プロになれたのは「経験から学ぶ力」があったから|「第二の挑戦 スポーツ選手のセカンドキャリアに迫る vol.1」
輝かしい世界で活躍するプロスポーツ選手。想像を絶する努力と数々の挫折を乗り越えて辿り着いたアスリートも、いつの日か最前線の舞台から退き、次の挑戦をするタイミングが誰しも訪れます。
Sports for Socialでは、そんなプロスポーツ選手たちがどのような“第二の挑戦”をしているのか、スポーツ選手として得た経験や力をどのように活かしているのか、その方々の人生に迫ります。
2001年、セレッソ大阪で大卒Jリーガーとして開幕スタメンを飾った山内貴雄さん(以下、山内)。スカウトではなく練習参加という形でプロ契約を勝ち取り、開幕スタメンという華々しい形でデビューした山内さんは、そのキャリアをわずか2年で終えることとなります。
その後、クラブのフロントを経て株式会社リクルートエイブリック(現・株式会社リクルート)に入社し、ビジネス経験を磨いた山内さんは、自身の経験も活かして一般社団法人アポロプロジェクトを立ち上げることに。“アスリートの学び舎 ”『A-MAP』など、想いのこもったビジネスを展開する山内さんに、ご自身のキャリアだけでなく“アスリートのセカンドキャリア”についてお話を伺いました。
自ら動いた“セカンドキャリア”の始まり
ーーセレッソ大阪で2年間在籍し、その後引退を決断された背景にはどのようなことがあるのでしょうか?
山内)1年目は活躍できましたが、2年目で思うような結果を残せず、セレッソ大阪は契約満了になってしまいました。トライアウトを受け、JFLのチームからオファーもいただきましたが、どうせやるならJリーグでという想いがあり悩みぬいた末に引退を決断しました。
ーーJリーガーの次のキャリアについて、現役時代には想像していたのでしょうか?
山内)私自身、世代別の日本代表に選ばれるようなサッカーエリートではなく、地道に積み上げてきた雑草タイプの選手でした。サッカーでプロになりたいという夢や野心は抱きながらも、実は大学時代には就職活動もしていたことがあります。セレッソ大阪さんにご縁があってプロサッカー選手になったのですが、「サッカー以外でどんなやりたいことがあるか?」と選手になる前から考えた経験があったところはほかのプロ選手と少し違うところかもしれません。
ーー実際に引退することを決めたあと、どのような動きをされたのですか?
山内)指導者をするという想像はあまりなかったので、なんとなくスポーツビジネス、スポーツマーケティングなどのキーワードを思い浮かべていました。インターネットで調べてアメリカの会社にメールを送ったりもしていましたね。(笑)
そんな中、地元兵庫県のヴィッセル神戸からお声かけをいただき、1年間スカウトとして選手獲得やチーム編成など、全国を飛び回りながらとても濃い経験をさせていただきました。と同時に、職人にも近いスカウトの世界の中で自分の無力さを感じ、さらに、選手のときに感じていた漠然とした将来への不安やモヤモヤが消えることはありませんでした。サッカー選手としてまだまだやれるのに、という後ろ髪を引かれる想いを消化していた期間だったように思います。シーズン終盤には、ヴィッセル神戸がちょうど楽天(クリムゾングループ)に買収されるタイミングだったこともあり、スポーツにおけるビジネスの力も身をもって実感した上で、本当の意味での“ビジネス”の世界で力をつけたいと決心するきっかけになった1年でした。
セカンドキャリアは「力がつく会社」を軸に
ーーヴィッセル神戸を退職する際、どのような形で次のキャリアを見つけて行ったのでしょうか?
山内)当時の私は、Jリーグのキャリアサポートセンターからの紹介、知人・友人・家族からの紹介、そして転職エージェントサービスを通しての紹介の3つの道で次のキャリアを探しました。
その中で、転職エージェントとしてリクルートエイブリック社からいろいろと企業を紹介してもらったのですが、職歴として「サッカー選手」「
︎試合出場」などで書類選考を通ることはなかなか難しく、落ちてしまうところも多かったのが当時の実情です。
「とにかく大変で忙しくてもいいから、成長できるところ」を軸に活動していたところ、転職エージェントであったリクルートエイブリック社から声をかけていただき、内定をいただくことができました。
ーーリクルートエイブリック社に決めたのにはどのような理由があったのでしょうか?
