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郷土料理に夢中! のっぺに半見揚げ、新潟『喜ぐち』で“酒忘れ”の夜

さんたつ

【酒場ナビ】新潟「喜ぐち」

みなさんは晩酌をしていますか? なるほど、毎日ですか。なにを隠そう、私も毎日晩酌をしている。元々はあまり酒を飲まない方だったのだが、いつしか……おそらくは「酒場ナビ」なんてものを始めたくらいに晩酌をするようになった。独身の毎日なので、安い焼酎の炭酸割りとお総菜で事足りる。最近のお気に入りは冷凍サケの切り身だ。あれを適当にもぎ取って茹でて、それをアテにチビチビと飲(や)るのがいい。なにせ、私は料理がまったくできないのだ。そんな安い晩酌の中でも「料理がおいしすぎて酒が止まる」という記憶はないだろうか? 魚屋で買った刺し身の盛り合わせ、揚げたての唐揚げや寿司屋の「おみや」など、単なる晩酌のアテがおいしすぎて気が付けば酒を飲むことを忘れているという現象だ。何とも言えない、幸福感。そんな“酒忘れ”を体験させてくれるのは晩酌だけはなく、もちろん酒場でも起こりえるのである。ちなみに、晩酌を共にしてくれる女性は毎晩募集中である。

独身の身ひとつで、新潟へと来ていた。昼間には筆者の趣味でもあるレトロ建築を探しに市内を散策。いや、びっくりしましたね。新潟には由緒正しいレトロ建築がこんなにもたくさんあるとは知らなかった。

『旧齋藤家別邸』や『新潟市歴史博物館みなとぴあ』、中でも『旧小澤家住宅』はかなり私好みのレトロっぷりで、今後新潟に訪れた時まちがいなく足を運ぶであろう。

夕暮れの古町通りを歩く。雁木造(がんぎづくり)の商店街から、この街が豪雪地帯だということが分かる。その静かな一角にお目当ての酒場があった。

出たっ、『喜(き)ぐち』である。雁木造にたたずむシブめの外観。「喜ぐち」と大書された電気看板と、「㐂ぐち」と異体字で書かれた暖簾(のれん)とのコンビがいい。少し開いたアルミサッシのドアからは、温かみのある光と客らの声が漏れている。

ああ、すぐにでも入りたい……いや、大至急入ろう。

「はい、いらっしゃいませ~」

中へ入ると、細い通路に女将さんが座ってお迎えしてくれる。すぐに案内されてコンクリートむき出しの通路を進むと、途中に10畳ほどの座敷、奥にはもっと広い座敷が待ち構えている。

思っていた以上の人気店で1時間ほどで退店しなければならないものの、予約なしに奥の座敷へ滑り込むことができた。いや、これは「思し召し」ですよ。

思し召しとなれば迎え酒をする他ない。キンキンの瓶ビールと共に「㐂ぐち」と酒盛りをする人々が刻印されたグラスがやって来る。「㐂」の字の一番上にある「七」のところまで麦汁を注ぎ、いただきます。よく冷えた麦味の炭酸が、ツーッと喉を喜ばしてくれるじゃないか。

新潟素人の筆者は、目についた料理を闇雲にいただく。はじめにやってきたのが新潟の郷土料理「のっぺ」である。のっぺ……聞いたことがあるような、ないような。ニンジン、サトイモ、コンニャク、シイタケなど、見た目は鮮やか。

おっ、冷たい! 鍋的なものかと思っていたが、思いのほか冷たい料理。ただこれがまた抜群に旨い。シャクシャクとした根菜の食感と、いやらしくない出し汁の甘みがスーッと心地よい。もしかすると、これはシメの一品なのかもしれないが、今だけは前菜として楽しもう。

つづけてやってきたのも新潟の郷土料理「半身揚げ(カレー味)」である。鶏肉を骨ごと揚げた唐揚げにのようだが、とにかくビジュアルがいい。アルミの楕円皿にゴツゴツとした鶏のから揚げとキャベツ盛り。そこからカレーの香りがホカホカと立ち込める……これは一体。

カリッとした食感のあとに、カレー味の混ざった肉汁がタンマリと口中にあふれる──旨いっ! これって、なんだろう……ケンタッキーフライドチキンにも似ているが、またちょっと違う。とにかく本当においしくて、このあとも新潟で何度もいただくことになるのだ。

──ハッ! と気が付けば「あの現象」が起こっていた。最初のビールひと口目から、一滴も飲んでいなかったという。これだよこれ、“酒忘れ”は決して損でもなければ慌てることでもない。ただただ、その料理のおいしさにニンマリと笑って、また酒を飲み始めればいいだけのことなのだ。

グーッとグラスのビールを飲み取り直して、料理の続きだ。はじめの2品で間違いなくどの料理も旨いことは確定したのだから何でもいいが……おや?

黒板メニューの端に「岩ガキ」の文字。そうそう、この酒場の黒板メニューには値段が書かれていない。この店の雰囲気的にも、そこそこの値段はするはず。エイヤ!と何も考えず頼めばいいが、小心者の私はしばし熟考。

「1200円です」

葛藤の末、店員さんに値段を伺うと、なかなかの高級料理。それでもめったに来ない新潟上陸のお祝いを兼ねて頼んだのが大正解だった。

デ・カ・いッ! ロールパンほどの岩にドッシリと牡蠣の身が引っ付いている。なんですか、このデカさは……。

割り箸で牡蠣の身を引っ張ってみると、これが重いのなんのって! 箸先をしならせ「ヌルンッ」とその身を持ち上げる。そのまま一気に顔から牡蠣へと突っ込む。

うまぁぁぁぁいぃぃぃぃ! なんじゃこりゃ? これが……これが本当の牡蠣なのか? よく聞く「海のミルク」とは言ったもので、本当にミルクのようなまろやかさ。とにかく身が厚いので、咀嚼するたびにブツンッブツンッと音をたてながらミルクの洪水に溺れてしまう。間違いなく、今まで食べてきた生牡蠣の中で一番旨かった。と同時に、今後このクラスの生牡蠣に出合うことがあるだろうかと不安にすらなる。

おいしい、とにかくこの酒場の料理ときたら、どれもこれもおいしいのだ。

酒場のホームページがあったので見てみると、大きくこんなことが記されていた。

『お客さんの口を喜ばそう』とこの地に開店して55年。

実家に帰ってきたようなお気持ちでおくつろぎください。

まさしく、その通り。まんまと私も口を喜ばせてもらって……ほら、また“酒忘れ”だ。

喜ぐち(きぐち)

住所: 新潟県新潟市中央区古町通10番町1720
TEL: 025-224-9075
営業時間: 17:30~翌2:00
定休日: 日
※文章や写真は著者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。

取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)

酒場ナビ
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