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50年前の名曲を再定義!中島みゆき「時代」流行り廃りなし!全世代を励ます奇跡的名曲

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1975年12月21日 中島みゆきのシングル「時代」発売日

この曲は、私のための歌だ


この歌の前ではみな平等。価値観や考え方にナイル川ほどの隔たりがある団塊の世代と令和の世代も、ともに心の底から励まされるミラクルな曲が、この「時代」だ。

なぜなのか? それは絶望がシンプルに描かれているからだ。どんな人の心にも、絶望くんは図々しく押し入ってくる。不幸にレベルなんてない。他の人から見ればどんな小さな悩みでも、その人が叩きのめされるのであれば、それはもう絶望なのだ。誰だって1度はあるだろう。何をやっても心が奮い立たない、どうしたら立ち直れるかわからないくらいの悲しい日が。そうやって心の扉が閉じたとき、この曲は、この曲だけは、扉の小さな小さな隙間を通って入ってきてくれるのである。

だから、“ああ、昭和の歌だよね” “なつかしいね” ではない。いつの間にかそばにある、私のための歌だと感じるのだ。実際、中島みゆきがDJを務めていた『オールナイトニッポン』で、この曲をオンエアしたところ、“私のために流してくれてありがとう” という旨のファックスが膨大な数送られてきたという。納得だ!

「時代」と「時の過ぎゆくままに」の共通点は?


この曲がリリースされたのは、今からちょうど50年前の1975年。学生運動が悲惨な失敗を遂げ、若者たちが、権力に立ち向かっても何も変わらないと打ちのめされた時代だ。経済的にも不況で、貧困に苦しむカップルを描いた「昭和枯れすゝき」(さくらと一郎)や、無気力に堕ちていく恋愛を歌った「時の過ぎゆくままに」(沢田研二)が大ヒットしたことからも、当時のほの暗い世相が窺える。

そういえば、「時代」と「時の過ぎゆくままに」は少し似ている。「時の過ぎゆくままに」は阿久悠の作詞で、男女の関係を描いてはいるものの、主人公は生きることに疲れ切り、心の傷を負い、何もできない。ただようだけだ。そして「時代」も「♪今日の風に吹かれましょう」と歌う。

ただ1つ大きく違うのは、「♪もしも二人が 愛せるならば 窓の景色も かわっていくだろう」と歌う「時の過ぎゆくままに」と比べて、「時代」は、その景色を変える希望である “愛” もない。ひとり悲しくて、涙も枯れ果てて、笑顔にもなれそうにないという、どん底からのスタートである。しかも 私やあなたといった人称が一切出てこない。その漠然とした、孤独でありながらも優しい語りかけは、見えざる力というか、言葉を選ばずに言えば、極限状態にしか見えない、自分のなかにいる神様の目線なのだ。

どんなに「時代」が変わっても…


1975年、中島みゆきは「時代」で世界歌謡祭のグランプリを獲得した際、『週刊ミュージック・ラボ』の特別インタビューを受けているのだが、自身の歌の作り方についてこう答えている。

現実に生きている私と、もう一人の私が、隣なり、後なりにいるんです。そのもう一人の私から送ってくる、何かを私は待っているんです。


少し不思議ちゃんな発言にも思えるが、私は、この「時代」は本当に、何か大きな力が、彼女にこの歌を書かせた気がしている。これからの日本に必要な歌だから、みゆきさん、歌いなさいと。

どんな風に立ち直るか、誰からのメッセージかが描かれないエール。だからこそこの歌は、どんなに時代が新しくなり文化や価値観が変わっても、シンプルに聴き手を救う。ただただ生きてればいいと思わせてくれる。それだけなのだろう。

昭和の歌から平成の歌、そして令和の歌に


それでもあえて昔と今で感じ方の違いを探すなら、私がこの歌を知った1980年代当時は「♪きっと笑って話せるわ」の歌詞に励まされた。でも50年経った今は、冒頭の歌詞「♪今はこんなに悲しくて 涙も枯れ果てて もう二度と笑顔にはなれそうもないけど」という弱音が、言いたいけど言えない心の中を代弁してくれているようで、リアルな救いを感じるのである。

そしてもう1つ、「♪生まれ変わって歩きだすよ」。SNSで1つ発言を間違えると詰む(人生終わる)とされる現代、少しの失敗で、もう再生は無理だと思ってしまう。ならば転生したい。これまでのことがすべて、中途半端にしか解決しないならば、いっそ全リセットして、新たな人生を送りたいと願う。中島みゆきが「♪生まれ変わって」という言葉を、輪廻転生的な意味で使ったのか、やり直しの比喩として使ったかはわからないが、自然災害を含め、平成から令和、あまりにも増えた不可抗力を前に、この言葉に何度も助けられるのだ。

中島みゆきは、この曲があまりにもありがたがられるので、ライブで歌わない時期もあったそうだ。けれど、東日本大震災を機に、頻繁に歌われるようになった。この歌にしか救えない哀しみがある。そうしてこの曲は “昭和の歌” から “平成の歌” となり、そして今は、訪れている文明の転換期の狭間で迷う人を支える “令和の歌” になっている。そうやって延々と受け継がれていくのだろう。

人がいる限り、社会がある限り、絶望はなくならない。その救いのために、歴史が中島みゆきという存在を通して、流行り廃りとは別のゾーンに置いておいた歌。それが「時代」なのかもしれない。

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