を出せればかっこいいですね。パートナーは厚地康雄さん(元 英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団プリンシパル)。爽やかに粋な感じで踊りたいです。
■ベジャールの名作『ルナ』にも挑戦!
――モーリス・ベジャール振付『ルナ』(音楽:ヨハン・セバスチャン・バッハ)にも初挑戦します。上野さんといえば巨匠ベジャールの代表作『ボレロ』の主役"メロディ"が代名詞のようになりましたが、『ルナ』を踊るに至る経緯とは?
お世話になっているスタッフの方の提案ですが、以前ウラジーミル・マラーホフさんに勧められたこともありました。私はシルヴィ・ギエムさんに憧れていますが、ギエムさんのドキュメンタリーに『ルナ』を踊る場面が出てきます。メランコリックで哀愁を帯びた音楽が流れる中、白の総タイツ姿での踊りが青いライトの下で繰り広げられます。いつ見ても涙が出ます。他のベジャール作品と比べて圧倒的に透明感があるので、深い精神性を出したいですね。指導してくださるジル・ロマンさん(ダンサー、振付家、元 モーリス・ベジャール・バレエ団芸術監督)からは初演者のルチアナ・サビニャーノさんが踊る映像を渡されました。緩急のある動きを通して一つの人生が伝わればいいですね。ジルさんにしっかりと指導いただき練習した上でお見せします。
――他に「『ドン・キホーテ』より」も踊り、東京バレエ団と共演します。初回でも踊った作品をあらためてという感じでしょうか?
いつも組んでいる柄本弾くんと踊ります。楽しい感じになれば。東京バレエ団のプリンシパル、ソリストの人選に関しては、岡崎隼也くんに新作2つを創ってもらうので彼に選んでもらったダンサーと、私が推薦したダンサーたちが出てくれます。
――他にも多彩なゲストが出演されますね。
中村祥子さん(元 ベルリン国立バレエ団プリンシパル、Kバレエトウキョウ名誉プリンシパル)や吉岡美佳さん(元 東京バレエ団プリンシパル)もご縁が深いので出ていただきます。祥子さんとは一緒の舞台に出たいねと話していました。美佳さんは特別ゲストのジルさんとも踊り、ジルさん振付の『ニヴァゲーション』よりパ・ド・ドゥで大人の芸術を魅せてくれるでしょう。
――公演に向けての意気ごみ、お客様へのメッセージをお願いします。
とにかく温かい舞台にしたいですね。お客様も含めて皆人生において大変な思いを抱えているでしょうが、「Jewels from MIZUKA」をご覧いただき、温かさ・アットホームさを感じてもらえるようにできれば。心をこめて準備しますので、ぜひお越しください。
取材・文=高橋森彦