PROPOSTA プレゼンツ『深澤直人氏トークショー』アフターレポート
Special Talk with NAOTO FUKASAWA
去る7月5日(金)、福岡市博多区中島町にショールームを構えるインテリアショップPROPOSTAとMolteni&Cの主催による世界的なデザイナー、深澤直人氏によるスペシャルトークショーが福岡市内の明治安田ホール開催されました。
世界を股にかけて活躍する深澤直人氏のトークショーが福岡で開催されるとあって来場者の予約は瞬時に埋まり、当初予定していた席数を拡張しての開催となりました。
当日の会場には、福岡県外から建築家、インテリアデザイナーはもとより、様々なジャンルのクリエイターが詰めかけ、開演前から独特な雰囲気と空気感に包まれた会場でした。
今回、深澤氏の来福は、昨年4月にミラノサローネで発表され、国内では今年2月から発売された深澤氏が手掛けたイタリアの家具ブランド、Molteni&C(モルテーニ)の新作アームチェアCINNAMON(シナモン)とシェーズロングTUSCANY(タスカニー)の完成を記念したトークショーです。
トークショーは、CINNAMON(シナモン)とTUSCANY(タスカニー)の制作秘話。社会の中でのデザインの役割、海外でのプロジェクト、そして、近年深澤氏が設計された自身のアトリエの話しなど多岐にわたりました。
1時間の濃密なトークの模様を抜粋でお伝えします。
福岡という都市の魅力について
トークショーの冒頭は、深澤直人氏の福岡の思い出の話しからスタートしました。
1989年から96'まで、アメリカのサンフランシスコのシリコンバレーに住み現地の会社で働いていた深澤氏。当時、韓国のプロジェクトをたくさん抱えていた関係でアメリカから福岡に来て、韓国に行くという経路を辿っていたそうです。
韓国に行く前に福岡で1、2泊して屋台やラーメン、美味しいもの食べて韓国に通ってました。また、福岡には当時からポスト・モダニズムの建築がたくさんあって色々な建築家の作品を見てまわりましたね。福岡はとても整った力のある街だと思います。いつ来ても面白くて憧れの街です。当時も今日も思ったのですが、福岡は空が青くて大きいなっていつも思うんです。光が東京とは違うんですよね。
東京の一極集中、世界情勢の緊張など近年のシリアスな状況を通じて都市論を考える中で、都市としての福岡を見ると色々な可能性が見えてくる気がしますと深澤氏。
社会の中でのデザインの役割りとは
デザインの定義とは?とよく聞かれます。難しいですがあえて言葉にするとすれば、デザインとは、人と環境をつなぎ合わせ媒介し調和させる行為だと思います。つなぎ合わせる媒介になって雰囲気を作り、空気の中にかたちを描いて質を作り出すということです。
人とものと環境との関係の美しさ
私は若い頃、デザインの普遍性ということを考えていましたが、どこに行っても誰が見ても美しいデザインなんてことはないのだと今は確信しています。世界中を見てまわってわかったことです。
美を語るのは、恥ずかしい気持ちもあります。だけどあえて語るとすれば、美とは人とものと環境との関係の美しさのことをいう。その場所の歴史や習慣、カルチャーが違えば美も違う。どこにあっても美しい形などというものはないのだということを40年間デザインの仕事をしてきて強く思います。
例えは、福岡のホテルオークラの横に屋台が並んでいる風景は、福岡独自のもので悪くないですよね。福岡の美がそこにあると思います。
かたち(構成/コンポジション)
かたちとは、ものとひとの間の関係の線である。人はそのかたちに触ることでいいデザインを感じ分けている。
触れるとは手や身体で触れるだけではなく視ることも触れるといっていいと思います。
私たちは膨大な情報量の中で様々なかたちを見極め、その中で優れた構成のコンポジションを嗅ぎ分けているのです。身体感覚=身体が何を感じているかを感知することが大事です。
脳ではなく、身体で感じる心地よさを信じないとこの仕事はやっていけません。
デザインの輪郭
デザインの仕事とは空間に新たな輪郭を引くような行為でです。