山内)軸としていたビジネスパーソンとしての成長が可能だと思えたところと、リクルートの社風にも惹かれるものがありました。初出社の夜、お酒を飲みながら、上司から「お前は将来なにがやりたいんだ?」と聞かれた時は、あ、やっぱりそういう社風なんだと(笑)、喜びを感じたことを今でも覚えています。
また、人材業界というのはサッカー界の代理人制度とも通ずるところがあります。その選手が活躍できて、且つクラブにとってもプラスになるような適材適所の人材配置の潤滑油になれるような存在、それをビジネスの世界で体感できて、成長もできて給料ももらえるなんて、とてもありがたいと感じて入社を決めました。(笑)
ーー実際に働いてみていかがでしたか?
山内)結果的に13年もの間お世話になりましたので、本当にいい会社にご縁をいただいたというのは素直に思います。目標達成だけではなく、仕事をする上でのスタンスを大事にしていて、人との繋がりにまっすぐな人も多く、素晴らしい会社でした。
ふたたびスポーツの世界へ
ーーリクルート時代に、Jリーグのキャリアサポートセンターにエージェントとして出向されるなど、アスリートのセカンドキャリアに関わることもあったそうですね。
山内)入社2年目から、約2年半の期間Jリーグのキャリアサポートセンターで働きました。入社1年目で仕事にも慣れてきて、せっかくビジネスの世界で成長ができる環境だったのに、入社2年目でサッカー界の仕事に戻るのか、という想いはありましたが(笑)。
そこで、いろいろな選手と腹を割って話せるようになると、J1で活躍するトップレベルの選手でもどこか将来の不安を抱えていることもわかりましたし、「サッカーしかできないので」という自己評価や、「引退したらとりあえず指導者やります」という言葉が多く出てきていて、その先に思考が進まず、選択肢を知らない状況の選手が多いこともわかりました。限られた選択肢の中でキャリアを決断せざるを得ないことをもったいないと感じるとともに、こうした人たちが自分の可能性に気づき、いろいろなところで活躍できたらもっとスポーツ界や社会がよくなるのではないかと感じました。
出向から戻ったあとはリクルートで改めて修行を積みましたが、そのとき感じた想いは今でも強く残っています。
ーー2017年にリクルートを退社、その後2020年には一般社団法人アポロプロジェクトを立ち上げられます。
山内)リクルートでは気づいたら30代後半、管理職も経験させていただき、さまざまな成功・失敗体験を積む中で、改めて自分の人生に対して自問自答し、自分に後悔しない新しいチャレンジをするために退職しました。
個人事業主として動く中で、元同僚の白崎雄吾さんなど、アスリートのキャリアに対して同じ絵を描いている人々ともたくさん話し、新しい出会いにも恵まれ創業理事6名で『アポロプロジェクト』を創業しました。職業紹介という支援の形よりもまず先に、アスリートに対する教育、とくにマインドを変えていくところから始めていこうという想いを持った起業でした。
アポロプロジェクト理事メンバーで。下段真ん中が山内さん
ーーその想いが、現在のアポロプロジェクトの主軸事業である『A-MAP』に繋がっていくのですね。
山内)『A-MAP』は、「アスリートのための自分学」というキャッチコピーで、自分自身について学んでもらい、人生の軸を作ってもらう場所として現役/元アスリートに提供しています。1年間掛けてさまざまなインプット(映像や本)をし、内省し、自分の意見を言語化するトレーニングを行います。また、実践の課題も含め、いろいろな人と学び合いながら人生の軸を作っていくような学び舎になります。
ーーアスリートが持つ、特別な強みはありますか?
