〔野間児童文芸賞受賞〕小説家デビューへの道・創作のための「3つのポイント」 児童文学作家・長谷川まりるさんに聞く
『お絵かき禁止の国』で講談社児童文学新人賞佳作を受賞しデビュー、『杉森くんを殺すには』で野間児童文芸賞を受賞した長谷川まりるさん。新進気鋭の作家として、次々と話題作を世に送り出している長谷川さんに、作家への道のりとアドバイスを聞く
『杉森くんを殺すには』が話題の作家・長谷川まりるさん2018年に『お絵かき禁止の国』で第59回講談社児童文学新人賞佳作を受賞し、同作でデビューした長谷川まりるさん。2024年には『杉森くんを殺すには』で、第62回野間児童文芸賞を受賞されました。
長谷川さんは新進気鋭の作家として、次々と話題作を世に送り出しています。
インスピレーションはどうやって湧くの? 書き続けるコツは?
「中学生のころから物語を書いていた」という長谷川さんに、作家への道のりとアドバイスを伺いました。
長谷川まりるさんのデビュー作『お絵かき禁止の国』あらすじ
〈中学3年の女の子・ハルには好きな人がいます。それは同級生のアキラ。同性であるアキラを好きになったことで、ハルはうすうす感じていた自分の気持ちを確信します。「やっぱりあたし、女の子が好きなんだ。世の中にはそんな人がいることは知っていたけど、まさか、自分が、そうだったなんて!」恋に悩む中3女子の卒業までの1年間〉
長谷川まりるさんのデビュー作『お絵かき禁止の国』(講談社)
LGBTの物語を書きたかった
──『お絵かき禁止の国』を書こうと思われたきっかけは?長谷川まりるさん(以下、長谷川さん):LGBTのお話を書こうと思ったんです。刊行したのは2019年ですが、そのころまだ日本はLGBTに対してあまり理解が進んでいなくて。「なぜこういう内容の本がないんだろう?」と思って書きました。
──同性を好きになるのは、普通の恋愛と同じですものね。本を出版されてからの、読者の反応はいかがでしたか。長谷川さん:マイノリティの方にとっては、リアルすぎてつらかったそうです。
物語の一番最後、卒業式のあとでハルが両親から「ハルには同性愛のことばっかりで人生を悩んでほしくない」と言われるシーンがあります。
両親はいいことを言っているつもりなのですが、当事者から見たら「あるある~。わかってないよね、この両親」という感想だそうです。こういったシーンを散りばめています。
プロの作家との出会い
──『お絵かき禁止の国』も『杉森くんを殺すには』も、リズミカルでイマドキの子どもらしい話し言葉が印象的でした。子どもたちと話す機会が多いのですか。長谷川さん:小説を書きながら普段は別の仕事をしています。仕事先では、アルバイトの大学生といつも話しているんです。このごろは執筆の時間を取りたくて、出勤は週4回に減らしてもらっていますが。
──執筆活動をはじめたのは、いつごろからですか。長谷川さん:中学生からです。小説を書いていると知られるのが恥ずかしくて、家族に隠れてこっそり書いていました。
当時は3部作の物語を書いていて、4回くらい書き直したりしていました。ルーズリーフに手書きしていたので、書き直すときは最初から全部です。そうやって少しずつ作品を書き溜めていました。
▲笑顔の長谷川まりるさん。インタビューは、第62回野間児童文芸賞の贈賞式会場(東京都、帝国ホテル)にて行われた。
長谷川さん:大学を卒業したころ、姉の友だちの母が児童文学作家のにしがきようこさんだと知りました。実家のすぐそばにお住まいだったので、訪ねていったんです。
にしがきさんに、「あなたも物語を書いているの?」と、尋ねられました。「そうなんです」と答えると、「じゃあ、ちょっと読ませて」と。それで、書き溜めていた小説をお見せすると、にしがきさんが参加している児童文学の創作同人会に入れてくださったんです。
──プロの作家に誘っていただいたんですね!長谷川さん:はい、人に読まれるのは勇気がいりましたが、創作同人会に誘っていただけたのは、とてもありがたいことでした。
会では、作品を提出すると、会員が読んで合評会で感想を言ってくれるのです。入会したときは「SFファンタジー研究会」といいましたが、今は改名して「駒草」といいます。名称は変わっても、作品群は変わらずSFとファンタジーが主な作品ですね。そんな会に入れてラッキーでした。
