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「登山者の挙動の観察でわかる」「どこでも落ちるのは事実」|北アルプス遭対協常駐隊の活動を知る【北部編】

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YAMAP Magazine | 「登山者の挙動の観察でわかる」「どこでも落ちるのは事実」|北アルプス遭対協常駐隊の活動を知る【北部編】

遭対協と常駐隊ってどんな組織?

矢口拓隊長(撮影:YAMAP MAGAZINE編集部)

長野県観光部に事務局を置く長野県遭対協。山における遭難の未然防止及び遭難者の捜索・救助の万全を期するため遭難対策を推進している組織です。

この活動を最前線で実施しているのが長野県遭対協からの委嘱を受けた常駐隊員。北アルプス北部地区の常駐隊の隊員18名が夏山の50日間と秋山の1週間、北アルプス北部の山中でパトロール・登山者への声かけ・救助活動などにあたっています。

そんな常駐隊員になって12年目、隊長になって6年目を迎えるのが矢口拓さんです。

長野県の消防防災ヘリコプター・アルプス(提供:長野県遭難対策協議会)

北アルプス北部地区の常駐隊員は山小屋の従業員経験者・妙高にあるi-nac(国際自然環境アウトドア専門学校)の先輩と後輩の絆で結ばれた卒業生たち・山のガイドたちが中心メンバーです。実際に常駐隊員の活動を見て、山への恩返しをしたいという気持ちで志願してくれる人も増えています。

入山直前にはしっかりと訓練も

夏山シーズンの入山前には訓練も(撮影:YAMAP MAGAZINE編集部)

── 先ほど、大町運動公園にある人工岩場で訓練の様子を拝見しました。

矢口さん:無線の運用・ロープワーク・傷病者の搬送などを、長年隊員を務めている者は再確認の意味で、新人隊員は基本から、しっかりと訓練します。もちろん前述の通り、新人とはいえ登山の経験は相当あるので、入山したら先輩隊員と同様に第一線で活動しています。

驚くほど広大な活動エリア

活動の北端となる雪倉岳・朝日岳(撮影:鷲尾 太輔)

── 北アルプスの常駐隊は北部と南部に分かれていますが、矢口隊長が統括する北部の活動エリアはどの範囲なのですか。

矢口さん:実は気が遠くなるような広範囲なのです。富山・新潟県境ですが白馬連峰からの登山者が縦走する登山者が多い朝日岳(2,417m)を北端に、白馬岳(2,932m)・唐松岳(2,696m)・五竜岳(2,814m)・鹿島槍ヶ岳(2,889m)などの後立山連峰、烏帽子岳(2,628m)・水晶岳(2,986m)・鷲羽岳(2,924m)から西鎌尾根を経由して槍ヶ岳(3,180m)に至る裏銀座までを活動しています。

こちらも富山県側とはなりますが、白馬岳から祖母谷温泉を経て黒部峡谷鉄道の欅平へ至る清水新道なども、パトロールに行くことがあります。

様々な山小屋を拠点に活動

槍ヶ岳から望む裏銀座の山々(撮影:鷲尾 太輔)

── 北アルプス南部(涸沢を拠点に活動)とは違った活動形態なのでしょうか。

矢口さん:はい。全体を白馬・唐松・冷池・烏帽子の4つの班に分けて、そのエリアの山小屋すべてが拠点となります。そして各エリア内の山小屋を移動しながら、登山者の動きや登山道の状況に応じて、パトロールを行っています。

それも隣接する山小屋へ各駅停車する訳でなく、例えば野口五郎小屋と槍ヶ岳山荘を1日で往復するなんていうことも当たり前です。とにかく長い距離でひとりでも多くの登山者と接し、登山の最前線に立ちたいという想いからの行動パターンです。

常駐期間内で隊員が交代するケースもありますが、そんな場合は班をまたいで移動してもらうこともあります。後立山連峰から裏銀座など相当な長距離移動となりますが、隊員同士の連携でそれが可能になり、チームとしてのまとまりが出てきた印象です。

山岳遭難の未然防止への取り組み

常駐期間は毎日登山道を歩いて活動(撮影:鷲尾 太輔)

── 警察や消防は主に山岳遭難が発生した場合に出動しますが、常駐隊員の皆様は平時にも登山道で活動されています。その際に意識していることはありますか。

矢口さん:基本的には同じ登山者であるという目線で、注意喚起や情報提供をするように心がけています。決して上から目線での「指導」ではなく、より多くの情報を知っているからこそのアドバイスで安全に登山を楽しんでもらいたいと思っています。

そこで大切なのが、臨機応変な接し方です。登山者も千差万別で、初心者もいれば、私たちより登山歴の長い大先輩もいます。それぞれにあわせた受け応えができるよう意識しています。

