【採用のツボ】人材を見極め惹きつけるための極意④「良い人を採るための見極め力」 —— オーエンス代表 並木哲彦
これまでの3回のコラムで、「自社にとって良い人」を採るために「良い人」を定義することや、具体的な採用方法などをお話してきました。
①「良い人」を定義する
②「良い人を採る」
③「良い人を採るための伝える力」
今回は、「良い人を採るための見究め力」についてお話します。
採用面接の主役は応募者
結論、「良い人」を見究める方法は、応募者の本音を聞き出すことです。 本音を聞き出して応募者が自社の「良い人」の定義にマッチしているかを見究めます。
採用面接では面接官が自社の話や面接官ご自身の経験談などを一生懸命お話しされています。面接官にご自身と応募者との話の分量を聞いてみると、大体7対3か6対4で面接官が話をしています。実際、私が面接に立ち会うと面接官がご自身の武勇伝を語っている場によく出くわします。
採用面接では、応募者のこれまでの経験や実績、その経験から学んだこと、その経験を生かして当社でどのように活躍したいかを聞く必要があります。面接の主役は応募者です。
よくあるミスは応募者の人物評価
面接後に「さっき会った人、すごくいい人だった」という会話をよく聞きます。ところが 3ヶ月後に、 その方についての評価を聞いてみると、「なんかうちの会社には合ってないみたい」と回答が返ってきます。一体何が起こっているのでしょう?
それは、応募者が「当社にとって良い人」とマッチしていません。
例えば、甲子園出場を目指している高校野球のあるチーム。予選では毎試合5点以上を得点している攻撃力の高いチームです。毎年もう1歩のところで県大会を突破できません。なぜならば、負け試合は6点以上とられているからです。この場合、このチームの採用担当者がすべきことは防御率3点台のピッチャーの採用です。
つまりチーム(=自社)が3点台に抑えるためにどのような工夫や努力をしていくべきかという「課題」や「求める事」を明確にする必要があります。それらに対して必要となる人材を獲得することを念頭においた上で、「その人がどんなことを学んできたのか」、「それがどのように自社に活かせそうか」を面接で聞く必要があるのです。
ところが、採用面接の現場では、挨拶がしっかりとできている、とても爽やかなスポーツマン、努力を惜しまないガッツのある人という人物評価で採用しています。それでは、このチーム(会社)が抱えている課題を解決することができません。
ついつい見た目や印象に引っ張られて人物評価をしてしまう。採用面接で行う事は、人物を評価することでなく、これまでの実績から自社の課題を解決できる人かどうかを見究めることです。
見究め力
応募者の経験や指向や考え方が当社の「良い人」因子にマッチしているかを見究めるコツは次の4つです。
・頭の中を空っぽにして応募者に向き合う
・応募者に興味関心を示し、一挙手一投足を見逃さない
・語尾に注目する
面接官:「何かご質問はありかすか?」
応募者:「特にないんですけど。。」
質問が無い場合は「無い」と言い切ります。しかし、「けど。。」は何か言いたいことがあるため、ここを聞き込む。
・応募者の話しをWHYとHOWを使いながら深掘りする
これを意識して面接することで応募者の本音を引き出し、見究めていきます。
見究め力を発揮した例
前回のチームワークを重視する建材商社の中途採用現場でのひとコマです。
面接官:前職の金融機関でのワンマン体制での営業活動についてはよく理解できました。Aさんは当社でチームワークをしたいということですね。ちなみに、これまでのご経験で「チームワーク」のエピソードをお聞かせください。
Aさん(応募者):大学時代に大縄跳びのサークルに所属していました。約10人で大縄を飛びます。10人が大縄を飛び続けるのは結構大変なんです。まず、飛び込むタイミング。次に息を合わせて飛び続けます。私はキャプテンとして大縄を回す役割を担っていました。よくあるミスは飛ぶ回数が増すにつれてタイミングが合わなくなることです。
面接官:キャプテンとしてミスについてどのように分析してみましたか。
Aさん(応募者):練習風景をビデオ撮影して何度も見返しました。ミスの要因は飛ぶタイミングが合わないこと、飛ぶ高さが変わってくることの2点であることがわかりました。
面接官:なるほど。その分析結果に対して何か対策を講じましたか?
Aさん(応募者):はい、タイミングについては 縄の回し手が大きな声でカウントしメンバーにも一緒にカウントしてもらうことで解消に向かいました。飛ぶ高さについては、本質的な問題が各人の持久力にあることがわかりました。そこでメンバーに持久力アップの必要性を説き、持久力を養うためにスクワットなどのトレーニングをメンバーと一緒に地道に行いました。
面接官:なるほど。Aさんのキャプテンとしての現状把握、課題の抽出、対策の実行は当社のチームワークそのものです。
ここで重要なのはチームワークを重視するこの会社が、チームワークを因数分解して自社の「良い人」因子を明確にすることです。
この会社は「チームワーク」次のように因数分解しました。
① チームワークによって得るべき成果の共有
② 成果を得るための課題を見つけ、その課題を解決するために各人が担う役割を明確にする
③ 役割を果たすためのスキルを身につけ、その状況を共有する
これがこの会社が明確にした「チームワーク」の意味でした。
ちなみにAさんは入社後、分からないことは自分でできる限りのことし尽くした上で先輩や上司に「分かりません。助けてくださいっ!」と元気よく聞いているとのことです。
自社の「良い人」因子を決めた上で面接に臨み、その基準に応募者がマッチしているかを見究め力を使った採用をしてみましょう。
次回の「採用のツボ」は、内定辞退を防ぐ「良い人を採るための惹きつけ力」についてお話します。
並木 哲彦(なみき てつひこ)株式会社オーエンス代表取締役。大学卒業後、銀行で法人向け新規開拓営業をする中で企業の人事や人材に関する課題の多さに注目し、2003年に人材コンサルティング会社を起業。起業後5年間は金融・不動産業界に特化した人材紹介業を行い、リーマンショックを機に第2創業として人事・採用コンサルティングに看板を掛け替える。
現在は常時、10社の社外人事部長としてクライアントの人事的課題解決をサポート。人材採用から社内ルールの策定、人事制度の導入、そして中間管理職のスキルアップ支援まで、社長が望むがなかなか実現できない課題を解決しクライアントの事業計画達成をサポートしている。学習院大学 応援団卒。現在、学習院大学応援団OBOG会長を務める。会社名は「企業とヒトの成長を応援するオーエンス」という企業マインドから命名。
シリーズ【採用のツボ】人材を惹きつけるための極意 ——オーエンス代表 並木哲彦
①「良い人」を定義する
②「良い人を採る」
③「良い人を採るための伝える力」