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山本彩『U TA CARTE』インタビュー――2024年、最新の山本彩からの"一品料理"が自由に選べるEP

encore

──2024年を振り返って、山本さんにとってはどんな1年になりましたか?

「“この出来事は今年にあったことなの!?”と思うぐらい、いろんなことがあって、すごく充実していた1年でした。本当にずっと走らせてもらっているなって感じです」

──ビルボードツアーから始まって、ホールツアー、アジアツアー、アコースティックツアー、対バンツアーとライブ三昧の1年でした。もともとそういう1年にしようと考えていましたか?

「最初からそうだったわけじゃなかったです。ホールツアーは決まっていたけど、アジアツアーに関しては、コロナ禍に入って出来なくなってしまってたツアーが、ようやく今、出来たっていうタイミングだったんです。結果的には、1年を通して、本当にたくさんのライブをやらせていただきました」

──しかも、これまでにない編成や規模でのライブもありました。

「改めて、“ライブって無限なんだ!”って実感しました。初めてやる編成と、初めましての方とやるライブがすごく刺激的で…。もちろん、これまでやってきたメンバーとのライブの良さもわかっている中で、私は特にそういう変化に順応しにくいタイプなので、最初は不安でした。でも、終わった頃にはそんなことを忘れるぐらいすごく、自分にとっても“やってよかったな”って思いました。やっぱり新しいことをやっていくとか、慣れないことをやるっていうのは、進化していく上で必要不可欠なんだと感じました」

──そして、キャリア初となるEP『U TA CARTE』がリリースされますが、3ヶ月連続の配信シングルのリリースを経て、次はどんな作品を作りたいと考えていましたか?

「最初はもっとコンセプトアルバムっぽい感じにしようと考えていました。わかりやすく言うと、“今回はバンドサウンド強めにしよう“って思って。来年のライブに向けて、新曲がたくさんあると、自分自身も早めにスタートダッシュをきれるかな?って思って、”いっぱい曲を作ろう“!と。いざ、デモを作り始めると、どうしてなのかどんどん逸れていってしまって…(笑)。でも、それが素直な自分から出てきたものなので、そっちを大事にしようと進めて、出来上がったら、こういう形になりました」

──“こういう形”はEPのタイトル『U TA CARTE』=“アラカルト”にも通じる“多様な音楽性”のことだと思うんですが、タイトルに関しては最後にお伺いするとして、1曲ずつ聞いてもいいですか? まず、先行配信された「Seagull」はTVアニメ『シンカリオン チェンジ ザ ワールド』のエンディング主題歌です。これは書き下ろしですか?

「そうです。アニメのテーマがすごく具体的に決まっていて、“「かもめ」というタイトルで”ってリクエストが最初にあって…」

──そこまで具体的に!?

「はい。決まっていました。西九州新幹線「かもめ」をモチーフにした、唯一、水上を走るキャラクターがいて。それにしても「かもめ」は結構、ピンポイントなので、新幹線や乗り物、“アニメの方向性に寄せた歌詞の方がいいのか?”、それとも、“「かもめ」という大きな枠で捉えて書いたらいいのか?”をお伺いしたら、後者の方だったので、“かもめに自分を投影した曲が自分らしいかな?”と思って、かもめについていろいろ調べながら書かせていただきました」

──かもめ=Seagullとご自身が重なるところはありましたか?

「Aメロの歌詞がまさにそうです。かもめはそんなふうには見えないけど、いろんな国を渡りながら、たくさんの距離を飛べる鳥で。象徴としては、“何かを成し遂げる”とか、すごくポジティブなイメージがある鳥だっていうことを知ったので、“そういった楽曲にしたい“と思いました。あと、子供の頃は自分が空を飛ぶ夢をたくさん見ていたんですけど、”そういえば見なくなったな…“って思って。”これが大人になるってことかな?“って」

──いつから見なくなりました?

「中学生の頃にはもう見てなかったんじゃないかな? 中学生ぐらいからもう仕事をしていたので。かもめについて調べることで、“夢や希望を追いかけることを心のどこかで抵抗していたのかな?”って感じました。“これじゃ駄目だ”って思わせてもらったので、大人も子供も童心に帰れるような、自分を取り戻して羽ばたいていけるような曲になったら…と思って、歌詞を書きました」

──ちなみに中学生になる前に見ていた飛ぶ夢はどんな夢だったんですか?