──長谷川さんもSFを書くのですか?長谷川さん:はい、SFとファンタジーを書いていますよ。今は忙しいので休会していますが、よく顔は出しています。
ファンタジー好きだった子ども時代
――子どものころから本はお好きだったのですか。長谷川さん:いえ、野山で遊んでいました。初めて本を読んだのは小学4年生くらいのときです。
家にあったローラ・インガルス・ワイルダーの『大きな森の小さな家』を読みました。私の実家は自給自足といった暮らしでしたから、ローラの家の様子に「わかるわかる~」と共感しました。でも、大草原シリーズで読んだのはその1作だけなんです。
▲大草原の小さな家シリーズ『大きな森の小さな家』』(画像は新装版)
──草原に行く前の、おとうさんが森を開墾していたころのお話ですね。もう少し大きくなってからは、どんな本を読まれましたか。長谷川さん:私はファンタジー世代なんです。『ハリー・ポッター』『ダレン・シャン』『バーティミアス』のシリーズを読みまくりました。すっかり影響されて、私もファンタジーを書いているんですよ。
──ワクワクするお話ですよね。
物語を書きたい人のための「3つのアドバイス」
──この記事の読者には、作家志望の方もいらっしゃると思います。物語を書くためにおすすめのことがありますか。長谷川さん:3つのポイントがあります。まず1つ目は、映画をたくさん観ること。とくに児童文学を書きたいなら、ぜったいディズニー映画を観たほうがいいです。ハリウッド映画やディズニー映画は「3幕構成(※)」で作られているんですよ。
〈※「3幕構成」とは、物語を3つの幕(要素)に分けて構成すること〉
最初の3分の1は状況説明をして楽しい雰囲気で進みます。中盤で取り返しのつかない衝撃的な大事件が起き、最後の3分の1で主人公が覚悟を決めてけじめをつけます。
『お絵かき禁止の国』も、映画を参考にして「3幕構成」で書きました。
本を読むのは時間がかかりますけど、映画なら2時間で終わりますよね。そこもいいところです。映画好きが高じて映画館でアルバイトをしていたこともありました。
ホラー映画以外は何でも観ます。映画館に行くときは、まとめて2~3本観たりします。
▲映画好きと語る長谷川まりるさん。第62回野間児童文芸賞を受賞した『杉森くんを殺すには』も、映画を見てインスピレーションを得たことが執筆のきっかけだったそう。
ーー「3つのポイント」の、2つ目はなんですか。長谷川さん:2つ目は、最初は自分の好きなものを全部入れること。自分の好きなものをいっぱい書くことです。
――興味のあることを盛り込むのですね。長谷川さん:そうです。そして3つ目は、書いた作品を他の人に読んでもらうことです。そして、いろいろな意見をもらって、直すべきところに気がついてからが始まりです。
――人に見せることが大事なのですね。長谷川さん:はい。まず一度自分で書いてみて、人から「こうしたらいいんじゃない」という意見をもらうこと。ただ、すべてを真に受けなくてもいいんですよ。3~4人の違う人から言われたら初めて「直そうかな」と思うくらい図太くていいと思います。
ファンタジーをはじめ、いろいろな物語にチャレンジしたい
──これからどんな小説を書いていきたいですか。長谷川さん:面白いお話を書きたいのが一番です。ファンタジーをもっと書きたいですね。大人向けの本も含めて、無理のない範囲でいろいろ書いてみようと思っています。今年は、魔法使いが出てくるファンタジーの本が出版予定です。
──どんなワクワクするファンタジーストーリーなのでしょう。作品の幅を広げていかれる意欲にあふれる長谷川さんに、元気をもらったような気がします。今日はすてきなお話をありがとうございました!
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長谷川まりるさんにお話を伺う連載は前後編。前編では、第62回野間児童文芸賞を受賞した『杉森くんを殺すには』についてお聞きしました。後編となる今回は、作家への道のりと創作のアドバイスについてお聞きしました。
【講談社児童文学新人賞】
児童を読者対象とした自作未発表の作品を対象とした公募新人文学賞。はじめて物語に出会う子どもたちへの童話から、未来を生きる力となるヤングアダルト小説まで、オリジナリティあふれる作品を募集。柏葉幸子、斉藤洋、森絵都、はやみねかおるなど、多くの作家を輩出した児童文学の新人賞として知られている。
撮影/市谷明美