認知症の人が慣れた家、街でも自分がどこにいるのかがわからなくなる世界とは?【認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方】
5:自分がなぜここにいるのか方向もわからない迷路の世界
○エピソード
認知症のある夫に、いつも行く近所のスーパーに買い物を頼みましたが、2回ほど帰ってこられなくなり、近所の人が発見してくれました。最近は家の中でもトイレがわからず失禁してしまうことがあります。
【あるある行動】慣れた場所でも迷う
脳の頭頂葉は、運動・触覚・空間認知・体の感覚・GPSのような方向感覚などを司る機能があるといわれています。その部分に何らかの障害が生じると、「触っている感覚がない」「物によくぶつかる」、さらに直前の記憶保持が難しいこともあいまって、「方向がわからなくなる」などの症状が現れます。
私たちは、初めての場所に行くと、道に迷わないように建物や看板など目印を見つけて対応します。しかし、認知症のある人は、初めて来たかどうかもわからず、目印を覚えておくこともできません。さらに、自分が何をしようとしていたかを途中で忘れてしまうことも多いのです。
すると、知らない場所になぜかぽつんと1人で取り残された状態になります。誰かに聞こうとしても、うまく話せません。本人は不安や焦りでいっぱいなこの状態を、外の世界の人たちは「俳諧」と呼び、迷惑がることがほとんどです。
生活し慣れた家の中でも、同じ理由でこのような状況は起き得ます。認知症の人でも、体にしみついた行動の記憶は失われにくいといわれているため、「歩行そのもの」はできるかもしれません。しかし、家具の配置、陽の入り方が変わり、場所の感覚がつかめなくなり、位置感覚が失われたことなどにより、トイレではないところで失禁してしまうこともあります。
○もしあなたがこの世界にいたら?
何かをするために移動しているとき、話しかけられたり別のことを考えたりすると、何をしに来たのかわからなくなった経験はありませんか?それが1日に何度も起こったら……?
【出典】『認知症の人に寄り添う・伝わる言葉かけ&接し方』著:山川淳司 椎名淳一 加藤史子