放送25周年! 伝説のアニメ『コレクター・ユイ』誕生の裏側に迫る!【麻宮騎亜インタビュー・前編】
2025年、アニメ『コレクター・ユイ』(1999~2000年/NHK教育テレビ)が放送25周年を迎えた。25周年を記念して、デジタルリマスター版が各動画配信サービスで配信されている。本作の生みの親である麻宮騎亜に、誕生の経緯と制作時のエピソードを聞いた。
電脳×魔法少女×八犬伝
——『コレクター・ユイ』は、西暦20XX年の「コムネット」と呼ばれるコンピューター網で結ばれたバーチャル空間のなかで、現実世界を支配しようとする「グロッサー」を阻止するためにコンピューターが苦手な中学2年生の春日 結(かすがゆい)が「コレクター・ユイ」として8つのソフトを集めながら奮闘するというストーリー。この企画はどのように始まったのか。
麻宮騎亜(以下、麻宮) 96年ぐらいにNHKのプロデューサーから新しいアニメの企画を作りたいともちかけられ、2人でディスカッションして生まれたアイディアをA4ペラにまとめていきました。そこから僕の方でふくらませて企画書を作ったんです。まず、電脳の世界に行っていろんな事件を解決する。なおかつ世界に散らばる八つのソフトを集めるとしたのは、NHKで放送されていた人形劇『新里見八犬伝』に由来します。なんで『八犬伝』かというと、僕は小学校のときに大好きで観ていて、NHKから企画いただいた時に、NHKでやるんだったら『八犬伝』かな!と。
——麻宮は企画の当初から『コレクター・ユイ』のジャンルを “電脳魔法少女”だと定義していた。“電脳”と“魔法少女”は、一見全く噛み合わない言葉のように思えるが。
麻宮 僕がアニメーターだった頃は、葦プロダクションさんの『ミンキーモモ』にちょっと携わってたし、スタジオぴえろさんの「魔法少女シリーズ」にメインスタッフとして参加していたから積み重ねもあった。あと東映の魔法少女ものも観てたクチだったから、その辺りを上手く消化してっていうところでしょうね。
あと、当時これから電脳の…、電脳って今どきは使わないですよね、インターネットの新しい世界っていうのが来るだろうなっていう予感がありました。でも、僕はその前から『サイレントメビウス』(※1)で電脳空間でどうこうするっていうのを描いていたんです。実は『攻殻機動隊』(89年)より先なんですよ(笑)。当時、サイバーパンクも大好きで小説を読んでいたんで、そういうSFの部分を“魔法少女”に味付けをしようと。ただ、あまり難しくはできない。でも、久々に当時のサンプルストーリーを見たら、“ハッカーの少年”とか“バーチャルアイドル”とかなかなかなことが書いてある。しかも、主人公のユイが夢中になるから、アイドルは女性じゃなくて男性です。
——“電脳”や“サイバーパンク”という言葉にはどことなく温度がない冷たさが伴うが、『コレクター・ユイ』はどこまでも明るい世界観だ。
麻宮 ユイをはじめとするキャラクターが柔らかいっていうのは結構重要だと思いますけどね。やっぱりデザインの室井ふみえさんの仕事はかなりデカい。室井さんは企画書をそのままデザインしたわけではなくて、僕の方でベースの設定をいろいろ描いたものを渡していきました。
——麻宮は数々の作品でさまざまなタイプの女性キャラクターを描いていて、女性を描かせたら人後に落ちない。ただし『コレクター・ユイ』はNHK教育テレビの放送であり、メインターゲットは小学生〜中学生女子である。キャラクターの作り方を変えた部分はあったのだろうか。
麻宮 あまりないですね。僕がずっとやってきた『マジカルエミ』や『クリーミィマミ』『ペルシャ』といった魔法少女シリーズは誰も女の子向けにとは考えてなかったから、あえてそういうふうにはしてなかったんですね。ただ自分のコミカライズを『ちゃお』で描いていたんですが、少女マンガ雑誌なので目のハイライトをめちゃめちゃ増やすなどして、結構少女マンガっぽい画にはしましたね。
※1…1988年に麻宮が発表した代表作。サイバーパンクな未来のTOKYOで異世界からやってきて事件を起こす妖魔と美少女たちの戦いを描く。
アニメ化に漕ぎ着けるも波乱の船出
——A4のペラ1枚から始まった企画は、具体的なアニメ制作が動き出すまでには試行錯誤が繰り返されて足踏みをしている状態が続いた。
麻宮 (放送時期については)何も決めてなかった。とりあえず企画会議を突破しなきゃと、会議に出るNHKの方々の平均年齢をリサーチしたりして。結構お年を召した方が多いと聞いたのでフルカラーの企画書、なおかつA3サイズ、字もでかく…そうやってなんとか印象を残そうとしました。それで企画会議を2回突破できたのですが、アニメ化が決まってからも大変でしたね。
まず、すごくメジャーなアニメーターの方に監督としてお声がけしたのに、その方は打ち合わせに来たら「僕はこれやりたくない」って言って、その場にいたプロデューサーを捕まえて自分の企画の売り込みを始めちゃって(笑)。それで、別のベテランの監督の方にお願いしてやってくれるということになり制作を進めていたら、放送まで1年を切ったところで突然辞めちゃって。しかも、キャラデザインやっていたアニメーターも一緒に連れて。結果パイロットフィルムまででした。当時は今みたいに全話作って納品ではなくできたそばから納品していたとはいえ、放送まで本当に時間がなくて大変でした。
