戦地で動物たちが生きる環境を日本人が現地取材『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』札幌ほかで上映中
毎週・木曜日の深夜1時30分から北海道・札幌のエフエムノースウェーブで放送されている、矢武企画制作・映画専門ラジオ番組「キャプテン・ポップコーン」の内容をSASARU movieでも配信!
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※この記事では2月20日(木)放送の内容をお届けします。
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【提供】キャプテン・ポップコーン/矢武企画
戦場の小さな生命を見つめて。映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』山田監督インタビュー
山田あかね監督のプロフィールをご紹介します。
テレビ制作会社の勤務を経て、1990年よりフリーのテレビディレクターとして活動。
ドキュメンタリー、教養番組、ドラマなど様々な映像作品で演出・脚本を手がける。
2009 年には、制作会社「スモールホープベイプロダクション」を設立。
2010 年、自身が書き下ろした小説を映画化した『すべては海になる』(10)のほか『犬に名前をつける日』(15)で映画監督を務める。
また、飼い主のいない犬や猫の医療費支援をする団体「ハナコプロジェクト」を、俳優の石田ゆり子と創設。現在、ウクライナの動物(=主に犬と猫)のためのクラウドファンディングを実施中です。
気になる方はキャプテン・ポップコーン番組サイトにURL を記載していますので見てみてください。
https://readyfor.jp/projects/UA_animal
そして、このドキュメンタリー映画は侵攻直後、ウクライナへ駆けつけた日本人監督が見た「戦場にいる犬たち」と「小さな命を救う人々」を追った希望のドキュメンタリーです。ナレーションは俳優の東出昌大。
矢武:作品を拝見し、大変感銘を受けました。山田監督は数々の作品で犬や猫の命をテーマに、福島や能登などの被災地への取材を重ねてきたとのことですが、自然災害と戦争という人災の違いは、映像を見れば明確にわかります。しかし、動物たちの環境や人々を取り巻く暮らしの違いはあるのでしょうか?
山田:震災でいうと2011年の福島原発事故の際、私は20キロ圏内に入りました。その直後、被爆への恐怖を感じました。ただ、原発は意図的に攻撃してくるものではないので、ある程度予測は可能です。しかし、今回訪れたウクライナは戦争状態で、ロシア軍が次にどこを攻撃するかは全く予測できません。頻繁に空襲警報が鳴り、ミサイルの着弾地点は直前にしか分かりません。そのため、緊張感が全く異なります。
被災地というのは地震や津波があった後にみんなで助けに行くので、もちろん余震などの危険もありますが基本は助けることがテーマです。ただ戦争中というのは助けているけど、逃げなければならない可能性もあるので、そういう意味でいえば緊張感というのは全然違います。
矢武:戦闘シーンばかりの劇映画でしか近代戦争を見たことがなかったので、戦地の生活状況は全く知りませんでしたし、イメージがつきませんでした。だから今回の作品を見た時に、そこで暮らす人々のリアルな姿が映し出されていたのが、とても印象に残りました。記録映像を見ていて、人間さえ見捨てられた状況で「私たちに何ができたのか」と訴える場面と、「動物たちを救うことは人間を救うことだ」と訴える場面がありました。それぞれの場面の対比が非常に印象的でした。綺麗事ではないことが結構映されてるなというイメージはありましたね。
山田:私も戦争中の国に入るのは初めてだったので、戦争というと映画や小説のような激戦地を想像していました。しかし、ウクライナは広い国なので、南や東の激戦地と、西の比較的平穏な地域があるんですよね。
首都キーウでも頻繁に空襲警報は鳴りますが、毎日ミサイルが落ちるわけではありません。緊張感はありながらも、ごく普通に生きていかなければいけない。兵士以外の人ももちろん暮らしているので、空襲警報があることに割とみんなが慣れています。
停電も時間帯が分かっているので、「今日は何時から何時が停電だからその時に休もう」とか、もう戦争状態が日常生活に組み込まれていくんですよね。
人間はどんな暮らしにも適応するんだなというのは少し驚きでしたが、男性は徴兵されてしまうので数が少ないのと、仕事を失う方が多いです。例えば大学は授業をやらなくなり、閉鎖されて仕事がなくなったので教授がドライバーとして働いていたり、客室乗務員が失業したりしています。仕事がなくなってしまうという人たちが多くいて、自分でできることを探して働くという形でした。
矢武:犬の保護をしている活動というのは、お給料が発生してるんですか?
