「止める」「蹴る」など基礎技術の習得は小学生年代では徹底的に反復練習するべき? 小学生年代まではどれぐらいできればいいか教えて
戦術や判断力は後から延ばせるけど、「止める」「蹴る」の基礎技術を習得するには徹底した反復練習がいいの? と悩むお父さんコーチからのご相談。
ジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上のあらゆる年代の子どもたちを指導してきた池上正さんが、ドイツ、スペイン、オランダなどの育成をもとにお薦めの練習法もお伝えします。
(取材・文 島沢優子)
<お父さんコーチからの質問>
こんにちは。街クラブで指導をしている者です。(指導年代:U-12)
戦術や判断力は上の年代でも伸ばせるけど、技術の習得は小学生年代から徹底的にやっておいたほうがいい、というような事を聞きますが、小学生年代でどのぐらいまで出来ていれば良い、というような基準はありますでしょうか。
トラップの使い分け、パスの蹴り分け(インサイド、アウトサイド、インステップ)、ドリブルの基礎、リフティングなどボールコントロール。
止める、蹴るなどの基礎を身に着けるのには徹底した反復練習が良いのでしょうか。
<池上さんからのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
私としては、戦術や判断力は上の年代で伸ばすのではなく、それらも技術の習得と一緒にバランスよく育てていくべきだと考えています。
端的に申し上げると、戦術理解を中学生や高校生でやるのは遅いのです。
■欧州では幼少期から戦術理解と足元の技術習得を混ぜてトレーニングしている
30年以上前にさかのぼりますが、私の師匠である祖母井秀隆さんともそんな話をよくしていました。
当時の日本はほとんどの指導者が、まず「インサイドキックはこうやって」と技術から入ることが当然の時代でした。その一方で、当時から欧州では戦術理解と足元の技術の習得の両方をうまく混ぜながらトレーニングしていました。
その順番でサッカーをやって来た人たちが指導者になっているからでしょうか。今でも、止める、蹴るができないとサッカーにならないという考え方になりがちです。
■パスがつながらないのは技術の問題か、判断の問題なのかを指導者が見極めなければいけない
しかしながら、一つひとつの場面ごとのミスを冷静に分析してみてください。例えばパスがうまく通らなかった場合、それが技術の問題なのか、判断の問題なのかを考えてほしいのです。
まずはそういう見方をすると、戦術的な問題(理解が不足している)があるのか、戦術理解はしているのであとは技術的な部分を解決すればいいのか、その両方なのか。そういったことが見えてくるはずです。
そう考えると、多くの場合「両方やらないといけないよね」となりそうです。視野が持てないとか、周りを見ることができない選手は、目の前で起きている事象を自分で考えられていません。
そういったことを指導者が練習のなかでしっかりと見極めることが重要です。
■「止める」「蹴る」の基礎は必要だが、「実践の中で身に着ける」ことが大事
ご相談者様が書いておられる「止める、蹴るなどの基礎を身につけるための徹底した反復練習」はやる必要は絶対あるのですが、それだけを切り出してクローズドスキルとして単純化するのは良くありません。
実戦のなかで身につけさせるようにしましょう。例えば8対8のミニゲームを少人数の2対2にして「今日はドリブルで相手を抜いてはいけません」といった制限をつける。
そうすれば、一部のボールがもてる子どもだけでなく、みんながボールをさわれます。そのなかでいろんな技術が使えるようになっていきます。
体育館など壁に囲われているコートでやってもよいでしょう。ボールが外に出ないのでボールにさわる回数がどんどん増えます。
その際に「壁も使ってもいいよ」言えば、片方のサイドに壁があってタッチラインのない状態と仮定できます。ボールは外に出ないのでどんどん続けてくださいと言ってやってもらうと、壁にぶつけてまたそれを受ける、つまりワンツーパスができるわけです。
■スペイン、オランダ、ドイツなどが行う育成年代の指導
スペインの育成指導を指して「スペインには型がある」という言い方がありますが、私がスペインなどで現場を見た時に理解した言葉は「セオリー」です。
スペインやオランダ、ドイツなど欧州ではサッカーの成り立ちであるセオリーを小学生の間にしっかり伝えます。幅と深さ、広がるというセオリーは普遍的なものです。
例えば3メートル四方のグリッドの中でこの3メートルを精いっぱい広がって使うことで相手は困るわけです。次に10メートル四方のグリッドになった時に幅広く使えば相手はもっと大変になります。
ただし、狭いことがダメなわけではありません。狭い瞬間もあるけど、その中で一番広いポジションが取れることが大事ですよという考え方です。
「今の動き、いいよ。広がろうとしてたでしょう」と認めてあげてください。相手との間が1メートルしか空いてなくても使えたりする。狭いところもきちんと回せる、いわば南米系のサッカーです。
そこから広いところに展開できる。そういった姿を12歳以下の最終形として目指してください。
池上 正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさい サッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。