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東京ゲームショウを裏から支える活動を見てきた

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東京ゲームショウを裏から支える活動を見てきた

先月末、私は幕張メッセで開催された東京ゲームショウを見てきました。この文章は、そこで見てきたゲームショウやゲーム産業を舞台裏から支えている諸活動についてのものです。


豪華絢爛! 東京ゲームショウ2025

その前に、一人のゲームプレイヤーとしての私が見た東京ゲームショウの景色も少し紹介します。

「遊びきれない、無限の遊び場」をテーマにした東京ゲームショウ2025は、47の国と地域から1136の企業・団体が参加する一大イベント。プレスリリースによれば、今年は26万人超が訪れたといいます。コンピュータゲーム(以下ゲーム)が好きで40年以上遊び続けてきた私としては、いつかは訪れてみたいイベントのひとつでした。

ついに東京ゲームショウの会場に着いたぞ!

驚いたのは、人、人、人、人、の大洪水だったこと。体感人口密度は文学フリマよりずっと上、コミックマーケットとそんなに変わらない程度ではないでしょうか。外国人参加者の数にも驚かされました。さまざまな言語が飛び交い、各企業ブースのスタッフさんはしばしば多言語で対応されていました。

ちょっと薄暗い会場にはゲーミングPCのごとくキラキラとしたデコレーションがひしめいていて、とてもきれいでした。どの企業もデコレーションには力を入れており、ひときわ目立っていたのは、最近8兆2千億円での買収が報じられたエレクトロニック・アーツ社のゲーム『バトルフィールド6』の巨大な戦闘ヘリコプター模型でした。この模型の周辺はすごく混雑していて、通行を妨げてもいけないと思って写真を撮るのは控えましたが、たくさんの人が注目していました。

最新ゲームやこれから発売されるゲームがそこらじゅうに展示されているので、ゲーミングPCを新調したくなる場所です! さまざまなゲーミングデバイスや周辺アイテム、エナジードリンクのレッドブルなども出展されていて、ゲーム愛好家の物欲を刺激してやみません。

スクエアエニックスやコーエーテクモといった日本の有名メーカーだけでなく、もっと小さな外国企業のブースもありました。これは、私が愛してやまない『ヨーロッパユニバーサリス』というゲームの最新版、『ヨーロッパユニバーサリス5』の展示です。このゲームはスウェーデンのパラドックス社というメーカーの作品で、本当に発売されるのか私は心配で仕方がなかったのですが、進捗しているようでホッとしました。

国策としてゲーム産業を支援している国のブースも目立ちました。ゲーム産業の国家的支援というと、私は真っ先に韓国を思い出しますが、ロシアやマレーシアでも国策としてゲーム産業が推されていることを知りました。聞くところによれば、今年の東京ゲームショウに出展している企業・団体のうち、過半数の615社は海外からの出展なのだそうです。前述の『バトルフィールド6』のほかでは、すでにゲーム大国となっている中国の企業がド派手な演出と人海戦術で人気を集めていました。力の入れようは、半端ありません。


華やかな舞台を、縁の下から支える活動があった

それはそれとして、今回、私は東京ゲームショウの別の一面も見せていただきました。以下の内容には、一般社団法人コンピュータエンタテインメント協会(CESA)の関係者の方のご厚意のもと、拝見させていただいたものを含みます。

また、同協会の方をはじめ、色々な方々からお話を伺う機会もいただきました。この場を借りて御礼申し上げます。そのうえで、この文章の文責は熊代亨にあります。

はじめに見せていただいたのは、警視庁・千葉県警・神奈川県警のブースです。東京ゲームショウにどうして警察が? と思ったのですが、サイバー犯罪絡み、たとえばフィッシング詐欺についての啓発に関する展示がありました。それからリアルマネートレード(RMT)問題。

「リアルマネートレード、まだあったんだ!」 と私は昔のオンラインゲームを懐かしく思ってしまいましたが、オンラインゲーム内の通貨取引だけでなく、ゲームアカウントの売買やゲームアカウントの育成商売もこの範疇に入るとのこと。なるほど! ゲーム企業も対応に苦慮している領域で、警察との連携が大事である様子がうかがわれました。

また、地方自治体のゲストの方とお話をする機会もありました。ゲームと地方自治体という取り合わせを意外に思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし振り返ってみれば、位置情報ゲーム『ポケモンGO』やブラウザゲーム『艦隊これくしょん』のイベントなどにも地方自治体が関わっていたわけで、ゲームと地方自治体という取り合わせは最早珍しいものではないのでしょう。