山田:してないですね。彼女たちはボランティアで活動しており、寄付を集めて運営しています。私も今回クラウドファンディングで支援を募っています。人々が困窮している状況下では、動物まで手が回らないのが現状です。それでも彼女たちは動物たちを決して見捨てません。
矢武:本編を観ていたら、テクノロジーが発達してるなというイメージがありましたが、実際に日本と比べて違いはありますか?
山田:ウクライナはとにかくITが進んでいるので、映画でもIT企業家の人が出てきますが、とにかくまずみんながスマホに戦争のアプリを入れていて、どこにミサイルが落ちるか瞬時でわかるアプリとかを入れているんですよ。そのIT企業家の人は、ウクライナのどこに何匹野良犬がいるかというのもネット上で把握してるんです。
それは犬たちにマイクロチップやアニマルIDというIDを付けたりしてるので、どこにどれぐらい犬がいて、どれぐらい餌が足りていないかみたいなものを、随時ネット上で確認できるようなソフトウェアを作ってましたね。
今回侵攻があったのは2022年ですが、2014年からロシアからの様々な侵攻とまではいかなくても戦争状態があるので、生き延びるためにそういうテクノロジーは発達しているなと思いました。
矢武:日本ではどうして普及してないんですか。
山田:マイクロチップは、2022年から日本でも特定の条件下で義務化されたと思うんです。ブリーダーやペットショップから新しく犬猫を購入した場合、マイクロチップの装着と登録が義務付けられています。既に飼育している犬猫については、マイクロチップの装着は努力義務となっていると思います。罰則があるわけではないですが入れてくださいと推奨はされてますよね。
日本って野良犬というのは一応存在できないことになっていて、飼い主がいない野良状態の犬はもう保健所に行って殺処分の対象になってしまいます。それを愛護団体や保護主が引き取れば保護犬ということになって、野良犬っていうものは一応日本では法律的にいてはいけないことになっています。
矢武:そうですよね。猫はいますよね。
山田:猫はいます。野良犬がなぜいてはいけないかというと、やはり狂犬病予防法というのがあって、狂犬病が広がることを最も恐れているからです。猫に関しては狂犬病のような心配はないので、野良猫状態というのはとりあえず許されているというか、地域猫みたいな形で生きていく道は一応ありますよね。
矢武:今回、映画のビジュアルを見ると、可愛い犬!という感じのビジュアルのイメージがありますが、実際は見た時に失う必要のない命がたくさん映ってたなと思ったんですよ。ストレートな映像も記録されていましたが、これらの記録された映像を通して監督自身は何を伝えたいですか。
山田:今回、ロシアがウクライナに侵攻して3年戦争が続いています。アメリカとロシアが現在協議を重ねているという状態だと思うのですが、こういう大きな歴史の流れの中には確実に残る話だと思うんです。人がどれぐらい犠牲になり、どこにミサイルが落ちたかというようなことや虐殺があったかというのは、大きな歴史には必ず残っていくことだと思います。
例えば私が取材したキーウ近くの犬のシェルターで犬たちがたくさん亡くなったとか、そういう時でも世界中から助けに来る人たちがいて、救われる犬がいたというような出来事というのは、大きな歴史の中ではかき消されて、なかったことにされていく。忘れられていく戦争中のひとつの出来事に過ぎないということになると思うんですね。
でも自分は犬をとても大切だったなと思っているし、実際にウクライナにもそう考える人もたくさんいるので、せめて私くらいは戦争が起こると動物に何が起こるのかということを伝えていきたいなと思って撮り続けました。
戦場ジャーナリストとか、戦争の厳しさみたいなのものを伝える方はたくさんいらっしゃいますが、動物の被害までなかなか取材が及ばないと思うので、それを私は引き受けようと思いました。
矢武:確かに災害も戦争もですけども、見えない部分はたくさんあるな、というのはすごく感じましたね。本編では万が一に備えて、同行するスタッフの方や賠償を明記した山田監督の遺言書や、防弾ベストを着用して取材に向かう様子も描かれています。そこにも「生命(いのち)」が映っていました。
ドキュメンタリー映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』はシアターキノで3月14日(金)まで絶賛上映中。
本作には、戦争直後の映像や危険な状況に置かれている動物の映像もあるのでご留意ください。