管理職の打診、断るのはアリですか?キャリアの節目で盲点になりがちなこと
今の仕事に不満はない。最初は大変だった仕事も、ある程度経験を積んだらいろいろなことがスムーズにできるようになってきた。後輩もできて、残業も毎日遅くまであるわけではないから、仕事後に友達との予定を入れたり、早く帰って家でのんびりしたりすることもできる。ずっとこんな生活を続けていきたかった。なのに、上司に「管理職を目指してみないか」と言われ──。
会社員として働いていると、思わぬタイミングでキャリアの節目を迎える、ということもあるものです。管理職というと華々しい出世と捉えることもできますが、「上司の姿を見ているとやることが多くて大変そう」「自分に務まる気がしない」と、乗り気になれない方もいるでしょう。
実際、マイナビ転職の調査によると「管理職になって良かった」と答えた女性は61.3%。過半数の方がなって良かったと感じている一方で、「なって良かったと思わない」人が4割近くいるのです。
また、管理職になったことで感じている変化について、「金銭的な不安が減った(67.1%)」「自分に自信がついた(66.8%)」「自分の人生がより良い方向に進んでいると感じる(63.4%)」など、ポジティブな面の一方で、「仕事の比重が増えた(77.9%)」「心身の健康が損なわれた(68.3%)」と、ネガティブな変化を感じている人も。
このように、管理職手当などは魅力に感じつつもデメリットもありそう、管理職の打診を受けるべきか否かと迷いを抱いた時は、どのようなことを考えておくと良いのでしょうか。今回も、キャリア・コンサルタントの林碧先生の解説です。
キャリア・コンサルタント
林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。
企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生・保育園児の2児の母。
•管理職という選択肢、受けた場合のメリット・デメリットは?
•貴女の迷いの背景はどこにあるのでしょう
•断る=キャリアパスがなくなるわけではない。とはいえ今のままで……は難しいかも
皆さんは昇進・昇格に関心がありますか?今回の記事のテーマは「管理職を目指してみないか?」と上司に言われたが、どうするのが良いか、というご相談です。
今、日本では女性活躍推進の機運があります。そのため、時に前例がないなかでの突然の抜擢や、思っても居なかったタイミングでの声かけなどもあり、管理職登用の話に戸惑う気持ちを持つ方も中にはいらっしゃるようです。
今回はそんな方々の決断の材料として、管理職になるメリットやデメリット、悩んだときに考えたいことや検討にあたって取りたいアクションなどをご紹介いたします。今、まさに迷っているという方は勿論ですが、そうではないという方も、いざというときに向けてご覧いただけたらと思います。
管理職という選択肢、受けた場合のメリット・デメリットは?そもそも、管理職を選ぶ場合のメリット、選ばない場合のメリットはどのような点にあるのでしょうか。下記に纏めてみました。
大きく捉えると、管理職という選択は、自分自身の達成感や充実感、成長実感など、仕事における充実感や金銭的な報酬の向上、更なる自己実現の足がかりとなる一方で、物理的な業務量・業務時間の増加や精神的なストレスやプレッシャーが増すという部分は懸念事項となるでしょう。また、役職がつくことによる関係性や役割の変化によって苦労する方も一定数いらっしゃるようです。
貴女の迷いの背景はどこにあるのでしょう管理職の誘いは貴女の頑張りを評価されてのもの。本来であれば喜ばしいものであって良いはずですが、特に女性は迷う方も多いものです。このようなケースにおいて最初に考えるべきは、貴女の迷いはどこから来るのか、という部分でしょう。
もし、貴女の迷いが「偉くなる未来を想像したこともなかった」という戸惑いなのであれば、自分の未来について考えるチャンスと捉えて、改めて今後の可能性を検討してみましょう。自分は「どんな人生を築きたいのか」、「今後挑戦してみたいことはあるのか」など、自分らしい生き方に向き合うことは幸せに生きる、ウェルビーイングの観点からも重要です。
