松田今宵「ヴィンテージカー」インタビュー――自分でハンドルを握って、自分の意思で人生を進んでいこう
──インタビューは以来、約1年ぶりとなりますが、昨年5月からは『Audio Video シリーズ』をスタートさせていました。改めて、『Audio Video シリーズ』を始めたきっかけを聞かせてください。
「“私の楽曲がリスナーの皆さんの生活の何気ない一コマで流れていってほしい“っていう思いがあって。同世代の映像監督であるマイ(CLAN QUEEN)監督に”曲が流れた瞬間に見ている人が主人公になれるようなビデオを作りたいね“っていう話をしたんです。楽曲自体はまだリリース前の曲もたくさんあるんですけど、”人の生活に寄り添う“ってテーマで『Audio Video シリーズ』を始めさせていただいています」
──女性を主人公にした撮り下ろしの映像でワンシチュエーションになっていますね。
「ワンカットで撮ることで、自分と女優さんを重ねやすいかな?と思って。まるで自分がそこで何かを考えていたり、誰かを待っていたり、頑張っていたりするような追体験してもらいたくて。曲に合わせていろんなタイプ、いろんな雰囲気の女優さんに出ていただいています。本当に素敵な映像になったと思います」
──昨年の5月から12月にかけて8本の映像を公開しましたが、特にお気に入りはありますか?
「いや〜、選べないですね。全部気に入ってるんですよ。例えば、楽曲を同日に配信リリースした「恋せよオトメ」は瀬戸璃子さんっていう女優さんが本当に可愛らしくて。「恋せよオトメ」という曲の中から出てきたんじゃないか?って思うような女の子だったんです。彼氏か同居人かはわからないですけど、お弁当を作っているシチュエーションで。見ていて心が軽やかになるというか、明るい気持ちになります。“この曲にすごく合っているな”と思うので、ぜひ見ていただきたいです」
──「恋せよオトメ」は部屋着でキッチンでお弁当を作っているバージョンとは別に、土手で佇んでいるバージョンもありますね。
「好きな人の返信を待っている女の子なんですけど、それもとても可愛いので、両方見ていただきたいんです」
──もともとはどんな思いを込めて作った曲だったんですか?
「一つの恋が終わった後に、悲しいとか、マイナスな感情だけを抱きしめていて欲しくなくて。今はつらいかもしれないですけど、その人と過ごした日常の中には温かい思い出も絶対にあったはず。だから、別れたときに、悲しい思い出だけを抱きしめずに、温かい思い出も引き連れて、次の恋に向かっていくエネルギーに越してこうよ! というメッセージを込めて作りました」
──楽曲自体は失恋ソングではあるんですよね。
「そうですね。街を見ながら思い出している場面から始まって…友達に話をしたりしながら、必死に前を向こうとしている女性像を描いています。それぞれに自分なりの失恋の昇華方法があると思うんですけど、“自分の気持ちの持ち方一つで、もうそこはいつでも春になるんだよ“っていうイメージで描いています。“みんなの背中を優しく押せたらな“って思っています」
──『Audio Video シリーズ』はご自身としては、どんな経験になりましたか。
「みんなのためにというか、聴いてくださる人のために自分は何ができるか?っていうことをより考えるようになりました。もちろん、今までも思っていたんですけど、これまで以上に“みんなの日常に寄り添う“っていうテーマで楽曲を作っていったことによって、自分の中の気持ちのパーセンテージが大きくなったと思います」
──新曲の話とも繋がるんですけど、「恋せよオトメ」はタイトルからもわかるようにエールを送って、呼びかけていますよね。聴き手に寄り添う、リスナーに向けるというところに焦点が合ってきたのは何か理由ありますか?
「やっぱり『Audio Video シリーズ』を始めたのは大きいですし、あとはインスタライブとか、ライブイベントに出演させていただくうちにというか…お客さんと会って、お客さんの反応を見つつ演奏するという経験が増えていくと、やっぱり、“どうしたらもっと人に届くかな?”って考えるようになって。そうやって、徐々に心境が移っていった感じです」
──昨年はいろんなライブイベントに出演されていました。
「これはちょっと形容し難いんですけど、本当にお客さんの顔を直接見れるっていうのは大きくて。自分が楽しんでいるときにお客様も楽しんでくれているって歓びは、曲を作っているからこそ得られる歓びだと思いました。その空間…私が歌って、みんなが聴いているっていう状況ではあるんですけど、ライブやAudio Videoを経て思っていることは、ファンの方々も安心して自分の感情をアウトプットできる空間を作っていきたいということです。自分もインスタライブで話したりしますけど、リスナーの方々も今日の出来事や最近考えていることを発信していける場を作りたくて。アウトプットっていうとビジネスっぽいですけど、みんながみんな安心して感情を出せる空間を作って、それがどんどん大きくなっていけたらいいなって、思っています」
──それは、とても大きな変化に感じます。1年前のインタビューの時は、ライブハウスよりもスタジオ作業に凝りたいアーティストなのかな?という印象だったので。
「そうですね。作り込んでいくことは好きなので、引き続きやっていきたいんですけど、去年1年間では、ライブならではのアレンジもしていました。アコギだけのアレンジとか、ルーパーを使ったアレンジとかをしていくうちに、そっちの楽しみを徐々に覚えました。やっぱり、音源は音源でちゃんと作り込みたいんですけど、ライブはライブで新しい解釈としてみんなに届けて行きたいっていう心境の変化は大きいですね」
──すごく外向きになっていますよね。そして、7枚目のシングル「ヴィンテージカー」でもいろんな変化があって…どこから話したらいいか迷ってるんですが。
「(笑)そうですね。いろいろ変わっていますね」
──まず、アーティスト写真ですよね。これまでは花の目隠しをしていましたが…。
「別に今までも顔を隠していたわけではなくて。曲を聴いてもらいたいが故に…という意図だったんです。私が前に出ていくよりは、皆さんを主役にしたいという気持ちがあったんですけど、アー写も気持ちの外への向き方の表れの1つかもしれません。“顔が見えた方がコミュニケーションも取りやすいし“っていうのもあります。ただ、私の曲を聴いてくれている人たちが私に求めていることを考えて、カッコいいポージングで見せるっていうよりも、世界観で見せたいと思って。椿やお花っていう今までの松田今宵らしさを残しつつ、顔の出し方も工夫してみました」
──楽曲もこれまでとは一転しているんですが、どんなところから出来た曲だったんですか?