——制作スタッフがなかなかまとまらないという波乱の船出。この段階で監督に迎えられたのが、若手だったムトウユージ(※2)だった。またそこからムトウが一から作り直したのだろうか。
麻宮 多分ある程度の形にはなっていたと思う。隅沢(※3)さんがストーリーを考えたし。でも、実際の現場を作っていたのはムトウさん。なかなか大変だったじゃないですかね。今や『クレヨンしんちゃん』で有名なムトウさんも、当時はまだ若い監督だった。だから、最終決定とか重役会議とかいつも最後に聞かれるのは僕の方でした。
——ここで麻宮の“原案”というクレジットに注目したい。原案とはアニメ制作にどのような形で関わるのか。そして、なぜ麻宮が会議で最終決定を求められたのか。
麻宮普通、“原案”ってあんまり何もやってないようなイメージじゃないですか。某知り合いのマンガ家から「麻宮さんはコレクター・ユイで何やってんの?」って聞かれたくらい。まぁ、そんなイメージですよね。でも、このコレクター・ユイに関してはめちゃめちゃやっているんです。
その時のNHKでは「『原作』はもうでき上がったもの」、「一から企画を作って会議を通ってアニメになったら『原案』」という決まりがあった。当時、僕は他にも『サイレントメビウス』『快傑蒸気探偵団』のアニメもあったんですけど、その3本でいちばん時間割いていたのは『コレクター・ユイ』でした。キャラのラフの他、声優の選定、本読み(脚本の読み合わせ)にも毎週行ったし、絵コンテ(第9話「大宇宙のユイ」)もやり設定もやり…第2期のオープニング、変身バンクのコンテとか。あとメイン以外のエレメントスーツは室井さんと僕で半分ずつという振り分けでした。美術設定とかメカ設定も…。そこまでやっていても【原案】(笑)。
——さながら、ムトウ監督とは一緒に制作していたパートナーという間柄だったのだろうか。
麻宮 やっぱり原作者(原案だけど〈笑〉)と監督という関係だったと思いますよ。僕は映像作品は監督のものだと思うので、現場を率いるのは監督。僕は協力とフォローするというのがスタンスです。昔、原画の時は本当に原作者のわがままに泣かされた口なので、現場には絶対迷惑かけないようにしようというのがポリシー。できた原作者だと思いますよ(笑)。でも第2期に関しては、ほぼ全部お任せ。ちっちゃい女の子のiちゃんとかコレクター・アイとかの元デザインはやりました。
※2…アニメーション演出家、アニメーション監督。1982年にシンエイ動画に入社し『ドラえもん』の演出を経て『クレヨンしんちゃん』の監督に。
※3…隅沢克之。フリーの脚本家として多数の脚本・シリーズ構成を手がける。代表作は『ドラゴンボール』『美少女戦士セーラームーン』『新機動戦記ガンダムW』など
【プロフィール】
麻宮騎亜/あさみやきあ 1963年、岩手県生まれ。アニメーターとしては菊池通隆名義で活動。86年『神星記ヴァグランツ』でマンガ家として活動開始。『サイレントメビウス』や『彼女のカレラ』シリーズなど、代表作多数。
『コレクター・ユイ』
1999年に第1シリーズ、2000年に第2シリーズ(ともに全26話)が放送された。テレビ放送開始から25周年の今年、35ミリフイルムから4Kリマスターされデジタルリマスター版となって各種プラットフォームで配信中。※配信は2Kです。
【配信プラットフォーム】
アニメタイムズfor Prime Video、アニメ放題、ニコニコ支店、バンダイチャンネル、ムービーフル、ムービーフルplus、dアニメストア、dアニメストアfor Prime Video、DMMTV、FODプレミアム、HAPPY動画、hulu、J:COM STREAM、milplus(みるプラス)、NHKこどもパークfor Prime Video、Ongenムービー、TELASA、U-NEXT
【スタッフ】
原案:麻宮騎亜/シリーズ構成:隅沢克之/監督:ムトウユージ/キャラクターデザイン:室井ふみえ/美術監督:川口正明/撮影監督:森下成一/音楽:川井憲次/音響監督:早瀬博雪/アニメーション制作:日本アニメーション/キャスト(声優):大本眞基子、西村朋紘、麦人、矢尾一樹、天野由梨、三石琴乃 他
麻宮騎亜メカニクス原画展「黒鋼 -KUROGANE-」
【会期】
2025年3月8日(土)〜3月16日(日)※3月11日(火)は営業。11:00〜18:00(最終入場17:30)
【会場】
GALLERY ZENON(東京都武蔵野市吉祥寺南町2-11-1)
【チケット】
大人(中学生以上。小学生以下は無料、要保護者付き添い):平日WEB予約1000円/当日券1300円 土日祝WEB予約1300円/当日券1600円
【主催】
ラボ・ガルニエ
【協力】
コアミックス