横浜に本拠地を置く学校法人・岩崎学園が、地元にゆかりのあるeスポーツプレイヤーを集めてイベントを開催している様子も見せていただきました。聞けば、プロ選手と一般参加者の交流やプレイ指南のようなイベントもやっているそうです。地域の人と縁を持つこと・地域の人に活動を理解していただくこと・地方自治体とコラボレーションも図っていくことに、時間や情熱が費やされている様子がうかがわれました。

そうしたことの延長線上として、「ゲームと子育て」「ゲームと親子」といいったテーマへの取り組みもあります。

東京ゲームショウの一角にはファミリーゲームパーク「アソビバ」というものが設けられていて、小中学生向けにさまざまなゲームや出展物がありました。小さなお子さんに限っていうなら、幾つかのゲームは一般展示よりもファミリーゲームパークのほうが試遊しやすかったかもしれません(それでも満員御礼の様子でしたが)。お子様連れエリアだからでしょうか、人口密度もそこまで高くなく、ピザなどの出張販売なども来ているのでちょっとした穴場スポットだと私は思いました。

これも、子ども向けらしいアクティビティですね。『マインクラフト』をとおして、AIについて学ぼうというものです。『マインクラフト』は、子どもゲーム界の『鬼滅の刃』的な共通言語で、かつ、自分でゲームをつくる・いじる活動に最も開かれている作品のひとつでもあるので、絶妙なチョイスだと私は感じました。

それから「スマホとゲームのお約束メーカー」。会場では、タブレットのアプリを使って親子でゲームのプレイ時間などについて約束をつくる過程を実体験できるようになっていました。このお約束アプリを作ったのはゲーム企業のガンホーですが、ガンホーは以前からゲーム使用に関する啓発プロジェクトに取り組んでおり、たとえば適切なゲームプレイを啓発する内容のカレンダーを2010年代から学校に提供しています。たまたまいらっしゃった関係者の方にうかがったところ、この「お約束メーカー」もそうした啓発プロジェクトの一環として開発されたのだそうです。親から一方的に約束を子どもに押し付ける約束よりも、親子で一緒に約束をつくるほうが、ずっと約束は守られるとおっしゃっていました。


子どもはどこまで・どんなゲームに触れて構わないのか?

これは、家庭の事情や状況によってケースバイケースでしょう。たとえば我が家では子どものゲームアクセス権は昔から完全フリーで、うちの子どもは3歳にもならないうちから親と一緒に『Skyrim』や『oblivion』などを遊んでいました。これらのゲーム内ではたとえばスリをしたり友達を裏切ったり人肉を食べたりすることもできますが、「それらは悪い行為で、本来、やってはいけないこと」であることを共有しながらプレイすることで善悪是非について判断する貴重な教材になったように思います。

でも、これは我が家が両親ともにゲームを熟知していて、なおかつ幼少期の子どものゲームプレイに深く関われたからできたこと。一般のご家庭で同じことは難しいように思います。

ゲームのことがわからない親御さんにとって、ゲームとは子どもの時間を奪う存在、子どもの学業成績や身体的健康の敵、刹那の楽しみ以外にはたいしたものをもたらさない存在とうつるでしょう。ゲーム課金の仕組みについてよく知らない親御さんも少なくありません。そうしたなか、親のクレジットカード情報を巧みに取り出してこっそり課金をしてしまう子どももいると聞きました。

ですから、ゲームに明るくないご家庭において、プレイ時間についてのお約束などが必要になるのは現実問題としてわかることです。しかし、ゲームを巡っての親子の軋轢のある部分は、ゲームに対する知識や経験の少なさ、それに根差した不安や心配によって拡大しているのではないでしょうか。

関正樹『子どもたちはインターネットやゲームの世界で何をしているんだろう?』などはまさにこれに答える本で、なおかつ、ゲーム障害(ゲーム行動症)とその周辺についても知ることができる本です。今回、私に説明してくださった関係者の方からも、「私たちとしても、できれば親御さんにゲームについてもっと知っていただきたい」といったお話をうかがいました。

精神科医としての私のゲーム障害についての臨床経験はそれほど多いとはいえず、私はゲーム障害と診断することにもさほど積極的でもありません。それでも診断基準にぴったり当てはまる患者さんに出会うことはやはりあります。そうした患者さんにしばしば共通するのは、親子間の軋轢が大きいこと、親子がお互いを信頼していないことです。

