レトロ・ユニークなSNS発信で異彩を放つ、発売67年の「炒飯の素」──あみ印食品工業・神山栄里子さんの【あの人のチャーハン】
発売67年の「炒飯の素」の老舗「あみ印食品工業」はレトロ・ユニークなSNS発信で異彩を放っています。一昨年の立ち上げから携わってきたのが事業戦略室の神山栄里子さん。SNSの「狙い」や、神山さんの情報源、お気に入りの店、チャーハンのおいしい作り方などを聞きます。
NHK出版公式note「本がひらく」連載「あの人のチャーハン」よりご紹介。(※本記事用に一部を編集しています)
2023年からクスッと笑えるSNS開始
─一昨年(2023年)からあみ印はXで発信を始めました。クリスマスケーキに見立てたチャーハンが回転しながら出てきたり、昭和のレトロなお宝画像がアップされたりユニークさが印象的です。SNSを始めた理由は?
あみ印の「炒飯の素」は発売以来約70年、おじいさん・おばあさんからお孫さんまで3代にわたってご愛顧いただいているご家庭が多いんです。しかし一方で、若い世代との接点は希薄になりがちだったためSNSを通してZ世代にもアプローチし、ファンコミュニティを作りたいと考えました。
──神山さんは立ち上げから携わり、1年間で1万人のフォロワーを獲得しています。発信の方針はどんな風に設定しているんですか?
ひたすら試行錯誤してきました。最近まで、担当メンバーと投稿を分担していたのですが、どこに行っても何をしてても、頭の中はいつもネタ探しでいっぱいでした(笑)。
あみ印食品工業株式会社公式Xはこちら
最初の頃はチャーハンのうんちくなどをポストしましたが、少し押しつけがましかったかなと思います。プレゼントキャンペーンも何回かやりましたがイベント的アプローチでなく、日常を通してあみ印や炒飯の素のファンでいてくださる方々との時間をもっと大事にしたいと、最近は減らしています。
一日の終わりのリラックスタイムやおふとんタイムに、ちらっとスマホを見てクスッと笑ってもらい、引っかかりが持てれば十分と今は思っています。
お蔭様で「炒飯の素」「あみ印」を知らなかった世代のファンの方も少しずつ増えてきて嬉しく思っています。
オタク上司の「炒飯曼荼羅」
──Xには社長自ら作ったクイズが投稿されたり、探究熱心なオタク上司のエピソードが披露されたり、キャラの立った方々の姿も垣間見えて微笑ましいです。
(ネタバレになっちゃうんですが)オタク上司、それ実は私です(笑)。
──そうなんですか(笑)。 Xに投稿されたオタク上司の、100軒の店のチャーハンを分析したノートはインパクトがありました。
ふふ、たまに私もながめてはニヤッとしてます。
おいしいチャーハン作りを極めたいと思い、「炒飯曼荼羅」を作りました。
米・卵のタイミング・予熱時間・具材・油の種類・器具など調理条件ごとに何十通りものチャーハンのパターンを書き出し、一つ一つ、つぶしていったんです。そうしたら、その姿を見た部下から「オタク上司」と呼ばれるようになって。
「曼荼羅」は、チャーハンの調理条件を考えて、いかに作り手にとって作りやすいチャーハン情報をメーカーとして提供できるかを考えたもので、店を100軒訪ねて具材を分析したノートは、プロが考えた‘チャーハンのベスト’をもっと探求したかったからです。
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──チャーハンの店をピックアップする時、何を情報源にしていますか?
私のバイブルは「dancyu」です。創刊号(1991年1月号)から愛読しています。
最近はもっぱらテレビですね。「オモウマい店」の人情味にほっこりし、「孤独のグルメ」や「ベスコングルメ」の食へのストイックさにしびれながらチェックしています。
──印象に残っている店はありますか?