「特に羽があるとかでもなく、ひたすら自分のままで、ただただ優雅に空を飛んでいました。自分が普段行ってるような場所を俯瞰しながら見ていたり…悪い印象は一切なかった夢でした」

──大人になって見なくなった、小さい頃に思い描いてた夢はどんなものでした?

「可能かどうかをあまり考えていなかったのが、子供の頃に抱いてた夢の特徴かな?って思います。大人になると、まず、現実的に考えて、実現可能かどうかを考えてしまうので。目標を掲げる上での選択肢として、不可能だったらやめてしまうっていう。子供の頃はまずそんなことを考えていなくて…だからこそ、大きな夢を掲げることができたと思います。例えば、小学生のときにアジアツアーとか、ワールドツアーとか…我ながら、“そんな年齢でよくそんなことを考えていたな“と思うので、それは子供ならではの夢の抱き方かな?って思います」

──でも、今年、アジアツアーを叶えていますよね。いろんな夢を叶えてきた山本さんとしては、子供の頃に描いた夢をどう思いますか?

「実現できたのは、今年の頑張りじゃなくて…。そういう意味では、コロナ禍で実現できなかった間にやってきたことが全部、未来に繋がっていると思います。今は無理だと思っていることも、もしかしたら、2年後3年後にはできるようになっているかもしれない。思い描いた夢を実現可能に近づけるのも自分次第だし、大人になってからも、まだまだ将来のことを考えるのも楽しみだなって思います」

──アニメとも重なっている部分はあるんですか?

「歌詞や楽曲自体はあまり直接的には関係性を持たせなかったんですけど、アニメは全部見させてもらいました。新幹線のアニメなので、最初は本当に子供向けだと思っていたんですけど、そういうものほど、大人にすごく刺さるというか…。すごくまっすぐだし、キャラクターみんなが何かしらトラウマを抱えていて。それを乗り越える過程がどのお話にも組み込まれているので、すごく共感できる要素が多くて。やっぱり失敗すると、またチャレンジするのが怖くなる。でも、それを乗り越えないと、見えないものやつかめないものがあるんだなっていうのは改めて実感しました」

──EP『U TA CARTE』の4曲目に収録されていますね。

「配信リリースされていたので、新しい曲たちを先に持ってきたかったんです」

──1曲目は「木天蓼(読み:マタタビ)」です。

「EPを作り始めて、曲を作っているときに、本当にすぐ出来たんです。“曲調も歌詞もねっとりした感じの曲を書きたいな”って作り始めた曲で、自分のイメージ的にはお留守番をしている猫ちゃんなんですけど」

──猫ちゃんなんですね!? ワンちゃん派なのに?

「あははは。ワンちゃん派ですけど、ワンちゃんは無邪気で、あまり感情に裏表がないなって気がしているので。そういうところではやっぱ猫ちゃんの方が…」

──タイトルで気付くべきだったんですが、猫だと思わずに聴かせていただいたので、<じっくり愛撫して>というエロティックな表現があるので、すごく新しいなと感じていました。

「あ、そっか、人間だと官能的な感じがするのか! でも、そういうのを恥ずかしがらずに書いていきたいです。“大人の女やぞ!”っていうのをね(笑)」

──あはははは。浮気を疑っている同棲カップルの話かと思いました。

「あまりわからないように書いたつもりなので、どう捉えていただいてもいいんですけど、私としては、お留守番をしている猫ちゃんです。お留守番させてると気が気じゃないし、私は犬を飼っているんですけど、保護犬カフェとか、友達のワンちゃんと戯れて帰ったりもするじゃないですか。そういうときどう思ってるんだろな?…みたいな」

──よその犬の匂いがするから、猛烈に嗅ぎますよね。

「嗅ぎますね。あと、実家でも犬を飼ってるんですけど、実家の犬は帰ってすぐは、かなり、そっけなかったりするんですよ。それで自分もちょっと傷ついたりとかして…。“彼女たちはどう思ってるのかな? こんなこと思ってたりするのかな? ごめんね”っていう気持ちで書いています。次は、もっとまっすぐな犬の歌を書きたいですね」