私は、この親子間の軋轢や信頼の欠如がゲーム障害の原因としても結果としてもかなり大きいのではないか……としばしば思います。そして自験例ではゲーム障害に当てはまる前段階として、家庭内で不協和音や意思疎通の乏しい状態が先行し、軋轢や信頼の欠如が具現化した宛先がたまたまゲーム障害だった……といった経過が多いよう感じています。

ですから、青少年がゲーム障害に陥る確率を減らす方策のひとつとして、親子のあいだの軋轢を減らし、信頼関係を保つことがとても大切だと思っていますし、その際、あらかじめ親御さんがゲームやゲーム課金について知っていること、ひいては子どものゲーム活動に理解があることは助けになるように思われるのです。ゲームについてよく知らないために不信感を募らせ過ぎていたり、逆に、子どもにリスクある選択肢を与えてしまっていたりする場合はあるよう思われます。

昨今は、親世代もゲームに親しんでいることが多いのでこうしたことは減っている……と言いたいところですが、令和時代のゲームと昭和時代のゲームには違っている部分も多いので、親御さんにゲームをわかっていただく必要性や、啓発活動の余地はまだあるよう推察します。


ゲームにまつわる人を育てること

もうひとつ。
ゲームを創るのではなくゲームに携わる人を創る、そんな活動も見せていただきました。

たとえばこちらの湘南工科大学のブースでは、学生さんの作ったゲームを触らせていただく機会を得ました。商品化されているゲームに比べれば粗削りで、作った学生さんはゲームプレイヤーが“面白いと感じるツボ”をまだまだ会得してらっしゃらないよう感じられましたが、ゲームとして動くところまで完成させ、人に触ってもらい、コメントをもらっていることが第一に素晴らしいことです。

写真にあるように、他にも色々な教育機関のコーナーが並んでいました。東京大学のコーナーでは、ゲーム実況の途中で閲覧者がゲームをリプレイし直し、いわば元の実況とは異なる"世界線"をつくりだすようなアイデアを、『テトリス』を例に挙げて紹介していました。異なる"世界線"に枝分かれといえば、私などは『シュタインズ・ゲート』などのビジュアルノベルを連想してしまいますが、ゲーム実況と組み合わせれば違ったジャンルにも応用できそうですし、これを基幹コンセプトに据えることで従来なかったゲームが生まれるかもしれない……など思いながら拝見しました。

そうしたこととはまた別に、「ゲームクリエイター甲子園」「IGC学生選手権」のようなコンテストもあるわけです。今回はじめて知りましたが、「ゲームクリエイター甲子園」って、コナミが後援活動をやっているんですね。なので、この展示は『MLB PRO SPIRIT』や『桃太郎電鉄2』の広告のすぐ近くにありました。人材育成に目を向けているのは教育機関だけでないことを示す例だと思います。


華やかな産業は裏方に支えられている

今回の東京ゲームショウ訪問をとおして、私はゲームの世界についてまた少し知ることができました。もちろん私もゲームプレイヤーの一人ですから、最新鋭のゲームや超高性能なゲーミングPC、好きなゲームの関連グッズなどには強く心惹かれますし、我が家のゲーミングPC買い替え事業はこれで促進されるでしょう。

でも、ゲームの世界・ゲームという産業はそれらだけで成り立っているわけじゃないんですね。煌びやかなショウの裏側では、たくさんの人々が産業としてのゲームを支えるために活動していました。行政が関与する領域では警察や自治体と、人材育成にかかわる領域では教育機関と連携しながら、ゲーム産業が持続可能で社会に貢献できるよう、注意と労力が払われている様子がみてとれました。

「スマホとゲームのお約束メーカー」などもそうですね。未来のゲームをプレイするのも創るのも子どもですから、未成年のゲーム使用が好ましいものであるよう企業側も試行錯誤しているのは、好ましいことだと思います。

ゲーム産業は、クリエイターとファンだけで成っているわけにはあらず。

巨大産業と化したゲーム業界が、社会のなかの色々なセクターと関わっていかなければならず、持続可能な仕組みを確立していかなければならないのは当たり前といえば当たり前です。ゲームの世界を縁の下から支えている人々の活動を見て、その当たり前のことを意識できたのは私にとって収穫でしたし、産業としてのゲーム、多くの人に支えられているゲームについて意識する機会となりました。

***


【プロフィール】

著者:熊代亨

精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。

通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。

twitter:@twit_shirokuma

ブログ:『シロクマの屑籠』

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