「近年の流行り言葉で、“自分軸/他人軸”っていう言葉があって。それについてよく考えていたんです。いろいろな本を読んで、自分なりに解釈をして。“自分軸”って、自分でハンドルを握って、自分の意思で運転していくようなイメージで、“他人軸”は、他人にハンドルを握らせていて、自分は助手席や後部座席に乗っている。他人にハンドルを握らせていると、進むのは楽だと思うんですけど、いざ事故ってしまったときに、その他人は人の車なので降りれちゃう。でも、自分は自分の車=人生なので降りれないし、すごく悲しいことになっちゃうじゃないですか。それなら、“もう自分でハンドルを握って、自分の意思で自分の人生を進んでいこう“って曲にしたかったんです」
──テーマが先にあった?
「元々はサビの頭のメロディーがストックとしてあって、そのときはうまく言葉がはめられなくて、置いていたんです。でも、時々、聴き返していて、“今の自分だったらどんな言葉を入れるかな?”っていうのをやるんですけど、たまたま知り合いが買った赤い中古車がすごく可愛くて。“可愛かったな〜”というのが心にずっと残っていて、お風呂に入ってるときに<真っ赤なVintage car>と歌ってみたら、ぴったりとハマって。“じゃあ、それはどういうヴィンテージカーなのか?”っていうのを膨らましていった感じです」
──どんなヴィンテージカーでしたか?
「車体=人生みたいに考えていて。生まれたときは新車なんですけど、人が育っていって、いろいろと経験していくように、車も砂漠を走ったり、砂利道を走ったりしてくうちにタイヤはすり減っていったり、車体がへこんじゃったり、色が褪せちゃったりする。でも、それこそが個性なのかな?と思って。この曲の主人公は、この赤い車体にすごく誇りを持っています。初めから赤かったのか?旅の途中で赤になったのか? は、聴く人の想像にお任せするんですけど、とにかく“誇りを持っている”っていうところは伝えたくて。この真っ赤っていうのも、女性の可愛らしさとかけて、赤にして。“この赤、すごく可愛いでしょ。いけてるでしょ!”っていうふうにウインクをする感じで、自分の意思で進んでいくっていう…」
──運転しているのはどんな女性像ですか?
「カッコいい感じなんですけど、そのカッコよさも外見のカッコよさじゃなくて。傷ついた心も自分で認めてあげて、内面から出るカッコよさを持っている女性です。あくまでも自然体のカッコよさで走っている。それも別に猛スピードじゃなくていいんです。スピード感ある楽曲ですけど、別に物理的な速度じゃなくていいかな?と思って。“自分の心の速度”って捉えられていただけたらなと思っています」
──助手席には誰かを乗せたり乗せなかったりしますが、別にラブソングではない?
「ラブソングではないですね。でも、この主人公も過去に他人にハンドルを握らせちゃって、傷ついてきてっていうストーリーがあります。そのときに傷ついたりて、もうそんなことやりたくないから“自分でハンドルを握って行こう”っていうストーリーになっています」
──最後の<ゆけ!どうか幸せであれよ>は誰に向かって言っていますか?
