【ミリオンヒッツ1995】岡本真夜「TOMORROW」テレビ初出演がNHK紅白歌合戦!
リレー連載【ミリオンヒッツ1995】vol.6
TOMORROW / 岡本真夜
▶ 発売:1995年5月10日
▶ 売上枚数:177.3万枚
クールな視点で感情を前面に出さない岡本真夜
女性のシンガーソングライターは大きく分けて2つのタイプに分けられる。ひとつは喜怒哀楽を赤裸々に歌詞やボーカルに投影するタイプ。そしてもうひとつは、ものごとを俯瞰的に表現するタイプである。今回は後者に該当するアーティストについて書いてみたいと思う。
クールな視点で感情を前面に出さないタイプのシンガーソングライターといえば、1970年代にデビューした大貫妙子、1980年代にデビューした岡村孝子あたりが思い浮かぶが、1990年代なら岡本真夜がそんな1人だろう。失恋ソングを歌ってもどこかその視点は冷めていて、感情を前面に出していないからこそ、リスナーは自身を投影しやすいのかもしれない。
アップテンポなアレンジが特徴の応援歌「TOMORROW」
今ではバラードを歌えるシンガーというイメージの強い岡本真夜だが、デビュー曲「TOMORROW」はアップテンポなアレンジが特徴の応援歌だった。しかし、この曲はもともとミディアムバラードを想定して制作された曲で、ドラマ『セカンド・チャンス』(TBS系)の主題歌に起用されたため、アップテンポのアレンジに変更されている。岡本真夜本人的には若干不本意だったそうだが、ヒット曲というのは何がきっかけになるか分からないから面白い。
同曲は1995年5月10日に発売され、ドラマのタイアップソングということもあり、瞬く間にミリオンセラーを記録した。しかし、ジャケットやミュージックビデオにはシルエットのような彼女のビジュアルしか登場しておらず、楽曲がヒットしたにも関わらず、メディアに一切登場しないことが逆にプロモーションになっていた。
いつしか人々を励ます応援歌になった
そんな岡本真夜のテレビ初出演はどんな番組だったかご存じだろうか。それは1995年12月31日に放送された『第46回NHK紅白歌合戦』のステージである。ただでさえテレビ出演というのは緊張するものなのに、初舞台が国民的音楽番組だったというのもずいぶん酷な話だと思う。しかし、この年に岡本と同じ初登場組だった石嶺聡子とお互い励まし合いながらステージに立ったというエピソードが残されている。筆者も手に汗を握りながら番組を見ていたが、立派にステージをつとめていた。
この「TOMORROW」は一過性のヒット曲にとどまらず、発売の翌年には『第68回選抜高等学校野球大会』の入場行進曲に起用されている。もともとは失恋をした女ともだちに向けたささやかな1曲だったこの歌は、いつしか人々を励ます応援歌になり、数ある平成ミリオンヒットの中でも大きな存在の曲に成長していった。
後年、2012年に『Tomorrow』と題するオリジナルアルバムをリリースした岡本。そこに収録されたセルフカバー「TOMORROW 〜明日の君へ〜」では、東日本大震災の後に発生した福島第一原子力発電所の事故により、村外への避難を余儀なくされた福島県相馬郡飯舘村の子供たちを招いて、伊達郡川俣町で行なわれた『飯舘村 卒業・卒園式イベント』の参加者 約600名によるコーラスが収められている。
コンベンションで聴いたバラード風の「TOMORROW」
岡本真夜はその後も多くのヒット曲を生み出し、“90年代後半にもっとも活躍した女性シンガーソングライター” といっても大袈裟ではないだろう。8枚のシングルをTOP10内に送り込み、5枚のオリジナルアルバムもすべてTOP10ヒットさせている。同郷である高知出身の広末涼子に提供したシングル「大スキ!」は見事1位を獲得しており『第48回NHK紅白歌合戦』でも歌唱されている。
筆者はデビューの前年である1994年7月に行われた、音楽関係者向けの岡本真夜コンベンションに参加している。この時に「TOMORROW」も披露されていたのだが、キーボードの弾き語りによるバラード風の1曲だった。その時に、失礼ながらこんなJ-POP全盛時代にこんな地味なアーティストが生き残っていけるのだろうかと、ふと不安になったのを覚えている。そうは思いながらも彼女のパフォーマンスはなぜか心に残っていて、ずっと引かっていたのも事実だ。
ドラマ主題歌という大型タイアップが決まったためにデビューが大幅に遅れてしまったそうだが、あの時に地味ながらも筆者の心に留まっていたものは、つまり岡本真夜の才能だったのだろう。そうでなければ、あんな短期間にあれだけのヒット曲は生み出せなかったはずだ。コンベンションで聴いたバラード風の「TOMORROW」は、2003年に発売されたバラードベスト『もう一度あの頃の空を』の中に「TOMORROW〜Acoustic Version〜」として新録音されている。この曲の原型が知りたい方は是非チェックしてみていただきたい。
人々の応援歌として、歌い継がれ、聴き継がれていく「TOMORROW」
2025年、「TOMORROW」が発売されてからちょうど30年になるが、この30年で元号は “平成” から “令和” へと移り変わり、世界情勢も大きく変化した。
しかし、どの時代も明日は何が起きるかわからないわけで、この曲の歌詞にあるように 「♪明日は来るよ どんな時も」のフレーズを信じて生きて行きたい。そして、この曲が現在もまったく色褪せないのは、誰かを励ましたい、誰かに励まされたいという気持ちが普遍的なものだからだろう。「TOMORROW」はこの先も困難に立ち向かう人々の応援歌として、歌い継がれ、聴き継がれていくはずだ。