山内)私たちは、できるだけ“アスリート”と括ってしまわないようには気をつけていて、個人によって持っているものが違うというのは大前提にあります。ただ、「やると決めたときにやり切る力」というのは、とてもすごいものがあると感じています。自分で「ここを目指すんだ」と決めたときにやり切る力、特に個人競技の方は、そのためにやるべきことの逆算思考や細分化する力が強いと感じます。
タイムを0コンマ何秒縮めるための努力を何年もかけて逆算して取り組む。その過程はとてつもないですよね。
自分で自分を導く「セルフリーダーシップ」を身につけるために
ーー社会に出ても必要な力がスポーツを通して育まれていると実例からも感じますが、自分が何をできるのか?どんなことをしたいのか?ということを考える機会も少ないことを同時に感じます。そうした意味では、『A-MAP』というアスリートが自分のコトを学ぶ場があることは大きいのですね。
山内)私たちは受講者に対して、「Why」の部分への問いかけを多く行っています。“なぜそのスポーツをやっているか”、アスリートにとっては考えたこともないものです。彼らにとっては、何かがきっかけで始めて、好きになって、一生懸命目標を達成するために努力して、挫折も経験して、プロになることや日本代表などの結果を残してきたというある意味自然なものです。
そうした状況に対して、「何のために目標に向かってきたんだっけ?」という問いを積み重ねていくと、より自分で自分を導く力(セルフリーダーシップ)を身につけることができると私たちは考えています。なぜその競技をしているのかを自分で納得し、言語化できていくと、「1年でも長く現役をやる」「トップリーグで選手をする」「社会貢献活動も力を入れて行う」など、自分のやるべき基準ができて迷いがなくなるのです。将来の不安が無くなり、今に集中できるようになることで選手としてのパフォーマンスが上がった、という声は現役アスリートの卒業生からよく聞く話です。
ーーアスリートでなくてもすごく学びになる言葉ですね。
A-MAP2期生 オンライン卒業式の様子
ーースポーツを通して山内さんご自身が力がついたと思う部分は?
山内)サッカーでプロを目指し、プロになれたこともあり、“上には上がいる”ことを身を持って知ることができました。そういう人がどんな努力をしているのか知ったことは、自分にとっての挫折体験にもなりましたし、とても大きなものでした。
幼少期はイタリアの名選手ロベルト・バッジオに憧れて、映像を観て真似していました。でも、それでは上のレベルにいけないということを悟る時がきます。自分のやりたいことも大事だけど、上のレベルでプレーするにはどんなことをすべきなのか。才能がなかったからこそ、そういう思考やプロセスを磨きプロにまで生き残ることができたと思っていますし、早い時期からそうした考えを持てたことは結果的によかったと思っています。
ーー自身が上のレベルに生き残る道を模索する中で、身についたことが今に生きているのですね。
山内)そうですね。経験したことを自分事化して、もう一回挑戦する、という過程を無意識にずっとぐるぐる回し「経験から学ぶ力」を鍛えられたことが、プロになれた大きな要因です。
なぜ自分がプロになれたのか、なぜ2年でプロ生活が終わってしまったのかということは今でもよく考えることです。当時を振り返ると、プロになるまで活かすことができていた経験から学ぶ力をプロでは磨くことができなかったのではないか、自分をリードしきることができず、モヤモヤを抱えた状態で現役生活に100%向き合いきれていなかったのではないかと、と思っています。
ーー経験から学ぶ力はビジネスにおいても重要な力ですね。
山内)そうですね。アスリートである期間は、ほかの人がなかなか得られない経験が積める貴重なものです。そこから何かを得て学んでいける選手になるのか、ただの体験で終わる選手になるのかで差が出ると思います。
ーー最後に今後の人生の展望を聞かせてください。
山内)「家事・育児・アポロ」という自己紹介をするほど、思い切り家庭のこともやりながらアポロプロジェクトの代表理事としても全力で取り組んでいます。
自分にとっての豊かさは、信頼できる人たちと自分たちが信じる道を歩み、人や組織の可能性を紡ぎながら、社会に何かを残していくことだと思っています。なるべく“豊かだな”と思える時間を、よりいろんな人と過ごしていけると最高ですよね。それはこのアポロプロジェクトを育てていくことも、関わっていただける人を増やすこともそうですし、『A-MAP』で学んで自分の軸を持って生きるアスリートが1人でも増えたら嬉しいですね。
ーーありがとうございました!
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定員:5名
対象:現役・元アスリート*競技実績不問
応募期限:10月31日
応募方法:以下HPのCONTACT入力フォーム
A-MAPとは?
「アスリートのための自分学」を掲げ、自分の人生の軸を定めること、自分自身で引っ張っていくセルフリーダーシップを学ぶための教育プログラム。12ヶ月間、100%オンライオンで現役・元アスリートの同期、一流の講師陣、メンターと無数の対話を重ねて、人として成長していく学校。HPやInstagramで卒業生たちの活躍をぜひご覧ください。
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