「自分に向けてもそうですし、周りで走っている仲間たちにも向けています。“君のヴィンテージカーもいい感じだね”って、みんなで手を振っているイメージです」
──どうしてヴィンテージなんですか? 若い世代=キラキラに輝く真っ赤なスポーツカーではないんですね。
「新品ではないかな…っていうのがあって。みんながヴィンテージカーだと思っています」
──“生まれたときからどんどんヴィンテージカーになっていく“っていうイメージなんですね。
「そうですね。私、<生まれた瞬間からゆっくりと死んでいく>(「通り雨」より)っていうミスチルさんの歌詞が好きで、すごく気に入っていて。「ヴィンテージカー」も同じような価値観です。もちろん、“生まれた1秒後にはもうヴィンテージカーになってる“というイメージではないんですけど(笑)、みんながいろんな人生を送っているわけで、人それぞれのすり減り方があると思います。10代や20代でとても擦り切れてる子もいるかもしれないですし、30代や40代でも全然傷ついてないっていう人もいるかもしれない。”それぞれの人生の歩み方に個性があるよね”というところに焦点を当てたかったので」
──そして、サウンドがロックになっています。これが一番ガラリと変わった印象です。
「元々ビートルズが好きですし、自分の中には、1つのチャンネルとして、ロックテイストがあって。今回、リファレンスにしたのは、ブロンディやザ・クラッシュ、ポストパンクとか、ニューウェーブ初期のイメージです」
──ニューロマンティックを感じました。ドラァグクイーンの方に思い切り歌って欲しいくらいです。
「わかります。「恋せよオトメ」もそうなんですけど、女性に限らず、性自認が男性でも、乙女の心を持っている人はいるじゃないですか。そこに刺さればっていう気持ちでいます。なので、この曲もとっても派手な格好をして歌ってほしいです」
──ポスト・パンクからニュー・ウェイヴ、ニューロマンティック・ムーヴメントが起きた70年代末から80年代初頭のサウンドをイメージしたのはどうしてでしょうか?
「“どうしてポストパンクが好きなのかな?“と思ったときに、あくまで私の印象なんですけど、作り上げられたカッコよさっていう感じではなかったんですよ。ザ・クラッシュも飾らない自然体のロックって感じがして、そこがすごく好きで、私の肌感にも合っていました。だから、なるべく自分の飾っていない部分というか、愚痴みたいな部分を出したいと思って。Aメロの歌い方や歌詞もそうなんですけど、ちょっと喋り言葉に近い感じを意識してみたりとか…新しい試みでした」
──バンドサウンド感も満載ですが、レコーディングはどうでしたか?
「楽器はほとんど自分で演奏したんですけど、友達にベースを弾いてもらったり、私の声にプラスして、コーラスも入れてもらったり、楽しくやっていました。歌入れも、ディレクターの方に“それだったらウインクしてないよ”って言われたりとか…いろいろとアドバイスをいただきながらレコーディングしました」
──松田今宵らしいイントロのSEは?
「最初は、イヤホンで聴いている「ヴィンテージカー」が音漏れしてるイメージです。車に乗って、イヤホンを外す。カーステレオの再生ボタンを押して、エンジンかけて、動き出す。そんな設定で作りました」
──MVには2000年生まれのクリエイターユニット、毎日ユニークさんが出演されています。
「二人の息が本当にぴったりで。その息の合い具合が心地いいので、ぜひMVを見ていただきたいです。あと、これは、MVのディレクションをしていただいたマイ(CLAN QUEEN)さんが私の楽曲を聴いて解釈してくださったことなんですけど、最初は親が選んだ服を着ていて…。そこから、自分で“ちょっと違うな”って気づいて、親に言われて着ていた服を脱ぎ捨てて、自分の好きな洋服に着替えていくっていう。それで自分を解放していくストーリーになっています。すごく薄着な衣装なんですけど、MVの撮影当日はとても寒くて。私は厚着して撮影を見ていたんですけど、それでも寒かったんです。明るくてポップな映像になっているんですけど、毎日ユニークのお二人はすごく大変だったと思います。カットがかかる度にみんなで温めながらの撮影でした」
──歌詞、サウンド、映像、ジャケットと全てが完成しましたが、ちなみに松田さんは“自分軸”で生きていますか?
「“100%、自分軸で生きる“っていうのは、実際、難しいと思うんです。正直、曲だから言えるっていうのもあります。なので、”自分軸“になったり、”他人軸“になったり、行き来しつつだとは思うんですけど、その価値観を知っていることで、”あ、今、他人軸になってるかも!?“って気付けたりします。そっち寄りになっちゃっていたら、”ちょっと戻そう“って思えたりするといいんだと思います」
──「ヴィンテージカー」が2025年第1弾のリリースになりますけど、ご自身にとってはどんな1曲になってますか?
「“この曲からエンジンをかけていきたいな“って思っています。今までは割としっとりした曲が多かったですし、アップテンポと言ってもミドル寄りだったので、割と落ち着いていた感じでした。でも、ここからは”みんなを引き連れて行こう!“って心境なので、そういう曲になっていくと思います」
──どんな未来に向かっていますか?
「先ほどもお話しましたけど、みんなが自分の感情をアウトプットできる空間を作っていきたいです。イベントなのか、インスタライブなのかはわからないですけど、今年はみんなが集まれる空間作りをやっていきたいです。3月からはライブハウスを回っていこうかな?と思っていますし、積極的にライブをガンガンやっていきたいです!」
取材・文/永堀アツオPHOTOGRAPHER:親方
HAIR&MAKE:毎日ユニーク
STYLIST:毎日ユニーク
RELEASE INFORMATION
2025年3月5日(水)配信
松田今宵「ヴィンテージカー」