──(笑)サウンドはヘビーでラウドなミクスチャーロックでラップっぽいフロウもありますね。

「よりリアルな心情を畳みかける感じで変化をつけているんですけど、ごちゃごちゃっとさせたくて。プロデュースと編曲をお願いしたoniさんがエッジの効いた尖ったサウンドがお得意だっていうこともあったので、それはぜひ取り入れていただきたいと思って。エレキを強めに鳴らしていただきました」

──続く「カフェモカ」は、アコギとヴォーカルから始まるラブバラードです。

「すごくシンプルな構成で、サウンドもどちらかというと、洋楽っぽい雰囲気の曲なので、いい意味であまり心が動かされないというか…。秋の男女のつかず離れずな感じ。ほろ苦さと甘さが入り交じる、まだちょっと曖昧な時期にしかない瞬間みたいな感覚を味わっていただけると思います」

──この二人はどうなっていくんでしょうか?

「美術館でデートをしていますからね。デートの難易度としては高めじゃないですか。美術館に一緒に行って、何でもない道を一緒に話しながら歩けるっていうのは、それなりの相手じゃないと苦痛だと思うんです。そういうことかな?って。聴いていただいて、余白部分を楽しんでくれると嬉しいです。曲の中で完結するんじゃなくて、“どうなるんだろう?”って考察してもらえるといいですね」

──ライブのバンドメンバーであるTeam SYとの共作になっていますね。

「はい。サビのメロディーを私が持っていって、“これを軸に作りたい”って言って。おもむろにみんなで楽器を鳴らして、“じゃあ、コード進行はこうするか!”みたいな感じで作っていきました。なんて言うか、1人じゃないってだけで、すごく心強かったです。普段は1人で、誰の声も聞かずに作っていて…。“もっと誰かに投げかけたりして、聞けばよかったな”って思うんですけど、黙々と1人で部屋で作業している感じだったんです。“ここを変えたいけど、しっくりくるのが見つからないな”とか、ちょっとつまずいたときに、どうしても作業が滞ったりしていたのが、メンバーがいると、いろんなアイディアがたくさん浮かんできて。アイデアを交換しながら出来たのがすごく楽しかったです」

──もう1曲、「KIRAKUモンスター」もバンドメンバーとの共作です。

「これはもう本当にライブをしながらやってるぐらいの感じです。ライブでお客さんを煽る時に、リズムだけ叩いてもらってる時のテンションで、“まず、1回やってみるか!”って言いながら作っていって」

──まさにライブでクラップしたくなるような曲になっています。

「歌詞はライブのイメージが自然と浮かんできたので。ライブで一緒にシンガロングできるような曲とか、“頭を空っぽにして、ただただ楽しい、青い曲を作りたい“と思って。歌詞は、自分自身もこんな風に考えられないタイプの人間なので、”自分に言い聞かせることで、自分も気楽になれるな“っていうところから、考えていきました。最初に<モンスター>っていうワードがぱっと出てきたんです。モンスターっていうと、いい方にも悪い方にも、人によってはあるなって思って、1番の<KIRAKUモンスター>と2番の<KIRAKUモンスター>とで対照的な使い方をしているんですけど」

──山本さんは本来はMAJIMEモンスターですよね。

「はい。だから、“心の中でKIRAKUモンスターを育てていこうぜ、みんな!”って思いです」

──歌詞にある<メンタルのリカバリー>やリセットしたい時はどうしたらいいでしょう?

「私は1人になるか、パーっと友達と豪快に暴飲暴食するかのどっちかですね。1人になるときは、もう何も考えないで、ただただダラダラと部屋で過ごします。1日中、家で何もしないとか、無理やり仕事のことは考えないみたいな日を作ったりします。私は1人も好きなタイプなので、それだけでも割と楽になります。やっぱり丸1日働く日が続いて、家に帰ってからの1人になる時間が短くなると、それで結構疲れたりするので…。その時間が増えるだけでも私はリカバリーになるなって思いますし、あとはやっぱりライブですね」

──この曲はまさにストレス発散できるライブ曲になりそうですが、Team SYと作った2曲があり、最後の「あいまって。」は弓木英梨乃さんとのアコースティックツアー用にアレンジされた音源が収録されています。山本さんが今年1年どう過ごしてきたかがわかる1枚になっていますね。

「そうですね。詰まっているEPですね。今年1年を振り返った中でもアコースティックツアーは自分の中で特別というか…これまでとは違った内容のツアーだったんです。今回は映像に残していないんですけど、アコースティックは、これまで自分がしてきた表現の一つでもあるので、音源として残しておきたいなっていう思いがありました」

──弓木さんからはどんな刺激を受けましたか?

