十和田の不思議な発酵食「ごど」の謎に迫る
フード&トラベルライターの江澤香織です。今回お声がけをいただき、十和田の幻の発酵食「ごど」を体験してきました。はて?ごど、ってそもそも何なの?実際につくって食べてきましたので、その様子をレポートします。
十和田に「ごど」という謎の発酵食があることは、以前からチラチラと聞いていた。かなり限られた地域でしか作られておらず、十和田の人でも知らない人が多いらしい。年配の方に聞くと、子供の頃おばあちゃんが作ってくれたのを食べたことあるけどねぇ、あんまりねぇ…、と口を濁される。
しかし最近食べた人は、すんごい好き、とか、酒にものすごく合う、とか、やや前のめりにそのおいしさを表現するのです。これは一体どういうことなのか?ますます謎が深まってしまった。それならぜひ現地で食べてみたいと思い、十和田にやってきました。
「十和田ごど」の聖地?!、それは居酒屋だった。「おばんざいとお酒 いごこち」の店主、矢部聖子さんは十和田市出身で十和田が大好き。地元の直売所で偶然ごどを見つけて興味を持ち、廃れゆく郷土の文化を残したいという想いから、ごどの製法を探り、再現を試みている。お店へ行くと、矢部さんお手製ごどが食べられる。
ごどの材料は、大豆、麹、塩、納豆菌。発酵をよく知る人には、麹と納豆を一緒にしちゃって大丈夫?っていう心配があるかもしれないが、純粋に材料としてはシンプルで体に良さそうなものばかりの印象。矢部さんは素材にもこだわっており、信頼する地元の生産者の無農薬の大豆や麹を使っている。
そこで、矢部さん流ごどの作り方を本人に教わりながら、一緒につくってみることに。
まずは大豆を焦げ目が付くまでよく炒る。香ばしい匂いがキッチンに広がり、このまま食べてもおいしそう(ちょっとつまんだ)。しっかり炒ることで豆の深い風味が引き出される。これは大事な行程の一つ。
炒った大豆を冷ましたら、大きな一升升で、ゴリゴリ押し潰しながら荒く挽き、表皮を取る。なかなか根気のいる地道な作業だけれど、しばらくやっていると楽しくなってくる。パンと張った大豆の皮がプチッと外れるのはなんとも気持ちいい。まるでプチプチ(緩衝材)を潰すような感覚。ストレス解消になる。
豆の皮を風で飛ばし、一晩水に浸ける。次の日、柔らかくなった豆を煮る。
豆に少量の納豆菌を付けて一晩温め、納豆にする。矢部さんはお鍋を毛布で包み、コタツで温めている。
最後に麹と塩を加える。矢部さんの場合は、大豆の煮汁がとてもおいしいので、程よく冷ました煮汁の中に麹を浸してちょっと甘酒のような状態にし、甘みと旨味を引き出しておいたものを加えて、塩を入れる。麹菌vs納豆菌を心配していたが、このように各菌は自分たちの仕事を全うしてからjoinする感じなので、それぞれの役目は果たしているのかも?(この辺りはだれか詳しい方教えてください)
できあがったごどは、始めの頃はもろもろとした舐め味噌のような食感で、豆の風味とコクが強く、それほどクセはない。そのまましばらく何日も置いておくと、次第に味が変化する。乳酸発酵によってだんだん酸味が増してきて、甘みや旨みも深くなる。納豆菌が入っているが、水分があるせいかあまり糸は引かず、もったりトロッとした食感になる。「長く熟成させるとチーズのような複雑な味わいになったりしますよ」と矢部さん。発酵食品なので、できあがってからも進化する。ややクセは強くなるが、それがたまらん、というマニアも多々いる。
それぞれが自分好みに育てて変化を楽しむことが、ごどのおいしさの秘密でもある。
昔の人はそのまま食べたり、ご飯にのせたり、醤油代わりに調味料として使ったりしていたという。矢部さんのおすすめは南部せんべいに乗せて食べたり、しめ鯖にかけたりして、お酒のつまみにすること。南部地方を代表する産品が集まったようなこの一皿、合わないわけがない。地元の酒蔵、鳩正宗の「佐藤企」と合わせるとめちゃうまい。
矢部さんは、十和田発酵文化協会を立ち上げ、古い文献を調べたり、昔を知る人に聞き込みをしたりして、ごどの調査を続けている。矢部さんの話によると、ごどについて現時点で解ってきたことがいくつかある。この地域で作られていたのはひきわり納豆で、大豆をよく炒って石臼で挽き、必ず表皮を取る。表皮は消化に悪いから取るのが基本だったらしい。そのひきわり納豆をつくるときに、青森では寒くて納豆菌があまり働かず、失敗してしまい、それをもったいないからおいしく食べて保存できるように麹と塩を入れたんではないか、という説。ま
た、ごどの語源は“五斗”(一斗が約15kg)ともいわれており、納豆を大量につくったが、食べ切れずに長期間置いておくと糸を引かなくなってくるため、山形や秋田では納豆に砂糖を入れて復活させる風習があるらしく、その発想で麹と塩を入れたんじゃないか、という説もあるそう。いずれにしろ、大切な食べ物をなんとかしておいしく食べたい、という切実な思いから生まれたようだ。
ごどのつくり方についても、文献によって様々で、塩水を煮て納豆と麹を混ぜた保存食、とされていたり、炒った大豆を蒸して麹を付け、味噌を煮た汁と麹を入れ塩加減してつくるなめ味噌の一つ、と書かれたりしている。矢部さんは引き続き調査を続けており、ごどはまだまだ謎が多い。
そしてここで大ニュース!
矢部さんオリジナル「十和田ごど」がなんとついに商品化。パッケージができあがったのでちらりお披露目。こだわりの材料で全て無添加です。これから少しずつ各地で販売していくそうなので、見かけたらぜひお試しを!
プロフィール
江澤香織
ライター、プランナー。食、旅、クラフト等を中心に、雑誌や書籍、Web、広告等で活動。企業や自治体と地域の観光促進サポートなども行う。著書「青森・函館めぐり ―――クラフト・建築・おいしいもの」(ダイヤモンド社)、「山陰旅行 クラフト+食めぐり」(マイナビ)等。