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井の頭公園の<ハンノキ林>整備イベントに参加してみた 湿地と生物多様性を再生する?【東京都武蔵野市】

サカナト

わくわく湧水ハンノキ林作業の日(撮影:土屋ジビエ)

ハンノキ」という木を知っていますか。

水辺を好む樹木で、湿地や田んぼの畔などでよく見られます。全国に分布していますが、東京ではまとまったハンノキ林は減少しており、東京・吉祥寺の井の頭恩賜公園(井の頭公園)は都内に残る数少ないハンノキ林のひとつです。

2月16日、この貴重なハンノキを守り育てるための整備イベント「わくわく湧水ハンノキ林作業の日」が開催されたので、参加してきました。

ハンノキと井の頭公園

ハンノキは地下水位の高い湿潤な環境を好む樹木です。井の頭公園内にある「井の頭池」は湧水によってできた池で、公園の中には地下水位が高い場所があります。

ハンノキ林はそんな地下水位の高いエリアに生息しています。以前は、現在のハンノキ林のエリアに成木が10数本ありましたが、周囲は公園として整備されていたため乾燥しており、新しいハンノキが生える余地はありませんでした。

ハンノキの成木(撮影:土屋ジビエ)

しかし、2018年に発生した台風の影響で多くのハンノキが倒壊したことをきっかけに、このエリアをハンノキ林として再生するための取り組みが始まったのです。

ハンノキは東京都では絶滅危惧II類に指定されており、繁殖させること自体に意味がありますが、ハンノキ林の生息環境は湿潤で多くの生物が生息できる環境にもなります。

自然な状態で維持し、生物にとって良い環境を増やすことも目的の一つです。

ハンノキの雄花(撮影:土屋ジビエ)

今回の整備イベントでは、ハンノキが生息できる湿地環境を作るため、地下水位が上がったときに湿潤な環境になるように掘り下げること、傾斜地からの土の流入を防ぐために柵を設けることの2つが具体的な作業となります。

2019年に取り組みを開始 4年後には200本以上の発芽

2019年に取り組みを始めたときには、切り株から萌芽更新が起こるようにしたり、倒木も置いて植生の回復に役立てたりしたそうです。

その後、湿地環境整備が進んだことで、2023年には種子から200本以上の発芽も。現在では成木6本のほか、5メートル、2~3メートルほどの木がそれぞれ10数本、それ以下の小さな幼木は無数に生えてきています。

2024年夏の湿地の状況。満々と水を湛えている(提供:生態工房)

また、2023年には、6月と9月に地下水が湧出し湿地が形成され、湿地性の動植物の発生が確認されるようになりました。

同じ場所を別の角度から撮影したもの。2025年2月(撮影:土屋ジビエ)

一緒に作業すればみんな「仲間」に

整備イベントの主催は東京都西部公園緑地事務所で、井の頭公園の生物多様性保全に取り組む認定NPO法人「生態工房」が活動を指導しています。この日は約30名が参加しました。

現場で指導してくれたのは、生態工房の佐藤方博さん。

生態工房・佐藤さん(撮影:土屋ジビエ)

佐藤さん「冬は雨も少ないので、今は完全に乾燥しているように見えますが、土を掘り下げて水分条件を整えておくと、夏に地下水位が上がったときに湧水が現れるようになります。掘ってみると、過去のゴミなども出てきて、何度か整備のために土を入れていることが分かると思います」

なかなか大変な掘削作業 参加者は老若男女

参加者は半数ずつ、「掘削作業」と「柵作り」に当たりました。掘削作業は、エリアの北側をL字型に30~50センチほど掘り下げます。堀り出した土は、近くに盛り上げておきますが、翌週に井の頭池にある湿地帯「葦島」の底上げに使われるそうです。

筆者も早速参加してみましたが、スコップで土を掘るという作業はなかなかに大変なもの。すぐさま背中や腰が痛くなってきます。しかし、さすがに十数名が一斉に掘ると仕事も早く、みるみるうちに盛土の山が高く積み上がっていきました。

相当な盛土の高さ(撮影:土屋ジビエ)

掘ってみると、地下にはケーブルが埋まっていることもあって、自由に掘り進めることはできません。周囲の状況に合わせて、同時に、自然な感じになるようにそれぞれで考えて、ギャップを作っていきました。

