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第34回【キジュを超えて】 オブジェは語る ─萩原 朔美の日々   

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第34回【キジュを超えて】 オブジェは語る ─萩原 朔美の日々   

—老体からは逃げられない。でも笑い飛ばすことは出来る—

萩原 朔美さんは1946年生まれ、2023年11月14日に77歳、紛れもなく喜寿を超えているのである。本誌「スマホ散歩」でお馴染みだが、歴としたアーチストであり、映像作家であり、演出家であり、学校の先生もやり、前橋文学館の館長であり、時として俳優にもなるエッセイストなのである。多能にして多才のサクミさんの喜寿からの日常をご報告いただく、連載エッセイ。同輩たちよ、ぼーッとしちゃいられません! 

連載 第34回 キジュを超えて

 
 福島大学の渡邉晃一教授にお声掛けいただいて、「映像メディア論」の講義をやった。
 終わってから、渡邉先生に自分の作品に協力してと頼まれた。

 それは、沢山の表現者達の手のひらの拓本と、利き腕をオブジェのように、そのまま石膏にしてしまう壮大なプロジェクトだった。大野一雄さんは、出来上がった自分の腕を持って踊ったという。自分の身体とのコラボは、どんな気持ちに襲われるのだろうか。

渡邉晃一作品集より

 

 歯科医が使うという、すぐに凝固する冷んやりした溶剤の中に左手を肩付近まで沈める。すると、今まで経験した事のない没入感、緊張感、遊泳感、拘束感、期待感が一度に襲ってきた。生まれて初めて味わう身体感覚だった。

 凝固して型取りされ、腕が開放されると、まだまだこれから未知の感覚が沢山ありそうな気分になり、楽しくなった。

 

 後日、完成した石膏の写真が送られてきた。筋張った老人の手が、今にも動き出しそうな、なにか話しをしたいような、何かを探しているような、待ち伏せしている未知の自分を探しているような不思議なオブジェだった。確かな事は、キジユを超えた今という時間が、そこにひっそりと佇んで固まっているのであった。

第33回 まだまだ学べ
第32回 命のデータ
第31回 目の奥底
第30回 老いも若きも桜の樹
第29回 僻んではいません
第28回 私の年齢観測
第27回 あゝ忘却の彼方よ
第26回 喜寿を過ぎて
第25回 生前葬でお披露目する「詩」
第24回 我を唱えず、我を行う
第23回 老いは戯れるもの
第22回 引きこもりの愉しみ
第21回 楽しい会議は老化を防ぐ

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長特別館長、金沢美術工芸大学客員名誉教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。

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