介護現場で利用者さんから新人介護職へのセクハラ、なんとかしてあげたい!セクハラに関する法整備もご紹介
本日のお悩み:介護施設で利用者さんから新人介護職へのセクハラについて
利用者さんからのセクハラについて相談です。
私自身も、今までに何度か利用者さんからのセクハラにあってきました。
しかし、認知症のせいであるからと受け止めてきました。
今年からリーダーとなり、新人の職員さんと一緒に働くようになりました。
この職員さんに対しても利用者さんからセクハラがあるようで、リーダーという立場としてなんとかしてあげたいです。
対策方法や、法律の整備状況について教えてください。
介護現場の職員の3~5割はセクハラ被害を受けた経験がある
参考:厚生労働省介護現場におけるハラスメント対策マニュアルをもとに作成介護施設におけるハラスメントは、業界全体としても問題になっています。上記グラフは、厚生労働省の調査によるハラスメントを受けた職員の割合です。
この数字には、セクシャルハラスメント以外に暴力などのハラスメントも入っていますが、要介護度が高い利用者さんが多い特養や、認知症の方の対応が多い認知症対応型通所介護などでは、半数以上の職員がハラスメントを受けた経験があると回答しています。
次にハラスメントの内容を見てみましょう。
参考:厚生労働省介護現場におけるハラスメント対策マニュアルをもとに作成ハラスメントを受けた人のうち、複数回答可でその内容を調査したところ、セクハラを受けた人は約3~5割となり、多くの介護職員が利用者さんからのセクハラに悩まされていることがわかります。
では、ここから実際の介護現場にも携わる伊藤先生に対応方法や法律の整備状況について解説いただきましょう。
「視点の分解」からはじめよう!
執筆者/専門家
伊藤 浩一
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14
ご質問は大変深刻な問題と受け止めました。
実は私も現場で何度も経験してまして、現在進行中の事例もあります。
では、どんな解決の糸口があるか?
一緒に考えていきましょう。
関係する人それぞれの、視点を分けて見てみましょう
まず、この問題、「視点の分解」が大切です。
つまり、誰の視点からみ見ると、どのように捉えられるかを明確にしてみることです。
(質問の情報では背景が読みきれませんのでここから記載することは仮説です)
<視点1> 認知症の利用者さんからセクハラを受けている新人職員さん
利用者さんのセクハラは、認知症の症状とはわかっているが?受け止めきれない。本当に嫌。
<視点2> 質問者さん(新人職員さんの上司)
新人職員さんが辛い思いをするのをなんとかしてあげたい。
もちろんセクハラは自分も嫌だが、利用者さんが認知症であることもわかる…。
<視点3> セクハラをしている利用者さん
セクハラをしてしまう時は、大体○○な時。
セクハラはAさん、Bさんのみにおこなっており、Cさんにはしない…。
そもそも、セクハラをしている理由は…?
<視点4> 新人職員さんの同僚
新人職員さんがセクハラをされるのを見るのは辛いから、自分と勤務が一緒のときはできる限り、その利用者さんの対応をかわり、新人職員さんには、他の利用者さんの対応をお願いしている。
<視点5> セクハラをしている利用者さんの家族
父(または夫)がそのようなセクハラをするなんて信じられない。家庭ではまじめでおとなしい人だった。
職員側からだけでなく、利用者さんの視点もアセスメントしましょう
さて、いかがでしょう?
質問者さん、新人職員さんだけの視点では、セクハラをしている利用者さんは、認知症はあれど加害者的見方が強く感じられました。
しかし、視点3〜5を加えると「ちょっと待てよ」という感覚も湧きませんか?
この問題は、セクハラを受けた職員さんに対する「かわいそう」という感情が偏りすぎて、なぜこのようなセクハラが起きるのかという論理的な課題解決を見失ってしまうことに落とし穴があります。
特に利用者さんの視点をしっかり分析(アセスメント)すると意外な解決策が見えてくるかもしれません。
利用者さんから介護職員に対するセクハラ行動の原因は?
