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「日本」はいかに誕生したか? グローバルな視点から古代史の謎に迫る

NHK出版デジタルマガジン

「日本」はいかに誕生したか? グローバルな視点から古代史の謎に迫る

 東アジアを見渡すグローバルな視点から謎に満ちた日本古代史の最前線に迫った、NHKスペシャル「古代史ミステリー」。反響に応え、『新・古代史 グローバルヒストリーで迫る邪馬台国、ヤマト王権』としてNHK出版新書より書籍化されました。卑弥呼と三国志、空白の四世紀と技術革新、倭の五王と東アジア情勢──。最新の発掘調査とAI・DNA分析などの科学的アプローチ、さらには中国や韓国の国際研究の成果から、「日本」という国の始まりを多数の写真や図版とともに描き出します。
 刊行を記念し、本書の「はじめに」と本編の冒頭部分を特別公開いたします。

(NHK出版公式note「本がひらく」より、本記事用に一部を編集して転載。)

『新・古代史 グローバルヒストリーで迫る邪馬台国、ヤマト王権』はじめに

 私たちが暮らす日本という国。その始まりには、大きな謎がある。
 中国の歴史書「魏志倭人伝」に登場し、この国の黎明期に女王となった人物である卑弥呼。古代日本のルーツに迫る手がかりとして、これまで様々な研究がなされてきた。しかし、今なお、わからないことだらけだ。
 第一の謎が、卑弥呼がいたとされる邪馬台国。「魏志倭人伝」に記されたルートを辿ると、海の中にあったとも言われる。果たして、その所在地はどこだったのか。
 第二の謎が、卑弥呼の国づくり。「魏志倭人伝」には、「倭国乱」と言われた混乱の時代に、卑弥呼は女王になったと記されている。中国に使者を派遣した記録が残っているが、当時、中国は三国志の時代。戦乱が続く大国とどんな外交をし、どんなふうに国を導こうとしていたのか。
 そして第三の謎が、卑弥呼の最期。「魏志倭人伝」には、卑弥呼が長年、最大のライバル・狗奴国という勢力と争ったことが記されている。しかし、結末は書かれていない。そのため、卑弥呼はその最中に亡くなったとも言われている。
 彼女は何者で、その国づくりは、その後の日本の歴史と、どのようにつながっていったのだろうか。

 この国の始まりにまつわる謎は、それだけではない。卑弥呼が活躍したのは三世紀だ。しかし、次の四世紀は、手がかりとなる記録が中国の歴史書から消えることから「空白の四世紀」と呼ばれている。困ったことに、当時の日本でどんな国づくりが行われていたのか、文献から確かめることができない。
 ようやく、この国が歴史の表舞台に再び登場するのは五世紀。中国の歴史書『宋書』倭国伝に突如、ヤマト王権を率いた「倭の五王」が現れる。そして、ヤマト王権の大きな特徴でありシンボルとなったのは、世界でも類を見ない巨大な墳墓「前方後円墳」だ。最も大きい大仙陵古墳の全長は、エジプトの大ピラミッドや中国の始皇帝陵を凌ぐ圧倒的スケールを誇る。
 ヤマト王権は、地方豪族たちが居並ぶ中、いったいどのようにして抜きん出た力を手にしたのだろうか。そして、その絶大な力をもって、彼らは日本の原型をどのように形づくっていったのか。
 このように古代史は、多くの謎とロマンで満ちあふれている。本書では、最新研究とグローバルヒストリーの観点から、この国のルーツにまつわる謎の数々に、新たな光を当てることを試みたい。
 グローバルヒストリーとは、日本史や世界史という垣根を乗り越えて、地球規模のスケールでありのままの歴史を俯瞰しようという新潮流だ。これまでNHKスペシャル取材班では、「戦国時代×大航海時代」「幕末×欧米列強」といったテーマを掲げ、グローバルヒストリーの観点から新たな歴史像を描いてきた。
 今回は、弥生時代から古墳時代の日本と、中国や朝鮮半島の国々が織りなした激動の時代に焦点を当てる。一方、国内外の研究者に取材を行う中で、古代史には現在も様々な学説や、多様な解釈が存在することを改めて認識している。
 文書記録が乏しい時代であるから、決定的なことはまだわかっていない。そのため、特定の説を支持する意図はない。それよりも、わずかな手がかりや考古学的痕跡から論理的で説得力のある議論を構築し、この国の始まりの謎を解き明かそうと苦心している研究者たちの努力と挑戦の物語が、本書から垣間見えたら幸いである。