芸人のタイムマシーン3号・関さんのチャーハン愛には共感することが多いのですが、関さんが絶賛していた神楽坂の「幸せのはし」は私も大好きです。
当社のある田端で夫婦二人で営まれている「新三陽」や、早稲田の学生街の「メルシー」の素朴でほっとする味も好きですね。
納豆嫌いの私のために夫が作ってくれた「納豆チャーハン」
──神山さんのご出身はどちらですか。子どもの頃はどんなチャーハンを食べていましたか?
出身は東京です。家が神保町に近かったので、子どもの頃、家族で外食となるとよく「揚子江菜館」や「新世界菜館」に行っていました。最後のシメはたいていチャーハンで、具材がたくさん入った五目チャーハンに心躍らせていました。
──家のチャーハンはどんなでしたか?
母はS&Bの赤缶のカレー粉を使って、よくカレーチャーハンを作っていました。
学校が半ドン(半日の休日)の土曜日に帰ると、ガス台の上にカレーチャーハンが作ってあって。フライパンのふたを取ると、スパイシーな香りがプーンとしてきてたまりませんでした。
──大人になってから、思い出に残るチャーハンはありますか?
ライフステージごとにありますね。
20代の頃は留学や仕事で海外に行く機会が多かったのですが、台湾に腸詰や香菜の入った「台湾式チャーハン」があるかと思えば、タイにはパラパラしたタイ米の「カオパッド」があって。それぞれの国のスパイスや現地の具材を使った、アジアンチャーハンの世界に魅了されました。
結婚後は、私は納豆が苦手だったのですが、夫が「絶対食べられる納豆料理を作ってあげる」と言って、「納豆チャーハン」を作ってくれたことがありました。カラッと炒った納豆は臭みや粘りもなくなり、おいしくてペロッと食べられました。納豆は一生ムリと思っていただけに、衝撃でしたね。
今は手前味噌になりますが、弊社の「炒飯の素」を使ったチャーハンでトメという感じです。
災害現場を救う「チャーハン」を考えていきたい
──あみ印の「炒飯の素」をまだ使ったことのない人に、最初に試してもらいたいチャーハンはありますか?
まずは卵とネギだけのシンプルなチャーハンをお試しいただきたいですね。
「炒飯の素」を使えば、だれでも簡単に「味が決まる」ことを実感していただけると思います。
──おいしく作るポイントは。
難しく考える必要はありませんが、よりおいしくするためのポイントは3つ。
1 フライパンを中火で1分予熱してから卵を入れる。
2 フライパンは火から離さず、あおらない。
3「炒飯の素」は最後にふりかけ、フライ返しでご飯を返す。
こうすることで、卵がご飯にうまくからみ、素材から出る水分でベチャッとせずパラパラにおいしくできます。
おいしい作り方はあみ印のXにも短い動画をのせていますのでお試しいただければと思います。
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──今後、チャーハンでやりたいことはありますか?
最近、尾西食品、アルファ食品、サタケなど非常食用の食品メーカーさんのチャーハンがすごく進化しています。私は阪神・淡路大震災で被災し、東日本大震災も経験しました。そこで栄養バランスがよく、温かいご飯がいかに人の心や命を救うか、目の当たりにしてきました。
また、私はJDA-DAT(日本栄養士会災害支援チーム)のメンバーでもあるので、今後、メーカーの人間として私にできることはないか、管理栄養士として一食で総合栄養になるチャーハンができないかをずっと考えています。いつか形にしたいです。
プロフィール
あみ印食品工業 神山栄里子
事業戦略室課長。2014年入社。商品企画部、新規市場開拓部、研究開発室NB商品メニュー開発を経て、2022年より現職。1年半かけ X立ち上げから企画進行に従事し1万人余のフォロワーにチャーハンの魅力を発信し続ける。
あみ印X: @amibrand1952
取材・文
石田かおる
記者。2022年3月、週刊誌AERAを卒業しフリー。2018年、「きょうの料理」60年間のチャーハンの作り方の変遷を分析した記事執筆をきっかけに、チャーハンの摩訶不思議な世界にとらわれ、現在、チャーハンの歴史をリサーチ中。
題字・イラスト:植田まほ子