SHŌGUN デビュー45周年!ドラマ「俺たちは天使だ!〜 探偵物語」の主題歌で連続ヒット
「俺たちは天使だ!」のオープニング曲「男達のメロディー」
♪運が悪けりゃ死ぬだけさ 死ぬだけさ
SHŌGUNの「男達のメロディー」を初めて聴いたのはまだ小学生で、このイカシた楽曲を演奏しているのが誰なのか知らなかった。というのも、1979年4月から放送された、沖雅也主演のドラマ「俺たちは天使だ!」のオープニング曲として――、そう、ただただドラマの延長線上で心地よく聞いていたからだ。こんなに乾いた風が吹く音楽はあんまり聴いたことがなく、本当に耳触りが良かった。
そして今、年を取るたびに好きになる。未練という言葉とはまた違う “執着があるようなないような” 浮遊感。ハードボイルド版「ケ・セ3ラ・セラ」とでも言いたい、風まかせの世界観を描いたのが「神田川」の喜多條忠と知った時の驚きたるや。同じ人が書いた歌詞とは思えない!
そこに、SHŌGUNのメンバー、ケーシー・ランキンによるカントリー調のサウンドと、ボーカル芳野藤丸の “言葉を口からひゅんひゅん飛ばす” ような、ニヒルな歌い方とが絶妙にミックス。実は芳野は “カントリーは絶対歌いたくない” と思っていたそうだ。そのため、レコーディングではふてくされながら歌ったというが、それがいい味になっている。中森明菜の「少女A」といい、“この歌、歌いたくない” という歌手のふてくされ歌唱は、時として、素晴らしい作用を生むからあなどれない。結局この「男達のメロディー」は50万枚を越える大ヒットとなった。
無国籍感漂う松田優作主演「探偵物語」と「Bad City」
私がSHŌGUNというバンド名を知ったのはずいぶんあと。「男達のメロディー」の後も、バンド名を知らないまま、新たな彼らの音楽に魅了されることになった。1979年9月から放送された、松田優作主演のドラマ『探偵物語』のオープニング曲「Bad City」である。
♪バッシティー、バッバッシティー、バッシティーバッ‼
小さな爆弾の暴発みたいなこの曲は、松田優作が演じる工藤ちゃんの魅力と相まって、薄暗さとユーモラスの混在みたいなものを出していた。まさに唯一無二のムード。ドラマのヒットと共に、劇中で流れたこの「Bad City」と「Lonely Man」は、全歌詞英語ながらヒットしたのだが、ほんのり親しみがあり、少し “和" を残した無国籍感が本当に不思議だった。
実は『探偵物語』の音楽は、ジャズミュージシャン渡辺貞夫にも話が入っており、彼も乗り気だったという。もしもナベサダが音楽を担当していたら、また『探偵物語』のテイストも変わっていたかもしれない。音楽とドラマは、それほど密接に影響し合うもの。ピンチの時に煙草を一服吸うようなヤンチャな男を想像させるSHŌGUNの音が、カッコよさと同時に愛嬌のある工藤ちゃんを作ったひとつだったのは間違いない。
SHŌGUNの由来とは?
SHŌGUNは、主題歌だけでなく、劇中に流れる音楽も全て彼らが手掛けていた。ファーストアルバム『SHŌGUN』は実質、『俺たちは天使だ!』のサウンドトラック。それが可能だったのは、そもそも、SHŌGUNというバンドが、10年近いキャリアを持つ腕利きミュージシャンたちの集まりだからである。
最初のメンバーは、リーダーでパーカッションの中島御、キーボードの大谷和夫、ベースのミッチー長岡、そしてギター&ボーカルの芳野藤丸。特に芳野藤丸は、1973年から西城秀樹のサポートバンドとして、コンサートに帯同。同時に、ギタリストとしてジョー山中や桑名正博、もんたよしのりなど様々なライブツアーに参加するなど、華々しく活動していた。
そんな経験豊富、音楽のセンスに長けた彼らが集まり、SHŌGUNの前身となる “One Line Band” 名義で制作したアルバム『Yellow Magic』を1977年に発表。これを聴き、その洗練された音楽に惚れこんだ1人が、当時日本テレビ音楽のプロデューサーだった飯田則子だ。飯田は1972年『太陽にほえろ』の井上堯之バンド、1975年『俺たちの勲章』のトランザム、1978年『西遊記』のゴダイゴに続く、ドラマを盛り上げるバンドを探しており、『Yellow Magic』を聴いて彼らに白羽の矢を立てたというわけである。そして “ドラマ音楽ができ、世界を目指せるバンド” に向けて、飯田による挑戦が始まる。まずアメリカ・カンザス出身のギタリスト、ケーシー・ランキンが合流。さらにバンド名の変更を言い渡された。One Line Bandはダサかったそうだ。とほほ。
SHŌGUNの由来は、当時、アメリカとイギリスで大ベストセラーとなっていたジェームズ・クラベル作の歴史ロマン小説『SHŌGUN』。2024年9月15日、真田広之がエミー賞を受賞した、Netflix配信のドラマ『SHOGUN 将軍』の原作である。One Line Bandもそんなに悪いとは思わないが、やっぱりSHOGUNという響きに特別感があるのは確かである。
缶コーヒーCMで再び思い出す
この2作のドラマ音楽の成功により、一気にスターダムにのし上がったSHŌGUN。多忙になった芳野は西城秀樹のサポートバンドを休止せざるを得なくなり、飯田則子が責任を感じ、西城秀樹に謝りにいったそうだ。するとヒデキは “彼らが成功してくれたことをとっても喜んでますよ” と言ったという。ああ、やっぱりヒデキは最高!
SHŌGUNはセカンドアルバム『ROTATION』、サードアルバム『You’re the One』をリリースし、どちらもヒットしたが、わずか2年足らずで活動は休止した。私はその事実さえ知らないまま時がたち、彼らの音楽も記憶から消えようとしていた。しかしそれをもう一度思い出させたのが、1997年に放送された缶コーヒー『JACK』のCMである。“深くてキレる” というコピーとともに、松田優作演じる工藤ちゃんの映像が流れ、「Bad City」の “Bad” を “JACK” にした替え歌が流れてきたのだ。
♪ジャックシティー、ジャックジャックシティー……
くおーっ 懐かしい!私はそこでやっとアーティスト名をチェックし SHŌGUNというバンド名を知った。そして “あのカッコイイ曲はこの人たちだったのか!” とアルバムを買うに至ったのである。18年ぶりの興奮だった。こんな音楽の再会もいい!
SHŌGUNは1997年以降も、2001年、2006年、2013年、2014年と不定期にアルバムを発表。現在、オリジナルメンバーの芳野藤丸、長岡道夫の2人で活動中だ。9月18日にはデビュー45周年を記念して、「男達のメロディー」や「Bad City」のボサノヴァバージョン「Bad City Bossa」を収録したベストアルバム『best Mellow tunes』をリリース。11月には第2弾『best Groovy tunes』をリリース予定だ。
忘れてもいい。いつもあてにはしてないさ! 思い出した時が聴きどきだ。気まぐれに吹いてくるからっ風。それがSHŌGUNなのである。