【今までありがとう】「となりでコスプレ博」が開催中止 / 珍事件と共に思いを馳せてみる
冒頭から恐縮だが、私は元コスプレイヤーである。
今では日本のカルチャーになりつつあるコスプレだが、私がコスプレを始めたのは10年以上も前のことだ。
当時は「オタクは気持ち悪い」という風潮があり、世間の目も冷たく、家族にも内緒で肩身の狭い思いをしながらコスプレをしていたのを今でもよく覚えている。
そんな私が現役時代欠かさずに参加していたイベントが「となコス」こと「となりでコスプレ博」だった。
そのとなコスが突如、今後のイベント開催中止を発表した。理由は、長年イベントを支え続けてきた主催者様のご逝去によるものだった。
今回はそんな思い出深いとなコスについて、この場を借りて思いを綴りたいと思う。よければお付き合いいただきたい。
・となコスとは
となコスとは、東京ビッグサイトのお隣さんであるTFTビル(東京ファッションタウンビル)で開催されていたオールジャンルのコスプレイベント。コミックマーケット(通称コミケ)と同日に開催されることが多く、まさに “もうひとつの祭り” として定着していた。
知る人ぞ知る……というか、コスプレイヤーならほぼ全員が知ってる超定番イベントだ。ちなみに夏のとなコスは「夏とな」、冬は「冬とな」とも呼ばれていた。
参加者の層は非常に広く、衣装制作に何ヶ月もかけたガチ勢から、好きなキャラをゆるく楽しむエンジョイ勢まで、誰もが自由に楽しめる空気が魅力だった。
また、地方から遠征してくる参加者も多く、いわば全国のコスプレイヤーの同窓会のような存在でもあった。
となコスが特別だった理由は、そうした多様性だけではない。イベント内外で生まれた独特のノリや珍事件も、その記憶をより濃くしている。
・となコスで起きた珍事件たち
たとえば、「変身ベルトおじさん事件」。これは、ライダーベルトを装着した男性が、「僕も魔法少年なんです!」と突然語りかけてきたうえ、その場で軽快な音楽とともに変身ポーズを決めたという一幕。なお、声をかけられた側(私)は魔法少女系のコスプレですらなかった。
また、初音ミクのコスプレイヤーに近づいたカメラマンさんが、撮影依頼するのかと思いきや、まさかの “自分が被写体になる” 展開になった「なんでお前が被写体になるんじゃ事件」もある。
さらには、ほんの少し会話しただけの殺生丸レイヤーが、何故かイベント終了まで同行し続けてきたという「一生ついてくる殺生丸様事件」など、ちょっと不思議で、ちょっと笑えて、どこか愛おしいエピソードも多い。
もちろん、こうしたエピソードの裏には、となコスの「許容する空気」があったからこそ。どんなコスプレでも、どんなキャラクターでも、基本的には受け入れられる雰囲気があり、それが何でもできる自由さにつながっていた。
・ありがとうとなコス
そんな「となコス」がなくなるという事実は、確かな喪失感を生んでいる。SNSでは惜しむ声が多く投稿され、「となコスがなかったら今の自分はいない」「主催者さん、本当にありがとうございました」という言葉が多数見受けられた。
主催者様の長年のご尽力には、ただただ感謝しかない。
あの頃の空気を、もう一度味わうことはできないかもしれない。それでも、となコスが与えてくれた時間は、参加者一人ひとりの中にしっかりと刻まれている。
もし、いつか、どこかであの空気がまた生まれるなら──その時はまた新しい衣装を背負ってとなコスの風を感じたいと思う。
ありがとう、となコス。
あなたがあったから、コスプレをより楽しむことが出来ました。
参考リンク:コスプレ博実行委員会
執筆:大島あさ未
Photo:RocketNews24.