私たちとしては、登山者から話しかけてもらった方がありがたいですね。この先の登山道の状況や、今後の天候など、ぜひ遠慮なく質問してほしいです。

真っ黒に日焼けしていて体格もいいので外見はいかついですが、笑いを探求している隊員も多いので、怖がらずに声をかけて下さい(笑)。

登山者を観察していてわかること

山小屋で登山者を観察することも重要(撮影:鷲尾 太輔)

── 実際にそうした平時に起こった、教訓になるような事例はありますか。

矢口さん:朝や夕方は、山小屋の前に立って出発・到着する登山者の様子を観察することもあります。実際、到着時に咳をしている登山者がいて、ご本人は風邪だと思い込んでいたのですが、咳の音が明らかに湿っていたので検温や血中酸素濃度を測定したところ、肺水腫でした。

既に夕方だったのですが、暗い中で隊員がサポートしながら下山して、一命を取り留めたという事例もありました。

悪天候の日は、山小屋に到着した段階で唇が紫色になっている方もいます。これは低体温症の兆候なので、なるべく早く乾いた衣服に着替えるように促します。

── そのように常に登山者を観察していると、その人がこれから登る山に見合ったレベルかなど、ある程度わかるものなのでしょうか。

矢口さん:近年は登山口にも隊員を配備して、装備をチェックしています。レインウェアを持っていなかったり、極端な場合は雨傘と革靴というビジネスマンのような服装の方に出会ったケースもあります。

実際のところ、挙動などで経験が浅い登山者であるということはある程度わかります。もちろん、それで登山を引き留めたりはしません。あくまでも登山は自由に楽しむものなので。

とにかく積極的に話しかけて、不安やリスクを引き出し、アドバイスできるのが一番良いですね。

雨のリスクや標高による気温差を理解していない登山者も(撮影:鷲尾 太輔)

── 北アルプス北部特有の、装備や経験不足な登山者の実例などがあれば教えてください。

矢口さん:北アルプス北部というより日本の山に特有なのが、雨が多いということですね。特に雨があまり降らない欧米からの登山者は、ウィンドブレーカーとして羽織ることはあっても雨具としてのレインウェアという概念がない方もいます。

北アルプス北部特有というと、山麓が白馬村というリゾート地であり、八方池や栂池自然園などのハイキングスポットもあるので、その感覚で標高が高い稜線に上がってきてしまう方はいますね。

私たちが「今朝はダウンジャケットを着ていた」とお話しても、暑い山麓から上がってきたので「そんなハズはない」という会話もあります。そうした方には、山麓と山頂や朝晩の気温差などをしっかり伝えるようにしています。

また、一般のホテルや旅館と同じ感覚で「暗くなるまでに山小屋へ到着すれば良い」という登山計画で行動している方もいます。これも山では昼過ぎから午後にかけて頻発する雷雨のリスクを認識していないことが原因ですね。

── 登山者同士でも、装備や経験不足な登山者への注意喚起などはした方が良いのでしょうか。

矢口さん:難しい問題です。それがお節介やお説教と捉えられてしまうと、せっかくの楽しい登山が不快なものになってしまいます。またトレイルランナーなど軽装でも安全に踏破できてしまう人もいるのも事実ですから。

ですので繰り返しになりますが、私たち常駐隊は決して高慢にならず、黒子・サービスマンとして楽しい登山のためにおもてなしをする役割でありたいと考えての言動を意識しています。

情報量の多さが経験値ではない

ポジティブな情報や綺麗な風景ばかりに気を取られがち(撮影:鷲尾 太輔)

── 最近はYAMAPのような登山地図GPSアプリやSNSが普及していますが、それによる問題点はありますか。

矢口さん:北アルプス北部に限らず、コースタイムより短い時間で登れたことや簡単に登れたことを美徳とするような活動日記は気になりますね。体力や技術は人それぞれなのに、そうした活動日記のコメントと行動時間だけを参考にしてしまうと、無謀な登山につながります。

また、低山から少しずつステップアップして北アルプスへという段階を意識していない人は多いですね。登山2回目でバリエーションルート(一般登山道として整備されていないルート)へ入ろうとする人もいますから。

これだけ情報が氾濫してくると、その情報を見ただけで登れるつもりになったり、たくさん情報を得たことが経験を積んだつもりになってしまうという人も出てきてしまいます。

また紙の地図を持たずに入山して、スマートフォンのバッテリーが切れた途端に道がわからなくなるという人もいます。GPSの画面ばかりを見て景色を見ていないと「次の山小屋はどこ?」「こんなにアップダウンがあると思わなかった」という状態に陥ってしまうのです。