私たちが営んでいる世界は代別すると、一つは「物資(もの)」、もう一つは「媒質(空気や水のようなもの)」にわけられます。そう考えるとデザインは空気のなかに新たな輪郭を引くような行為であるともいえるし、空気のなかに物質を配置することで美や機能を達成させようとしている行為であるともいえます。
最近よく”エンボディメント”という言葉について考えます。
本来、かたちのないものを空気の中にかたちとして描き、ものとして存在させることを私はエンボディメントという概念で理解し大切にしています。
仕事について、生活について
自身で設計したアトリエを最近建てました。
このアトリエを建てようと思った大きな理由の一つに、私がこれまでつくってきたプロダクトを実際の生活の場に置いて経験したいと思ったことです。オフィス空間、キッチン、ダイニング、会議室など置いてあるものは私がデザインしたものです。
イタリアの建築家・デザイナーであるルイジ・カッチャ・ドミニオーニ(1913-2016)の照明も気に入って自宅に置いています。
ジオ・ポンティ(1891-1979 )などもそうですが、イタリアで1940年代に花開いたデザイナーは今見ても凄いと思います。彼らから学ぶことが多くあります。
民藝や工芸の世界から自然にデザインに移行していった時代で、建築でも新しい空間を作ろうとエネルギーが溢れた時期です。クリエイティブに関わられている方々にはこの時代を勉強することをお勧めします。
CINNAMON(シナモン)とTUSCANY(タスカニー)の誕生
今では私は、スケッチはあまり細かく描きません。信頼できるスタッフが私の意図を汲み取ってディテールをつめてくれますから。
シナモンで一番大変だったのはインカーブの布地の使い方。どこにもシワがなく、程よい沈み込みを表現することを目指しました。
シナモンが完成してわかったことがあります。それは、このソファに座って体を埋め包まれるととても心地いいのです。つくる前までにはわからなかった気持ちよさです。つくってみて経験してわかることがよくあります。
モルテーニの工房には、表には名前が出てこないのだけれどこの人ではないと作れないといったすごい職人さんがいます。そういう職人たちとの会話は楽しくてしょうがないです。彼らと同じ時間を過ごすことでものづくりに関わる楽しさを改めて実感しています。
タスカニーは、スケッチをはじめて、ドローイングを何枚も描きました。私のアトリエで紙のモデルを作り検証し、イタリアで試作品を見て何度も微調整を繰り返してミラノサローネで発表を迎えるまで1年半ぐらいかかりした。
私のアトリエにもシナモンとトスカニーも置いています。
深澤氏のプレゼンが終わりプロポスタの山川代表も壇上に上がり、山川社長から一つだけという質問が投げかけられました。
ー 深澤さんは、現在でも同時に50以上のプロジェクトを抱えておられるとお聞きしました。生活雑貨、生活家電、家具、建築いろいろなことを手掛けられています。一つの頭で複数のプロジェクトを考えるための思考の切り替え方はどのように行われているのでしょう?
デザイナーとして、基本的な前提を自分で信じていてるものがあります。それは、みんなが少なくとも悪くないねと思うものをいつでも提案できるという信念なのですが、それ持っていないとデザイナーとしては成り立たないと思います。質の高いアイデアを感知するセンサーと経験値は私の中に染み込んでいると思います。
例えば、プロジェクトを始めるにあたってクライアントなどとのブリーフィングの中で、瞬時にこの方向で行きましょうというアイデアがその場で出ないとそのプロジェクトは大概うまくいきませんね。その引き出しを持っているという自負はあります。
トレーニングを40年間やっていますし、動物の毛がいつも立っている状態が自分かなと思っています。
最後に山川社長から、こちらも日本を代表するグラフィックデザイナーの原研哉氏がかつて深澤直人氏を評した一文が紹介されました。
”誰も触れていない発想という大海原で笑いながら昼寝をしている、それが深澤直人だ”
実り多いクリエイティブな時間。深澤直人さんの今後のプロジェクトにますます期待します。