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日本と中国に伝わる「変なものを食べる怪異伝承」火を食い、垢を舐め、財を喰らう

草の実堂

垢嘗

食事は、生きるために欠かせない行為である。

多くの場合、食物は美味であることが望まれ、食の喜びは人間社会において普遍的な価値とされてきた。

しかし、古今東西の民間伝承や宗教的文献の中には、常識とはかけ離れた食性を持つ存在が数多く登場する。
中でも妖怪や餓鬼といった伝承上の怪異たちは、人間にとって忌避されるものを食すとされ、「悪食」の象徴として描かれてきた。

今回は、そうした異常な食性をもつ怪異たちの伝承を紹介していく。

1. 貔貅

画像 : 貔貅 wiki c Sol lc

貔貅(ひきゅう)は、中国に伝わる幻獣である。

その姿は鹿に似ており、尾は長く、角は二本生えているという。

邪気を払い、「金銀財宝」を主食にすると考えられていたことから、魔除けや金運アップのお守りとして、中国では古来より人気の高い怪物である。

この怪物の最大の特徴として、肛門すなわち「尻の穴」が存在しないことが挙げられる。
一説によると、かつての貔貅は非常に大食いであり、食べた分だけよく排泄する怪物であったそうだ。

しかし、ところかまわず糞をひり出すため、道教の最高神「玉皇大帝」は激怒し、貔貅の尻の穴を塞いでしまったという。

こうして貔貅は、腹に財宝を溜めこみ続けるだけの存在、いわば「生ける貯金箱」として、一生を送るハメになったとのことだ。

まさに一生続く便秘のようなもので、考えるだけで背筋が寒くなる。

2. 食火炭

画像 : 食火炭 草の実堂作成(AI)

仏教には「六道輪廻」の概念があり、これはすなわち、生き物は天界・人間界・修羅道・畜生道・餓鬼道・地獄の六つの世界を、次々と生まれ変わるという考え方である。

そのうち餓鬼道に生まれた者を餓鬼といい、まともな食事が摂れず、常に飢餓に苦しむ哀れな存在だと説かれている。

食火炭(じきかたん)とは、そんな仏教に語られる餓鬼の一種である。

4~5世紀頃に成立した『正法念処経』という仏教書物にて、その存在が言及されている。
それによるとこの餓鬼は生前、人々を苦しめ飢えさせた監獄官が、死後生まれ変わったものだとされる。

餓鬼という存在は、ロクなものが食べられないと相場が決まっているのだが、この食火炭も例に漏れず、なんと「火葬に用いる火」しか食べることができないのだという。

火を食べるというのなら当然、口や食道への火傷は免れないだろうし、腹も膨れるとは思えない。
食べることが苦痛でしかないというのは想像するだけでも恐ろしいが、生前の行為の報いを受けているわけだから、自業自得ともいえる。

また、一度でも食火炭として生まれ変わったことのある魂は、たとえその後に人間へと転生したとしても、必ず辺境の地に生を受け、味のない食事しか口にできなくなるとされている。

3. 垢嘗

画像 : 垢嘗 鳥山石燕『画図百鬼夜行』より public domain

垢嘗(あかなめ)または垢舐(あかねぶり)は、江戸時代の日本に伝わる妖怪である。

この妖怪はその名の通り、人間の体から出る「垢」を食べるとされ、垢の溜まりやすい風呂場によく出没するのだという。

俳人・山岡元隣(1631~1672年)の著作『古今百物語評判』によると、この妖怪は塵垢の放つ「気」から生まれるのだそうだ。
水に生まれた魚がその水を飲むように、汚物に生じたシラミがその汚物を食べるように、垢生まれの垢嘗もまた、垢をなめ取って食らうと説かれている。

このように極めて不潔な妖怪ではあるが、逆に考えれば、風呂の汚れを舐めとりキレイにしてくれる存在とも解釈できる。
掃除が面倒な時に現れてくれたら、ありがたい妖怪ともいえるだろう。

しかし、垢嘗の中には人体から直接垢を摂取するタイプも存在し、そうした個体は垢だけでなく肉までも削り取り、骨になるまで舐め続けるという。

こうした恐ろしい事態を招かぬためにも、風呂掃除は普段からしっかりやっておいた方がよさそうである。

4. モミ

画像 : モミ 草の実堂作成(AI)

モミは、日本の民間伝承に見られる性的妖怪の一種である。

出羽国久保田藩(現在の秋田県)の国学者・人見蕉雨(1761〜1804年)が著した随筆集『黒甜瑣語』にて、その存在が言及されている。

阿仁(現在の秋田県北部)の山中には、モミと呼ばれる奇怪な虫がいたという。
その姿はイモリやヤモリに似ており、江戸時代にはこのような小動物を一括して「虫」と呼ぶことが一般的だったため、モミもそう分類されていたと考えられる。

モミは、山中で眠っている人間を見つけるとその股間にとりつき、四本の足で陰部を執拗に揉み解してくる。
その動きは巧みを極め、刺激に耐えかねた人間はたちまち絶頂に至る。
そして、モミはその際に分泌された体液を啜って満腹となるとされる。

このような被害を防ぐため、地元の人々は山へ入る際、褌や股引をしっかり締めて身を守ったという。

また、モミは媚薬の原料になるとも考えられていた。
モミを材料とした薬は「春意香」と呼ばれ、その香りをかいだ女性は次第に興奮し、顔色までも変わってしまうと伝えられている。

なお、日本では古くから、イモリの黒焼きに催淫効果があると信じられてきた。
しかし実際には、そのような薬効は科学的に確認されておらず、イモリの体内には微量ながら猛毒であるテトロドトキシンが含まれているため、摂取は非常に危険である。

モミの伝承にも、こうした動物と性的効能を結びつける民間信仰との共通性が見て取れる。

こうした根源的なテーマに、人々が畏れや欲望を投影した結果として、このような怪異が生まれたのかもしれない。

参考 : 『正法念処経』『古今百物語評判』『黒甜瑣語』他
文 / 草の実堂編集部

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