週3ゲーセン通いの中学生息子、母の財布から消えたお金はまさか…!?わが家の苦渋の選択【専門家のアドバイスも】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
毎月お小遣いが足りない!と言う息子
息子のリュウ太には、ADHD(注意欠如多動症)とASD(自閉スペクトラム症)の診断があります。中学時代のリュウ太は、お金の使い方がひどいものでした。
リュウ太の仲の良い友だちには両親の帰宅が遅いということで、毎日1,000円のお小遣いをもらっている子もいました。一方、リュウ太のお小遣いは毎月3,000円。周りの友だちより少なかったかもしれませんが、わが家は、母の私が家で仕事をしているため、お腹が空いたときはオヤツなどを用意できるので、毎月3,000円で十分だと思っていました。
しかし、リュウ太はそれがかなり不満だったようで「お小遣い5,000円にアップしてくれよ!友だちはみんな毎月5,000円以上もらってるのにさー」とお小遣いの値上げ要求を頻繁にしてきました。
ですが、小遣いの金額は夫が決めていたため、私はリュウ太の要求に応えることはできませんでした。
そのリュウ太は、学校から帰ると友だちと週に3回は出かけるようになりました。帰宅後に「どこに行ってきたの?」と聞くと「友だちとゲームセンターに行ってきた」と言うのです。
リュウ太は、ゲームセンター通いをするほどお金を持っていないはず……?
週3のゲームセンター通い、お金は一体どこから?
……なんと、リュウ太は私の財布からお金を持ち出していたのでした(私はお金の管理を細かくしていないため、持ち出されたことにしばらく気がつきませんでした……)。ゲームセンターで遊ぶために500円や多いときは2,000円を私の財布から持ち出していたようでした。
ほかにも、私は電車に乗るためのICカードに数千円チャージしていたのですが、リュウ太はそれも持ち出し、飲み食いに使っていたようなのです。
ICカードのチャージや財布の中の紙幣が少なくなっていることに数回「あれ?」と思ってはいたのですが、犯人と決めて子どもを疑うのは良くないと思っていました。
しかし、とうとう私はリュウ太がお金を持ち出している現場を目撃してしまったのです。
私は、リュウ太を叱り、どうしてお金がそんなに必要なのかを聞いてみました。
すると「お金がない日は、ゲームセンターで友だちや周りの人がプレイしているところを覗きこんで楽しんでいたけど、自分はもっと上手にプレイできるし、仲良くなった他校の友人を競い合ったりしたくなった」と言います。
そして、(みんながゲームをしているのに自分だけできないのは惨めな気分。どうしてうちは貧乏なんだろう……お小遣いをくれないならこっそり持ち出すしかない……)という考えに行きついたそうなのです。
「お金って大事、お金を稼ぐのって大変なんだとか、そんなこと言われても分からない」「ゲームセンター通いは今一番やりたいことだからやめられない!」と言うので、リュウ太のこれまでを振り返っても無理に言い聞かせたり、止めてもやめることはできないだろうと思いました。
勝手に持ち出すくらいなら……「親への借金」という苦渋の選択
きっとお金の持ち出しは繰り返されてしまう。だったら「お金を貸して、高校生になったらアルバイトをしてもらって返済してもらうしかない」と思いました。
やりたいことを意地でも貫く性格なので親が根負けしてしまうんです……。きっといくら言っても止めてはくれないだろう……というあきらめの気持ちがありました。
お金のことで親子喧嘩も頻発し、その喧嘩が原因で学校の課題をやらなかったり、生活態度が悪くなったりとほかの問題も大きくなっていたため、私はお金を貸すことを決めました。私の心が楽になるための選択だったかもしれません。
それから、リュウ太には毎月お小遣いでは足りない分を上限2,000円で貸すことにしました。
高校生になりアルバイト代で借金返済。一方で……
リュウ太は、高校生になりアルバイトをはじめてから順調に返済し、中学時代に作った親への借金は3年間で返済できました。
幸いなことにアルバイトや部活など、他に楽しいことができたためゲームセンター通いもなくなりました。
一方、親のお金の持ち出しはなくなったかというとそうでもなくて、高校生になってもバイト代が入る前のカツカツなときは私の貯金箱から持ち出していました。年齢とともに徐々に減っていき、20歳になる頃にやっとしなくなりました。
息子との長い戦いでした。
親子であれど人のお金を持ち出すのはよくないので、せめて親に借金することで自覚を持ってほしかったのです。今でも中学生の息子にお金を貸したことが良かったのか悪かったのか分かりません。わが家の苦渋の選択だった気がします。みなさんはマネしないでくださいね。
執筆/かなしろにゃんこ。
(監修:井上先生より)
思春期の親子のそれぞれの思いの葛藤の中で親自身も追い込まれてしまうことがあります。客観的にみると子どもさんも「無制限」ではなく「5000円」という本人なりの妥協ラインを示してきていますが、「さらにエスカレートするのでは」などの不安から親としては感情的に容認したくないという気持ちになってしまうかもしれません。かなしろさんも回想しておられるように親から借金をして、お小遣いを前払いするのは当時としてはやむを得ない決断であったと思います。アルバイトを始めて、労働に対する報酬としてのお金の価値や実感が得られたことで浪費癖も少しずつ改善していったのかもしれません。お小遣いが不足している場合、暴れたり癇癪をすることでそれが得られるのではなく、家庭の中でお手伝い労働をすることで得られるような「出来高払い」を組み合わせるなどのアイデアもあるかと思います。
それぞれのご家庭で状態は異なるので唯一の正解はありませんが、お金を与える/与えない、という二分的な条件ではなく、暴れることでお金を得るのではなく、特定の労働や努力の対価としてお金が得られるなどのルールを本人と一緒に考えていくのがよいと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。