認知症やピック病(前頭側頭型認知症)の可能性も
例えば、「利用者さんがセクハラをするのはどのようなときか?」ですが、便秘時、水分摂取量がすくない時、夜間不眠時等であれば、利用者さんがなんとなく体の不調を感じているが、それを認知症で伝えきれず、不調に対する対処をセクハラ行動に置き換えていることも考えられます。
この場合は、便秘改善、水分の適量摂取、日中の活動量増加等で生活習慣を整えていくことも対策方法となるでしょう。
また、ご家族の情報からすると「前頭側頭型認知症(ピック病)」の可能性も考えられます。この認知症は、性格が真逆になってしまう症状があります。
もしこの認知症の診断がなく、ピック病の可能性があるのであれば医療機関との連携も対応方法となります。介護職員から病名を断言してお伝えすることは控えましょう。
身体的・精神的な距離が近くなりやすい
また、介護を行うなかで身体的・精神的な距離が近くなりやすいことも大きな要因でしょう。
身体介護を行う際には、利用者さんとの距離が近くなります。また、介護をしてもらう・不安を聞いてもらえるといった状況で利用者さんにとっては心の距離も近く感じます。
その結果、境界線が曖昧になってしまいセクハラが起こりやすいというのが要因として考えられます。
外部からの目が届きにくい環境が多い
利用者さんの自宅にうかがう訪問介護などでは、周囲から隔離された環境での作業が多くあります。外部の監視が少ないことでセクハラが生じやすく、また周囲にも気づかれない、申告しづらいといった状況が生まれてしまうのです。
セクハラがあった場合は、まず自分の心身を大切に、相談しやすい相手に状況を伝えるようにしましょう。
介護現場でセクハラが起きた際の対応法とは?
助けてくれている職員は誰か?にも注目し、組織で対処することが必要
利用者さんがセクハラをする相手が決まった職員さんである場合は、冒頭でおこなった「視点の分解」で4番目に出てきた気を遣ってくれる他の職員にだけ頼むのではなく、その他の職員にもヒヤリングを行い、利用者さんがセクハラなどのハラスメントを、どの職員に対して行っているか、誰が助けてくれているのかを明確にしてください。
助けてくれている職員が一部の場合、状況によっては最初は善意で行っていたことが、 「なんで自分ばかりが助けなければならないんだ」とマイナス要素に切り替わってしまうこともあります。下手をすると組織全体に悪影響が広まる恐れも出てくるでしょう。
セクハラは表に出しにくい問題ではありますが、内々で解決を図ろうとしてもうまくいきません。
組織の問題としてみんなで対処することが重要です。組織全体の課題として職員全員が認識していれば、フロア異動や担当変更という方法をとった際も、そのあとの組織運営がスムーズとなるでしょう。
職員の心に寄り添いながら、粘り強く実践していきましょう
以上、私は、利用者さんのセクハラへの対処法として
1.視点の分解
2.利用者さんの再アセスメント
3.組織全体の課題と捉える
の3つを実践しています。
冒頭に現在進行中の事例もあると書きましたが、一朝一夕に解決できる問題ではありません。 辛い思いをしてしまった職員の心に寄り添いつつ、できる対策を常に図りながら、利用者さんを中心としたケアという根本を外さず、粘り強く実践していくことが重要です。
難しい問題ですが、共にがんばりましょう。
セクハラなどのハラスメントに関する法整備について
最後に、セクハラなどのハラスメントに対する法整備について説明します。
令和3年度の介護報酬改定において、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントなどのハラスメント対策として、介護サービス事業者に必要な措置を講ずることが義務づけられました。
このなかで利用者さんからのハラスメントを理由とし、サービス提供の拒否などを行う場合は「正当な理由」が必要であるとも定められており、「セクハラがあった」「暴言があった」など曖昧な表現での記録は無効とされてしまう可能性があります。少し書きづらくても、ハラスメントに関する記録は詳細に明記し、ご家族にも納得いただく必要があります。
正当な理由の具体例としては、「話し合い等をおこなっても再発の可能性があること」「ハラスメントによる結果の重大性」「契約解除以外の被害防止方法がないこと」などです。※
前提として、簡単に解除や拒否ができるわけではないので、組織全体で対策方法をしっかりと講ずることが大切といえるでしょう。
※出典:厚生労働省介護現場におけるハラスメント対策
最後に:1人で抱え込ませず、チームで連携することを意識しましょう!
先述したように、介護現場でのハラスメントは少なくありません。対応方法として、セクハラを受けた職員さんが1人で抱え込む、親しい職員さんだけがサポートするといった体制をなくし組織全体で課題意識を持つことが大切です。
チームで連携をとり、いざというときに対応できる体制を整えておきましょう。
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