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イケメン王子に嫁いた後に狂った「狂女フアナ」の異常な行動 【スペイン王室成立期】

草の実堂

画像 : イメージ 草の実堂作成
画像:フアナ (カスティーリャ女王) public domain

狂女フアナ」の異名で知られるカスティーリャ女王フアナは、スペイン王室の中で悲劇的な運命をたどった人物です。

フアナは、美貌の夫が手をつけた多くの女官を抱える宮廷に嫁ぎましたが、カトリックの厳格な教えの元に育った生真面目な彼女にとって、それはとても哀しく苦しい政略結婚でした。

それでも一途に夫を愛し続けた彼女を待ち受けていたのは、あまりにも過酷な運命だったのです。

幼少期は内気な箱入り娘

画像:父フェルナンド2世と母イサベル1世の結婚の肖像画、1469 年頃 public domain

1479年、フアナはイベリア半島中央部に位置するカスティーリャ王国で誕生しました。

父はアラゴン王フェルナンド2世、母はカスティーリャ女王イサベル1世です。

彼らはイスラム国家グラナダ王国を制圧し、800年にも及んだレコンキスタ(キリスト教国家がイスラム勢力からイベリア半島を取り戻すための活動)終止符を打った功績によって、ローマ教皇から「カトリック両王」の称号を授けられ、スペイン王国隆盛の基礎を築いた人物でした。

フアナはこの偉大な両親に育てられながらも、幼少期から内気で大人しい性格で、一人で過ごすことを好んでいました。政治には関心を示さず、そのことが母イサベルを落胆させることもありましたが、親からの聡明さは受け継いでおり、読書を好み、語学やダンスの才にも長けていました。

そして、当時の欧州で最も勢いを増した国の王女フアナは、最も家柄が良いとされていた神聖ローマ帝国の皇子、神聖ローマ皇帝マクシミリアン1世の長男であるブルゴーニュ公フィリップの元へと嫁がされることになります。

それは、政略上当然の成り行きでもありました。

1496年に行われたフアナの輿入れは、100隻を優に超える船団と2万人以上のお付きを従えた、実に豪華なものでした。

政略結婚のお相手は「超イケメン」

画像:フィリップとフアナ女王、1505年 public domain

17歳のフアナが、夫となる一歳年上のフィリップ公と顔を合わせたのは、まさに婚礼の前日でした。

フィリップは「端麗公」と呼ばれるにふさわしく、由緒正しきハプスブルク家の血を引き、容貌は金髪碧眼、領民たちから「美しき姫君」と慕われた母ブルゴーニュ女公マリー譲りの、美しさに恵まれた青年でした。

フィリップは、フアナが輿入れで到着した際には出迎えもしませんでしたが、細面で黒髪というカスティーリャ人らしい美しさを持つフアナに初めて対面したとき、その魅力に強く惹きつけられました。

女性好きであったとされるフィリップですが、そのような容貌の女性は周りにいなかったため、フアナの魅力はことさら輝いて見えたのでしょう。

途端に情熱的になったフィリップは、夫婦の契りを急ぐあまり、二人の対面に立ち会っていたスペイン人司祭に、その場で簡素な結婚の義を執り行わせたほどでした。

二人の結婚生活は、幸せに満ちた順調な幕開けのように見えました。

少しづつ壊れてゆく幸せ

画像:フアナの兄、アストゥリアス公フアン 16世紀 public domain

当初、フアナとフィリップの結婚は両家の結束を強め、政局の安定を図るための政略結婚にすぎませんでした。

実際、フアナの兄であるアストゥリアス公フアンとフィリップの妹マルグリットもまた、1497年に結婚しており、両家の結びつきを強固にする意図が明白でした。

しかし、フアナは実際にフィリップへの愛情が深まっていきました。
ところがフィリップはといえば、幾ばくかの夫婦生活を過ごした後、次第にフアナに不誠実な態度を取るようになります。

そんな女性好きな夫の不貞を、生真面目なフアナは許すことが出来ず、彼女の精神状態は次第に不安定になっていきました。

そんなある日のこと、ついに事件が起こります。

画像 : イメージ 草の実堂作成

フアナは不安と嫉妬のあまり、フィリップの愛妾であった女官の髪をはさみで切り刻んだだけでなく、相手の顔を切り裂くという凶行に及んでしまったのです。

この出来事をきっかけに、フィリップ公の心はさらに離れていきました。

そのような中、1497年に両親であるカトリック両王の間に生まれた唯一の男子であった兄フアンが夭折し、彼の妃であるマルグリットも身籠っていた男児を死産してしまいました。

さらに、1498年には姉イサベルが、1500年にはその子であるミゲルも幼くして亡くなり、次々と王位継承者が失われていきます。

こうして唯一残されたフアナが、カスティーリャの王位継承者として指名されることになったのです。

狂気の女王の行く末

画像:『狂女フアナ』フランシスコ・プラディーリャ 1877年 public domain

1501年、フアナは夫フィリップと共に故郷カスティーリャへと渡りました。

そこで、こともあろうかフィリップは、フアナの情緒不安定さを理由に、自身にカスティーリャ王位の継承権を譲るように要求したのです。

フアナの母イサベル1世はフィリップの思惑を許さず、そのまま崩御しますが、フィリップはその後も自身が王座につくための策を巡らせました。しかし1506年、彼は冷水に当たったことが原因で急死してしまいます。

邪険に扱われつつも生涯愛し続けた夫の突然の死に、フアナは激しく狼狽しました。
そしてこの時から、彼女の正気は完全に失われたのです。

フアナはフィリップの遺骸を埋葬することを拒み、何年もの間、彼の棺を乗せた馬車でカスティーリャ国内を彷徨い続けて過ごしました。

娘の異常な行動を見かねた父フェルナンド2世は、ついにフアナをサンタ・クララ修道院に隣接する館へと幽閉します。
その後、父王も世を去り、フアナとフィリップの長男カルロスが政務を代行することとなりました。

フアナの幽閉は崩御までの間、実に40年以上に及びました。

息を引き取る最期まで退位を拒み続けた彼女が守りたかったのは、愛する夫が自らに求めてくれた「王位」という最後の愛の砦だったのかもしれません。

参考文献:『世界史を彩った美女悪女51人の真実』副田 護/著
文 / 草の実堂編集部

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