登山は自分の身体を使うアナログなものなので、登山地図GPSアプリはひとつのツールであるというつもりで使ってほしいですね。逆に救助の際は、位置情報や軌跡を知ることができるので、救助活動が迅速になったり捜索範囲を絞り込めたりするという利点もあります。安全のためにもバッテリー切れには気をつけてください。

山岳遭難発生時の対応

訓練がムダになるのが究極の目標

── もし山岳遭難が発生した場合には、常駐隊員の皆様はどのように行動されているのでしょうか。

矢口さん:まず前提としてあるのは、我々は救助ありきの活動を目標にはしていないということです。先ほどのような訓練の成果が「ムダになるように頑張りましょう」と隊員には呼びかけています。

それでも山岳遭難が発生してしまった場合は、県警と一心同体で活動します。遭難者からの110番通報があっても、警察官は山麓の署内にいることが大半です。

そこで現場に一番近いところにいる私たちに救助の要請があり、遭難者のもとへ真っ先に駆け付けて状況を把握し、場合によって応急処置を施します。悪天候のためヘリコプターが出動できない場合は、傷病者を背負って下山するのが、私たちがもっとも求められる役割です。

最近はヘリコプターによる救助の精度も向上してきましたが、今でも少なからず人力での搬送が求められます。そのため私自身もかつてはザックに重い漬物石を入れてトレーニングしてきました。

ヘリコプターが近づける場所まで遭難者を搬送し、ヘリコプターや周辺の登山者を安全に誘導し、徒歩で救助に駆けつける警察の救助隊と合流して、本格的な救助活動を行います。

こうした経緯から、警察の救助隊とも親密にコミュニケーションをとっています。とはいえ、遭難は1件でも少ない方が良いので、できれば山岳遭難の現場で一緒に活動することはしたくないというのが本音ですね。

事故は意外な場所で起こる

事故は難所とされる場所以外で発生することが多い(撮影:鷲尾 太輔)

── 残念ながら発生してしまった事故について、何か傾向などはありますか。

矢口さん:危険箇所などで起こるべくして起こる遭難はもちろんあるのですが、むしろ意外な場所で発生する方が多いのです。何でもない平坦な登山道でただ転倒しただけの登山者が、頭部を強打して身体が麻痺してしまうという事例もありました。

多くの登山者は、危険箇所では注意深く行動するものです。そうした核心部を越えた場所で気が抜けてしまうことがあるのでしょう。

山小屋のベッドから転落したという事例もありますし、本当に「まさかここで」というケースは多いですね。

とにかく「どこでも落ちる」のは事実です。長年活動している中で一度も遭難がなかった場所への出動要請があり、思わずその場所を聞き返してしまったこともあります。何でもないような場所から斜面を数百メートル滑落してしまったりもしますから。

── そうした遭難も踏まえて何か注意すべき点はありますか。

矢口さん:やはり下山時はリスクが高いですね。おっと!とよろけて転倒しただけで、その先が登山道でなく斜面であればそこへ落ちてしまいます。今まで誰もつまずいたことがない段差でも、その先が急斜面だったら大きな滑落による大ケガになります。

また登山の終盤で疲労が蓄積している状態で注意力を維持できず、あとほんの少しで下山という場所での転倒事故もありますね。登山口から近いので、救助隊員が駆けつけるまでの時間は短いのですが。

気候変動が招く意外なトラブルも

猛暑と少雪で脆くなり2023年は秋から、2024年は夏から通行できなかった白馬大雪渓(撮影:鷲尾 太輔)

── その他、意外な場面で救助要請があった事例があれば教えてください。

矢口さん:近年は夏の暑さも異常です。ある日、「水が足りなくなってしまった」という要請があり、5Lくらいの水を背負って現場に急行したことがありました。すると周囲にいる登山者も皆さん水が不足していて、給水車のような活動をしたこともありますね。

どの登山者も、推奨される必要量の水は持っていたのにも関わらず、猛暑で予想以上に消費してしまい、なおかつ水場と水場の距離が離れている場所だったので、こうした事例が発生したのだと思います。

矢口隊長から登山者の皆さんへ

矢口隊長からのメッセージ(撮影:YAMAP MAGAZINE編集部)

── 最後に、北アルプスを訪れる登山者の皆さんへメッセージをお願いします。

矢口さん:このようなインタビューでは様々な遭難救助のエピソードをお話せざるを得ないのですが、そこで怖さを感じて山へ来てもらえないのは一番残念なことです。

山は楽しいところです。もちろん安全に…というのは大前提なのですが、思いきり楽しみに来て欲しいと思います。山は景色だけでなく多種多様な自分なりの楽しみ方がある場所ですから。

長野県遭対協のYAMAP公式アカウント

協力:長野県観光スポーツ部 山岳高原観光課
執筆:鷲尾 太輔(登山ガイド・山岳ライター)

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