自閉症息子、不器用すぎて傘がさせない畳めない!ずぶ濡れで登校する未来は避けたい…解決までの道のりは?
監修:室伏佑香
東京女子医科大学八千代医療センター 神経小児科/名古屋市立大学大学院 医学研究科 生殖・遺伝医学講座 新生児・小児医学 博士課程
DCD(発達性協調運動症)の息子は傘がさせない?幼稚園時代は……
ASD(自閉スペクトラム症)とDCD(発達性協調運動症)の息子、スバルはまれに見る不器用BOYです。日常生活に数々の困り事があるのですが、小学校に入学してから1番最初にぶつかった壁が「雨の日に傘がさせない」ことでした。
幼稚園の送迎時の雨具はレインコート一択でした。なぜならば傘がさせなかったからです。DCD(発達性協調運動症)のスバルは手先を使うことや体全体を使うことが難しく、体の動きをスムーズに連動させることも苦手でした。
傘をうまく開くことも難しく、傘のボタンを押すタイミングと傘を広げる動きが連動せず、手元もふらつき地面や体をガリガリと擦りながらやっと開けるレベル。傘をさして歩いていても、歩くたびに傘がぐらつき幼稚園に到着する頃には満遍なくびしょ濡れでした。なのでレインコートを着せて、傘の練習のために年齢よりも小さい子向けの小さくて軽い傘を持たせていました。
傘を手だけで畳むことも難しく、傘の持ち手をお腹に当て、両手を使ってどうにか閉じていました。傘を巻くことももちろん難しいので、もはや巻くことは諦めて紐だけとめていました。
小学1年生になると
幼稚園時代に雨のたびに傘をさす練習をしていたので、小学校に入学する頃には危なげなく傘がさせるようになるだろうと考えていました。しかし小学校に入学した後も相変わらずグラグラと危なっかしい持ち方をしていました。
傘がうまく使えるようになるまではレインコートで登下校させようと思い、ランドセルの上から羽織れるタイプのレインコートを購入したのですが、レインコートにも落とし穴がありました。この時点では私か夫が送り迎えしていたのですが、今後1人での登下校を想定した時「ランドセルの上からの着脱が難しい」「濡れたレインコートの処理が難しい」などの問題点がありました。
レインコートを着た上からランドセルを背負う方法も考えましたが、この高級なカバンを豪快に雨にさらす勇気がありませんでした。
ならばと急ピッチで傘をさす技術の向上を目指すことにしたのですが、こんな軽くて小さい傘でもぐらつくのにこれ以上どうしたら良いのか分かりませんでした。
しかしある日、ひょんなことから解決の糸口を見つけることになります。
同じクラスの友だちが、スバルの持っている小さい子向けの傘を面白がって「ちょっと持たせて」と言って自分の小学生サイズの傘と交換しました。しばらく歩いていると、スバルが手に持っている小学生サイズの傘がぐらついていないことに気がつきました。なんとスバルには重たすぎて手で支えきれず、頭に被るようにしか持てなかったため、頭で固定されてぐらつかなかったのです。
完全に盲点でした。もはや勝利を確信しその日のうちに小学生サイズの傘を購入しました。
ワンタッチで開けて、被って使っても前が見えるように透明で、骨が丈夫な素敵な傘です。家でウキウキと開け閉めの練習をしていると、スバルが言いました。「重たくて閉じられないよ」と。持ち手をお腹に当てて両手を使って全力で閉じているのに最後のカッチンまであと5ミリ届きません。不器用を極めし、おもしれぇ男。
その後、傘問題は……
その後は1年生のうちに1人で傘が閉じられるようになりました。
できるようになったと言っても、そう簡単には閉じられず、両手を使って時間をかけてやっと閉じられるレベルでした。一生懸命頑張っていると、年上のお兄さんお姉さんが手伝ってくれたりもしたそうです。
小学6年生になった現在は大人の傘だって簡単に開け閉めできます。折り畳み傘だって開け閉めできます。人よりもかなり不器用ですがゆっくりゆっくり確実にできることを増やしています。でもまだ傘を巻くのは難しいので紐だけとめています。
これもそのうちできるようになるのだろうと期待しています。
執筆/星あかり
(監修:室伏先生より)
幼稚園の頃から傘をさすことが苦手だったスバルくん、ご自身もうまくいかないことに苛立ちを感じたりすることもあったかもしれませんが、丁寧に積み重ねてこられたご本人、そしてご家族の根気や粘り強さ、本当にすばらしいと思います。小学生サイズの傘のほうが安定しやすかったというのは、大きな発見でしたね。DCD(発達性協調運動症)のお子さんは重心が安定しにくいため、「軽すぎる道具」は逆に扱いづらいこともあり、さまざまな道具を実際に体験してみることは大切なことかもしれませんね。
年上のお兄さんお姉さんが自然にサポートしてくれた経験もとても良い社会的学びになりましたね。こうした経験は 「助けを受けてもよい」「困ったときに声をかける」 スキル形成にもつながります。自身でできなくても、必要な時に適切に援助を求められる力は、自立を支える重要なスキルです。これからもスバルくんらしいペースで、一つひとつできることを増やしていけることを、心から応援しています。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。