「いやあ、もう、人柄も素敵だし、プレー面でも何もこちらから言うことは一切なくて。逆に“何も言わなくてすいません!”って思うぐらいだったんですけど(笑)、毎回新しいアレンジだったり、気づいた点をたくさん投げてくれました。それを毎回ライブに還元してくださっていたので、毎公演、曲が同じでも、いつも違うライブをやっているような新鮮さがありましたし、チャーミングな方だったので、楽屋から楽しかったです」

──「あいまって。」は4枚目のアルバム『&』に収録された失恋ソングでした。

「かなり歌い方が変わっています。原曲は原曲、アコースティックはアコースティックで全く別物っていう感じになったかな? 原曲はちょっと前のリリースなので、2024バージョンのような、今の私の「あいまって。」っていう感じです。原曲は“失恋2〜3日目”のようなイメージで、もうちょっとか弱い感じがあったんですけど、そこから時を重ねた「あいまって。」は“失恋して1年ぐらい経ったかな?”みたいな」

──ちゃんとバイバイできていますね。時間でしょうか?

「そうだと思います。自分も区切りがついたのかな?」

──5曲揃って、ご自身にとってはどんな1枚になりましたか?

「“また新境地にこれた”っていう感じです。すごくリアルタイムで生まれた曲たちなので、2024年の最新の自分を聴いてもらえると思います。「KIRAKUモンスター」はこれまでやってきた自分の軸になっているところですし、「カフェモカ」は今までになかったところで、「木天蓼」はちょっと攻めたところだったり。いろんな一品料理になったと思うので、人によってどれがメインディッシュか、デザートかを決めて楽しんでいただきたいです」

──EPのタイトルですが、どうして『U TA CARTE』にしたんでしょうか?

「“1曲1曲が違うけど、どれもやっぱり自分だな“って思うんです。自分らしさと、そうじゃない部分が詰まった1曲1曲なので、それを、コース料理というよりかは、1品1品、全く別のものとして楽しんでいただきたいって思いから、このタイトルにしました」

──『U TA CARTE』がクリスマスにリリースされて、2024年を締めくくりますが、来年はどんな1年にしたいですか?

「今年はたくさんライブができて、これまで抱いていたものが実現できた1年にもなりました。やっぱり形にしていくっていうのは、一種のモチベーションにもなるので、常に何か小さなことでも、“これ、やりたい!”、“あれ、やりたい!”っていうのを忘れずにやっていきたいです。来年が9周年で、その次が10周年になるので、10周年に向けてエンジンをかけていく1年にしたいです。ライブもやるし、変なファンクラブイベントもやるし(笑)。いろんなことを楽しんでいただけるエンターテイメントをやりたいですね」

──小学生の頃に思い描いていた“成し遂げた夢”の続きは?

「アジアツアーの次の大きな夢で言うと、本当は“20代のうちに”って言っていて、実現できなかったのは、アリーナでのライブです。これはまだ掲げ続けたい夢、目標、かな?」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣

RELEASE INFORMATION

2024年12月25日(水)発売
通常盤(CD Only)/UMCK-1785/2,200円(税込)

山本彩『U TA CARTE』

LIVE INFORMATION

2025年1月31日(金) 埼玉 ヘブンズロックさいたま新都心
2025年2月2日(日) 香川 高松 オリーブホール
2025年2月4日(火) 大阪 BIG CAT
2025年2月5日(水) 大阪 BIG CAT
2025年2月10日(月) 札幌 cube garden
2025年2月14日(金) 東京 LIQUIDROOM
2025年2月21日(金) 福岡 DRUM LOGOS
2025年2月22日(土) 広島 HIROSHIMA CLUB QUATTRO
2025年2月27日(木) 仙台 仙台Rensa
2025年3月6日(木) 名古屋 NAGOYA CLUB QUATTRO
2025年3月9日(日) 京都 KYOTO MUSE

SAYAKA YAMAMOTO NO MAKE TOUR 2025

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