NHKスペシャル取材班 夫馬直実・田邊宏騎

邪馬台国と古代中国

 大陸から日本列島に渡ってきた人々によって、この国の歴史は幕を開けた。旧石器時代から縄文時代、弥生時代へと移行していく中で、当時の人々はどのような文化をつくり上げていったのか。
 日本のあけぼのにおいて、最も有名な人物とされるのが邪馬台国の女王・卑弥呼だ。卑弥呼がどこで何をしていたのか、それがわかればこの国の成り立ちを解明できるかもしれない。
 そのように考えた数多くの人を虜にしてきたのが、邪馬台国の所在地探しである。本章では、邪馬台国の所在地に関する研究がこれまでどのように行われてきて、そしてどこへ向かおうとしているのか、発掘調査や科学研究の経過と最前線を見ていく。

邪馬台国は海の中にある?
 邪馬台国はどこにあったのか。この謎の発端は、「魏志倭人伝」と呼ばれる三世紀の中国で書かれた歴史書にある。この時代、日本列島では文字文化が十分に発達していたわけではなかった。そのため、文書記録はお隣の中国の歴史書に頼る必要がある。
 当時中国では、歴代の王朝が自らの正当性を誇示するため、皇帝の命によって前代の王朝の記録を整理し、編纂する国家事業が行われていた。このうち、西せい晋しんの歴史家・陳寿が編纂したのが『三国志』。魏書(魏志)三〇巻、蜀書(蜀志)一五巻、呉書(呉志)二〇巻で構成される。
「魏志倭人伝」は、魏書(魏志)の中にある、魏から見た北辺や東海の国々を書いた烏丸鮮卑東夷伝のなかの倭人の条の部分に該当する。長くてややこしい説明になるため、一般的には通称で「魏志倭人伝」と呼ばれている。
 文字数にすれば、およそ二〇〇〇。とりわけ、邪馬台国への道のりを記すのは、わずか八三文字である。この記録が、所在地を巡る論争の大きなきっかけとなってきた。
 次の文章は、原文から邪馬台国への道のりに関わる部分を抜粋し、書き下し文にしたものだ(以下、「魏志倭人伝」の書き下し文、現代語訳はすべて、渡邉義浩『魏志倭人伝の謎を解く――三国志から見る邪馬台国』中公新書、二〇一二年より引用する)。

「郡より倭に至るに、海岸に循て水行し、韓国を歴へ、乍は南し乍は東し、其の北岸の狗邪韓国に到る。七千余里なり。
 始めて一海を度ること、千余里にして対馬国に至る。」
「又 南に一海を渡ること千余里、名づけて瀚海と曰ひ、一支国に至る」
「又 一海を渡ること、千余里にして末盧国に至る。」
「東南に陸行すること五百里にして、伊都国に到る。」
「東南して奴国に至る百里。」
「東に行きて不弥国に至る百里。」
「南して投馬国に至る、水行すること二十日。」
「南して邪馬台国に至る。女王の都する所なり。水行すること十日、陸行すること一月。」

 邪馬台国の道のりは、朝鮮半島からはじまる。「郡より倭に至る」。郡とは古代、朝鮮半島の中部西岸に置かれた中国の郡名「帯方郡」のことを指す。倭とは、中国や朝鮮で日本のことを呼んだ古称で、日本も七世紀以前は、通商上、倭を自称していた。
「初めて海を渡ること千余里。対馬国に至る」。対馬国は、今も同じ名を持つ長崎県の対馬のことだと考えられている。「南に海を渡り一支国」「さらに海を渡り末盧国」。投馬国までの記述は、九州に上陸して、いくつかの国に立ち寄った様子とされている。
 ところが、ここからの記述が読み手を混乱させることになる。「水行すること二十日」、さらに「水行すること十日、陸行すること一月」。つまり、南の方角にどんどん進んでいくと「邪馬台国に至る」というわけだ。
 具体的な距離は、「魏志倭人伝」に明記されていない。しかし、これだけの日数を南に進むとなると、九州をはみ出し、何もない海の中にたどり着いてしまうのではないかと考えられるのである。

NHKスペシャル取材班

私たちの国のルーツを掘り下げ、古代史の空白に迫るNHKスペシャル「古代史ミステリー」の制作チーム。他にもこれまで「戦国時代×大航海時代」「幕末×欧米列強」といったテーマを掲げ、グローバルヒストリーの観点から新たな歴史像を描いてきた。

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