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古の伝承が語る~ 体内に宿り人を操る『寄生虫』の奇怪な伝説

草の実堂

画像 : 牛癇 イメージ 草の実堂作成
画像 : 生ものを食べるときは寄生虫に注意! illstAC cc0

日本は「お魚天国」である。

島国という地理的条件から、古くから魚食文化が発展し、新鮮な刺身を日常的に楽しむことができる。しかし、生魚には寄生虫が潜んでいることがあり、食べる際には常に食中毒のリスクを伴う。

近年では地球温暖化の影響により海水温が上昇し、寄生虫の活動も活発化している。これにより、年間を通じて寄生虫による食中毒のリスクが高まっており、衛生管理の重要性がさらに増している。

こうした「寄生する生き物」の脅威は、神話や幻想の世界にも色濃く反映されている。古来より、人間の体に寄生し、内部から蝕む怪物の伝説が各地に伝わっているのだ。

前回に引き続き

古の伝承が語る~ 恐るべき『寄生虫の妖怪』たち
https://kusanomido.com/study/fushigi/story/93010/

今回も、寄生虫についての伝承を紹介したい。

1. 消麺虫

画像 : 消麺虫 イメージ 草の実堂作成

消麺虫(しょうめんちゅう)とは、中国に伝わる「ラーメン大好き」な寄生虫である。

唐代の作家・張讀(833~889年)によって記された『宣室志』には、次のような逸話が記されている。

(意訳・要約)

呉郡(現在の江蘇省)の陸顒(りくぎょう)は、無類の麺好きであった。
これは彼が太学に通うため、長安(現在の西安市)に移り住んでいた頃の話である。

ある日、陸顒のもとを何人かの胡人(異国の人々)が訪れた。彼らは宴を催し、さらには金や反物などの高価な品まで贈ってくれた。
しかし、あまりに親切すぎる態度に陸顒は不審を抱き、「何か裏があるに違いない」と警戒し、郊外へと引っ越すことにした。

ところが一か月後、胡人たちは陸顒の新居にまで押しかけてきたのである。

一体何を企んでいるのかと警戒する陸顒に、一人の胡人が尋ねた。

「あなたは麺がお好きですね?」

陸顒が「そうだが、それが何か?」と答えると、胡人は驚くべきことを告げた。

「あなたが無性に麺を食べたくなるのは、体内に潜む虫の仕業なのです。この薬を飲めば、その虫を吐き出すことができます。我々はその虫が欲しいのです」

陸顒は半信半疑ながら、差し出された薬を飲んだ。
すると突然、強烈な吐き気に襲われ、一匹の奇妙な虫が喉から這い出てきた。その姿はカエルに似ており、青い体をしていた。

胡人によれば、この虫は「消麺虫」と呼ばれる寄生虫であり、天地のエネルギーが凝縮された末に生じたものだという。
そして、宿主が無性に麺を求めるのは、この虫が天地のエネルギーを含む「麦」を欲するためだとされる。

「この虫を手にした者は、世のあらゆる珍宝を手にすることができる。感謝します」

そう言うや否や、胡人たちは陸顒に多額の金銀財宝を与え、「消麺虫」を持ち去っていった。

2. 針聞書の虫たち

永禄11年(1568年)に、医者の茨木二介元行という人物が執筆した『針聞書』という書物がある。

針聞書は鍼灸、すなわち針・お灸を用いた治療にまつわる医学書であるが、人間の体内に潜むとされた様々な「虫」についての解説も記載されている。
この「虫」たちは、現代の視点から見れば荒唐無稽すぎる存在ばかりだが、当時は本気で実在するものとして扱われていた。

それでは、針聞書に描かれた63種の虫の中から、何匹かピックアップして解説しよう。

画像 : 賁豚 イメージ 草の実堂作成

賁豚(ほんとん)または腎積(じゃんしゃく)とは、豚の姿をした虫である。

この虫は主に人間のへその下に生息するが、一か所にとどまることなく、体内をあちこち動き回るとされる。

寄生されると肌が黒くなり、息が臭くなるという。

画像 : 牛癇 イメージ 草の実堂作成

牛癇(ぎゅうかん)は、牛の姿をした虫である。

この虫は肺に寄生し、気管の振動に反応して暴れ出すのだそうだ。

食道に食べものが通ると気管も連動して動くので、宿主は食事のたびに意識を失うハメになるという。

画像 : 馬癇 イメージ 草の実堂作成

馬癇(うまかん)は馬の姿をした虫である。

この虫は心臓に寄生し、宿主が強い日差しを受けたりすると、意識を失わせるという。

これは「てんかん」の症状と考えられており、馬癇はてんかんを引き起こす恐ろしい寄生虫だとされていた。

3. ワッカウㇱカムイ

画像 : ワッカウㇱカムイ 草の実堂作成

ワッカウㇱカムイ(Wakka Us Kamuy)は、北海道のアイヌ民族に伝わる淡水の女神である。

その姿は非常に美しく、人間に対して友好的なカムイ(神)であるとされる。

アイヌの人々にとって生活の要である川の水は、ワッカウㇱカムイの乳から溢れ出る母乳だと考えられていた。
ゆえにこの女神は、非常に尊いカムイとして敬われていたという。

カムイたちは通常「カムイモシリ」という世界に住んでおり、その姿は人間と同じだが、何らかの理由で人間の住む世界「アイヌモシリ」に出向く場合、動物の姿へと変身し、やって来るものとされていた。

ワッカウㇱカムイは、なんと「ハリガネムシ」の姿で我々の世界へと現れるのだという。

ハリガネムシとは、カマキリなどの昆虫に寄生する寄生虫であり、その名の通り針金のような見た目をしている。
卵から孵化した幼生は水中で活動し、やがてカゲロウやトンボの幼虫に捕食されるが、体を膜に包んで生き延びる。
それら幼虫が変態し成虫となり、空へ飛び立つと、お次はカマキリなどに捕食される。

しかしカマキリの体内でハリガネムシは成長を続け、遂には脳を乗っ取り、水辺へと直行させる。
哀れにもカマキリが入水し溺れ死ぬと、その尻からハリガネムシはニョロニョロと這い出し、水中で産卵を行う。
以上が、ハリガネムシの恐るべきライフサイクルである。

そんな寄生虫の正体が美しい女神というのも、なかなか趣のある話である。

参考 : 『針聞書』『宣室志』『妖怪図鑑』外
文 / 草の実堂編集部

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