参加者はお子さんから高齢者までと年齢の幅が広く、20~30代の若い方も多く見られました。

一緒に作業するという体験は、なんとなくお互いを近づけます。この日は気温も高く、汗をかきながら和気あいあいと作業が進みました。

木を組み合わせて作る「しがら柵」は生き物の住処に

柵の作業は、木を組み合わせて作る「しがら柵」の整備です。自然物なので1年も経つとだんだんヘタってくるので、新しいものに作り変えるのだそうです。

しがら柵の作業の様子(撮影:土屋ジビエ)

ちなみにこのしがら柵、木の枝などで作るために生物にとっても優しいもので、たくさんのトカゲの住処になっているそうです。

10時~11時30分までのおよそ1時間半の短い時間でしたが、幅1.5メートル、長さ10メートルほどの範囲を掘り下げることができ、しがら柵もきれいに整備し直すことができました。

ハンノキ林の再生は<生物多様性の復活>でもある

ハンノキ林の再生による、水辺の生物多様性の再生にも着目したいところです。

実は、ハンノキ林のための<湿地環境=エコトーン>が整備されたことで、さまざまな水生生物の発生も見られるようになっているといいます。

例えば、カトリヤンマです。2024年夏にはカトリヤンマの羽化が見られ、ヤゴの抜け殻が100個以上確認されました。

カトリヤンマの羽化の様子(提供:生態工房)

佐藤さんは「2024年は6月から12月まで湿潤になりました。カトリヤンマは土手に産卵するので、生活史とハンノキ林の湿地のサイクルが、ちょうど合ったために多く見られたのではないかと推測されます」と語ります。

他にも、夏の湿地には、ニホンイシガメニホンスッポンの子どもが見られたとのこと。

通常、カメは草地やちょっとした林に産卵し、卵からかえると子ガメは池まで移動します。整備されたハンノキ林がちょうど良い産卵場所になったうえ、孵化すると眼の前が湿地になっていて、子ガメにとってもちょうど良い生息環境になっているのだそうです。

生き物たちも反応してくれる 「ハンノキ林を見守って」

そして今回、掘り下げる深さ、場所を広げたことで夏の湿地も増え、さらに生物が増える可能性があります。

佐藤さん「今は冬になると乾燥してしまいますが、いずれ冬でも少し湿っているくらいには湿地が回復してくれるのではないかと期待しています。生き物たちも、私たちの作業に反応してくれます。皆さんは公園の利用者ではありますが、一緒に育てる仲間でもあります。これからも、ハンノキ林を見守っていただければうれしいです」

井の頭池の湧水量や地下水位は1960年代に大きく減少し、その後はなかなか回復していません。主に地下水を利用する武蔵野市の水道が、河川水を利用する都営水道と一元化されれば、回復するのではという期待もあります。

地下水位が回復すれば、ハンノキ林が湿地である期間も長くなってくれるのかもしれません。

「新しい視線で、自然を見ることができそう」

都内から参加した人は「普段はアウトドアなどが好きで、山にもよく行くのですが、今度は自然に恩返ししたいと思って、ボランティアを探してこのイベントにたどり着いた」といいます。

「植生について教えてもらい、作業も楽しくやりがいがあった。これまでは、自然や公園の中で“遊ばせてもらう”だけの身でしたが、ちょっとだけでも“作る側”の立場になれたことで、新しい視線で、自然を見ることができそうです」と話していました。

再生事業に参加してみよう!

人工的な環境は、放置していては良い状態を保てません。適切に手入れし、維持管理する必要があります。

写真はサジオモダカ。土に埋もれていた昔の種が息を吹き返したのではないかとのこと。写真上は、井の頭池に自生するもの(提供:生態工房)

井の頭池も元々は浅い池でしたが、今は堰でかさ上げして深くされており、湧水量が減少したために人間の手によって水量調整が行われています。2013年~2017年に行われた「かいぼり」は、そんな井の頭池の環境を改善するために行われたものでした。

生態工房は、かいぼり事業でも中心的役割を果たし、現在でも池の中の湿地「葦島」の整備や、ハンノキ林再生事業等に取り組んでいます。残念ながらかいぼり事業は2017年を最後に行われていませんが、その他のさまざまな活動は継続して行われています。

参加者全員で記念撮影。おつかれさまでした(撮影:土屋ジビエ)

湿地は見るだけでも楽しいですが、作業するともっと楽しいです。井の頭公園では、参加できるさまざまな活動がありますので、関心のある人はぜひトライしてみてください。

直近では、2月23日(日)に湿地の保全作業を体験するイベント「ちょこっとかいぼり隊 -湿地再生編-」が開催されます。公園・自然の“利用者”から“作る側”へと変わるチャンスですよ。

(サカナトライター:土屋ジビエ)

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