棚田保全に人生をささげる農家の大石さんを若者が訪ねる理由。
佐渡市岩首地域では「昇竜棚田」と呼ばれる、竜が天へ昇るような美しい棚田が見られます。この風景をできるだけ後世へ残していこうと、保全活動に取り組んでいるのが佐渡棚田協議会の会長であり、農家の大石さん。農作業の手伝いや研修など、遠方から訪ねてくる学生や若者も多いそう。どんな思いで活動を続けているのか、おちゃめで明るい大石さんにお話を聞いてきました。
佐渡棚田協議会
大石 惣一郎 Soichiro Ooishi
1952年佐渡市生まれ。「佐渡棚田協議会」会長。棚田保全に取り組む傍ら、「一般社団法人岩首めぶきラボ」の一員として、空き家を活用した拠点の運営にも従事。「棚田じじい」の愛称で親しまれている。
――大石さんはお米農家さんですよね。家業で代々お米づくりを?
大石さん:昔は母がひとりで一生懸命、米を作っていたんだ。でも疲れるし儲からないんだったらこんなとこにいる必要ねえと思って、高校卒業してからすぐにここを飛び出した。それからは東京で不良やっていました(笑)
――(笑)。一度は東京に出られたんですね。
大石さん:そこで今もとってもお世話になっている素敵なパートナーと出会って、子どもが生まれて、15年ちょっと東京にいたかな。その後帰ってきて、母がひとりで田んぼを頑張っていたんで手伝うことにしたんだ。
――この棚田は昔からずっとこういう景色なんですか?
大石さん:うん、もう400〜500年くらい前からか。最初は6軒くらいの家からはじまったみたい。だけども高齢化が進んでいるんで、この景色が見られるのもあと数年だと僕は思っている。それでも500年前の人たちが頑張って作った棚田なんだから、人が生きるために作ったものを僕の代でやめるのは悲しいなと思って、もがきにもがいているけどな。
――「昇竜」棚田と名付けられているのはどうしてなんでしょう?
大石さん:それはね、20年くらい前に学生を受け入れて、どこに向かうか分からないような景色から棚田がばーっと見えてきたときに、ひとりの学生が「じじいこれ、龍が空に登っているみたいに見えるね」って。それから僕らが「昇竜棚田」って呼ぶようになったといわけ。
――学生さんの受け入れもされているんですね。
大石さん:「めぶきラボ」っていう拠点で学生を受け入れていて、体験とか研修とか、じじいの田んぼの草刈りとかをやったりしてもらっているんだよ。今いちばんよく来るのは、京都の大学に行っている徳島出身の大学生。今年も3回くらい来たね。
――えっ、3回も!
大石さん:他にも大阪とか、島根の大学から来る子もいるよ。そうやって来た子が友達にもこの場所を紹介して、その子も岩首を気に入ってくれてね。来年は岩首で地域おこし協力隊をやりたいなって言ってくれている子もいるな。
――そうやって何度も岩首に来る学生がいるって、皆さんここを気に入っているんですね。
大石さん:ここでの体験と、この景色と、じじいをね(笑)。そういう子たちも、知っている顔がいないと不安じゃん。俺は村の人につなぐし、きっかけだけは作ってあげられるけど、あとは自分の頑張りだよって思っている。
――そうやって受け入れてくれる大石さんがいるから、安心して何度でも来たくなるんだと思います。
大石さん:僕の考え方は、来るもの拒まず出るもの追わず。いろんな人が俺のところに来るんだよ。誰の紹介か分からなくても、じじいでよければなんでも対応するよって。岩首をきっかけに、佐渡に若い人の活躍が広がってくれたらありがたいなと思っているけどね。