改めて自分の幸せを踏まえたとき、管理職への登用によって貴女の理想の未来が近づくのであれば、登用を前向きに検討したいところですね。もし「自分には勤まるのか不安」といった漠然とした不安が依然残る、という場合、貴女の自己効力感の低さが、挑戦への足かせになっているのかもしれません。
自身の強みや、貴女だからこそできることに意識を向けてみる、今回声をかけてくれた上司に、お声かけの背景を聴いてみるなど、貴女の魅力や成長にも是非意識を向けてみましょう。
あるいは「前例がない」、「皆大変そう」などの理由で明るいイメージが持ちにくいケースは、社外にも目を向け、目指せるようなロールモデルを探してみる、うまくやっている方の話を聴くなども、挑戦に向かう前のアクションとしてはおすすめです。
一方で、具体的な不安ポイントが明確な場合もあるでしょう。「これまでの経験から高い負荷がかかることに耐えられないと感じる」「育児や介護、その他の事情で仕事の負荷が上がることに懸念がある」「指導的な役割や責任感ある立ち位置に対する不安」など、置かれている状況や過去の経験からの不安がある方もいらっしゃるとことでしょう。
とはいえ、悩む気持ちが残るのは、挑戦したい気持ちもあり諦められない、逆で断ることのデメリットに気になる部分が残っている、いずれかまたは両方ということ。「不安点を軽減する手段はないのか」、「デメリットはどれくらいの影響を及ぼすのか」、それぞれについて、いま一度確認することで納得の結論を出しやすくなるでしょう。
例えば本当は挑戦したい気持ちはあるものの、子育ての事情もあり、残業や業務量部分が懸念であるというケース。残業はどれくらい発生しそうなのか、子育て事情への考慮はあるのか、人事や今実際に管理職についている方から話を聴いてみることで制度や実態を正確に把握でき、合理的な判断がしやすくなるかと思います。
あるいは家族との対話や社会的なサポートを改めて確認することで、今まで想定していなかった対応方法が見えてくるかもしれません。収入額の部分は長期的なスパンで検討できると良いですね。これを機に給与体系など改めて確認いただくと実態は捉えやすくなりますよ。
断る=キャリアパスがなくなるわけではない。とはいえ今のままで……は難しいかも断った場合、その後のキャリアはどうなるのか、キャリアパスは途絶えてしまうのか、その不安から決断できないというケースもあると思います。
大前提として、その場合も、キャリアが途絶える訳ではない、という部分はお伝えしておきたいところです。人を管理するマネジメント的な立ち位置に立つ以外にもスペシャリストやエキスパートとして特定分野の専門性を極めて活躍する方はたくさんいますし、組織の中で上を目指す以外にも、将来的にフリーランス・独立などの道を選んで活躍する方も多いです。
また「家庭事情との両立を踏まえると今は難しいけど◎年後なら……」というケースは、その背景を含めて上司に伝えておけば、良いタイミングで再度挑戦のチャンスが得られる可能性もあるでしょう(もちろん確実ではないので、そのあたりも含めて相談できるといいかもしれません)。
断る場合は自身のビジョンや背景を添えて伝えると理解を得やすいかもしれませんし、今後の自分のキャリアパスが良い方向に開けてくる可能性が高まります。
敢えて厳しいことを1つお伝えするならば、昇格をしなかったとしても、年次が上がればその分周囲からの期待値はあがっていくものだ、ということ。今のままでずっといたい、という期待は、現実にはなかなか叶わないものです。
今回の登用を断ったとしても、今後ずっと同じ立ち位置の中で、同じ仕事を続ける、という可能性は低く、現在のポジションの中で新たな役割や期待が課される事には変わりは無いかと思います。それも踏まえて、変化がないことを期待するのではなく、どんな期待に応えるのか、どんな役割を選ぶのか、という視点も持って、今後に向けての意思決定をできると良いですね。
どちらを選択するにせよ、最終的に大切にしていただきたいのは、後悔を残さないこと。どちらの選択にせよ、大変な場面はあることでしょう。その中でも、これで良かったと思えるよう、選んだ道で充実した日々を築いていきたいものですね。この記事が貴女の明るい未来を築くヒントになっている事を願っています。
文・マイナビ転職編集部