【子どもの発熱】ホームケアの新常識 「体を温め汗をかかせればよい」が危険な理由 「発熱時の正しい対処法」〔医師が解説〕
子どもに多い病気やケガへの対処法の最新知識を伝える連載「令和の子どもホームケア新常識」第3回。「熱が出たときは、体を温めて汗をかかせる」という旧常識について、小児科医・森戸やすみ先生が解説。
赤ちゃんの手づかみ食べ【新常識】赤ちゃんの3つのOKサインとは?〔ごはん外来の医師が解説〕【旧常識】 「熱が出たときは、体を温めて汗をかかせる」子どもの体調が悪くなったとき、ケガをしたときなどに、親が家庭で行うホームケア。
現代のホームケアの中には、私たち親世代が子どもだったころの手法から改善されたものが多数あります。子ども時代の記憶を頼りに、古い常識のまま子育てをしていませんか?
本連載【令和の子どもホームケア新常識】では、子どもに多く見られる病気やケガへの現代の正しい最新対処法を、小児科医・森戸やすみ(もりと・やすみ)先生が解説。
●森戸 やすみ(もりと・やすみ)PROFILE
小児科専門医。一般小児科、新生児集中治療室(NICU)などを経験し、現在は都内のクリニックに勤務。医療と育児をつなぐ著書多数。
第3回は「熱が出たときは、体を温めて汗をかかせる」という旧常識について。ホームケアの常識をアップデートして、いざというときに備えましょう。
汗をかけば熱が下がるわけではない
子どもの発熱は、親が不安になる症状のひとつ。特に小さいうちは、ひんぱんに熱を出しがちです。自分が子どもだったとき、熱があると「たくさん汗をかいたほうが熱が下がるから」と、服を重ね着したり厚いふとんをかけられたりして、体を温めた経験があるママパパもいるのではないでしょうか。
発熱時のこうした対応は果たして正しいのか、森戸やすみ先生に伺います。
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熱が出る原因は、大きくわけて2つあります。ひとつは、熱中症や熱射病のように外から体を温められ、熱がこもって体温が上がる「うつ熱」。もうひとつは、ウイルスや細菌などの病原微生物が体内に侵入したときに体温が上がる熱。子どもの発熱は、後者の場合がほとんどです。
私たちの体は、病原微生物が侵入すると「悪いものが入ってきた」と、咳や鼻水によって外に出そうとするほか、脳内にある体温調節中枢からの指令で熱を出します。体温が高いほうが体の免疫機能がうまく働き、反対に、ウイルスや細菌などの増殖を抑えることができるからです。
熱が出るのは、体温を上げる必要があるから。「うつ熱」の場合を除き、熱を無理に下げる必要はないということですね。
最近はずいぶんと少なくなりましたが、子どもが熱を出したとき、体を温めて汗をかかせ、熱を下げようとする親御さんがいらっしゃいます。「少しでも早くラクになってほしい」というお子さんを思ってのことですが、この対処法はNGです。
汗をかくのは、病気が治った結果であって、汗をかけば熱が下がる、早く病気が治るというわけではないのです。
特に赤ちゃんの場合、体を温めようと必要以上に厚着をさせてしまうと、乳幼児突然死症候群のリスクになり得ることも。大変危険なので、注意してください。
暑がったら熱がこもらない工夫を
熱が上がっている段階では、体温調節中枢が体温を上げようとしているため、寒気がします。お子さんが寒そうにしている場合は、服を着せたり厚いふとんをかけたりして体を温めてあげて大丈夫です。
熱が上がりきってしまうと、今度は体に熱がこもって暑くなります。お子さんの顔が赤くなったり、暑がったりするようなら、手足を触って冷たくないことを確認し、通気性のよい服や、薄い掛けぶとんに替えて熱がこもらないようにします。普段よりも1枚薄着にしてもいいくらいです。
ときどき「うちの子、熱があるのに汗をかかないんです」と心配される親御さんがいますが、汗をかくのは体温を下げるためですから、体温を上げる必要があるとき、体は汗をかかないようにしています。体が熱を下げてよい状態になったら汗が出てくるので、心配しなくても大丈夫です。
体が熱くてつらそうなときは、保冷剤や氷枕などを首の後ろや脇の下に当てて冷やすと効果的です。嫌がる場合、お子さんが気持ちいいというところを冷やすといいでしょう。
市販品では、おでこに貼る冷却シートが人気ですね。おでこを冷やしても体温を下げる効果はありませんが、頭が痛いときは気持ちがいいと思います。
ただし、小さいお子さんへの使用は要注意。お子さんがおでこに貼ったシートを触って、鼻や口をふさいでしまった事故があるからです。親御さんが見ていられるときなら問題ありませんが、目を離す際には必ずはがすなど、そうした危険性があることは知っておいていただきたいです。濡れタオルも同じです。
食事は、食欲があるのなら普段どおりで。食べられるものなら、好きなものを何でも構いません。母乳やミルクもいつもと同じようにあげましょう。
高熱でも元気があれば大丈夫
熱が高くて眠れないとき、熱のせいで関節や筋肉などが痛むときは、解熱剤を使うのもいいでしょう。解熱剤は小児科で処方してもらえますし、市販薬でも用法・容量を守れば問題ありません。解熱剤は飲み薬のほか、坐薬もあります。
使用の目安は、熱が38.5度以上でぐったりしているとき。熱が高くても元気があれば、解熱剤を使わなくても大丈夫。受診の必要もないでしょう。
子どもは、もともと平熱が高いもの。また、小さなヤカンと大きなヤカンでは、小さなヤカンのほうが温まりやすいように、体の小さな子どもは大人に比べてすぐに熱が上がります。元気なら熱を無理に下げる必要はないですし、「うつ熱」と違って体温調節中枢が自分で熱を上げているので、体に危険がおよぶほど熱が上がることはないのです。
「高熱が続くと、脳に悪影響が出るのではないか」と心配する声もありますが、例えば、発熱とともに中枢神経に炎症を及ぼす髄膜炎や脳炎は、熱そのものではなく、ウイルスや細菌が原因です。風邪などが原因の熱が、直接脳に悪さをすることはありません。
受診が必要かどうかの見極めは、高熱に加えてほかの症状が出ているかどうか。激しい頭痛、ふらつき、嘔吐、咳が止まらないなど、いつもと違うつらい症状がある場合は注意が必要です。食べられないとき、水分が十分に取れないときも、早めに小児科を受診しましょう。
【子どものホームケアの新常識 その3】
熱が出た。寒気があるなら体を温め、寒気がなければいつもどおり。暑がりはじめたら体を冷やす。
取材・文/星野早百合