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ダメさ加減も含めて、味になっていけばいい――リアルな夫婦関係を描いた朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』津田健次郎さんインタビュー

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2023年の初演時にも大きな反響を呼んだ朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』が、2025年に再演決定。今回は板谷由夏さんと津田健次郎さんをW主演に迎え、5月23日(金)~25日(日)、渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて上演されます。

原作は、足立紳先生による小説『したいとか、したくないとかの話じゃない』。コロナ禍という状況の中で、浮気相手に捨てられた売れない脚本家の夫と、家事育児の生活から抜け出そうとしている妻、2人の心情や関係性の変化を描いた作品です。妻・大山恭子役の板谷由夏さん、夫・大山孝志役の津田健次郎さんがセックスレスの夫婦を演じます。

この度、今年で声優デビュー30周年を迎える津田健次郎さんにインタビューを実施。作品や役柄の印象をはじめ、津田さん自身がコロナ禍で感じていたこと、活動を続けて来られた原動力などについて語って頂きました。

 

 

【写真】朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』津田健次郎インタビュー

そのダメさ加減も含めて、味になっていけばいい

──今作『したいとか、したくないとかの話じゃない』について、津田さんが原作や台本をご覧になった際のご感想をお聞かせいただけますか?

津田健次郎さん(以下、津田):笑いあり、身につまされる部分あり、感動あり……。コメディとシリアスが程よく混ざり合った作品だと感じました。あと、下ネタって言ってしまっていいのかな……(笑)。若い子が観に来た時にびっくりしちゃうかもしれないので、事前にお伝えしておこうと思うのですが、性事情を含めた夫婦関係の話なので、踏み込んだ表現もあります。でも、とても真面目な内容です。

──津田さんが演じる“大山孝志”という役柄の人物像をお聞かせください。

津田:孝志は、正直で不器用な人間なんだなと思いました。そのダメさ加減も含めて、味になっていけばいいなと思っています。

 

 

──演じるにあたって「こう演じよう」と考えていることはありますか?

津田:生々しさがしっかりと立ち上がるようにしたいなと思っています。あまりキャラクターっぽくならず、人間としてのリアルさを出したいです。ただの“ダメな男”というわけではなく、良い部分も悪い部分もある。それをありのまま出していきたいなと。

──ダメなところもあり、良い所もある、リアルな夫ですよね。津田さんにとって孝志の魅力を感じる部分はありますか?

津田:不純な中に垣間見える純粋性といいますか。そういうところが素敵なところなんじゃないかと思っています。

──孝志のそういった魅力が見える場面など、印象に残っているシーンはありますか?

津田:彼の“純”なところが出てくるのは、ラストのあたりだと思いますね。家庭のシーンなんてほとんど口喧嘩ばかりなんですけど、それがちゃんとドラマとして魅力的に見えたらいいなとも思っています。

──本作は朗読劇ではありますが、実質“二人芝居”というところも大きいですよね。相手役の板谷由夏さんとの掛け合いも重要になってくると思いますが、どういったコミュニケーションを取りながら進めていくイメージでしょうか?

津田:そうですね。そこはこれから詰めていくところではありますが、色々ディスカッションしながら作り上げていけたらいいなと思っています。

 

 

──妻・恭子役を演じる板谷さんの印象をお聞かせください。

津田:すごく“強さ”を感じる女優さんです。でも同時に、とても柔らかい人でもあるなという印象ですね。どちらも持ち合わせていらっしゃる。本当に今回の役にぴったりだと思います。

──老若男女、人によって様々な視点で考えさせられる作品だと思いますが、男性視点で共感する部分はありましたか?

津田:孝志が物事を線引き出来ずにグズグズしているのは、非常に男が抱えそうな部分だなと思っていました。個人的には、「謝るべきところは素直に謝った方がいいな」「謝ってから話し始めればいいのにな」って思ったりもしましたね。

 

 

頭の中でキャラクターが動き始めることが理想

──今回、少人数での芝居という点が作品の魅力でもありますが、逆に難しさを感じる部分があればお聞かせください。

津田:二人芝居で少人数だからこそ、会話が密になるんです。だから、会話が上手く噛み合わなければ何も立ち上がってこないという難しさがありますね。それが二人芝居の会話劇だからこその面白さでもあり、難しい部分でもあると思います。

──津田さんご自身は、こういった二人芝居や少人数の舞台を演じることに、魅力を感じていらっしゃるんでしょうか?

津田:はい、やっぱり演技の密度が濃くなるので、やっていて面白さを感じます。同時に、朗読劇は難しいなと感じることもあって……。僕はもともと舞台出身なので、動いた方が早いなって感じることもあるんです。

朗読劇は、動きが制限されている分、基本的には会話だけで成立させていかなきゃいけない。もちろん、お客様に“観て”いただく作品なんですけど、“聞いて”いただくものでもありますから。お客様の頭の中でキャラクターが動き始めることが理想なので、そこを完成形と思って目指しています。

 

 

──津田さんはこの作品でどんなことを大事にしていきたいと考えていますか?

津田:やっぱり“生っぽさ”ですかね。もちろんエンターテインメントとして届けていこうと思っているのですが、“見せる”ことよりも、その場に存在する夫婦が生々しく会話している部分が立ち上がってくるといいなと思っています。

──そういった“生っぽさ”は、どのようにして生まれるものなんでしょうか。

津田:役作りの段階では色々と分析したり、考えたりする必要はありますけど、全部が計算では生まれないと思います。いざ演技をするときには、「それらをどう上手く手放すか」といったことが大事になってくるんじゃないのかなと。

──今作は“映像ノウハウを取り入れた演出”というのも注目ポイントの一つだと伺っています。津田さんとしては、今作の演出や仕掛けなどで期待されていることはありますか?

津田:今回、主催・企画を手掛けるのが「AOI Pro.」という映像会社なので、元々映像を作っている会社が作る朗読劇がどんなものになるのか、僕も一個人として楽しみにしています。役者としては、演出がどうであれ、いい芝居ができればなと思っています。

──キャラクターについてもお伺いしたいと思います。夫の孝志を演じる津田さんは、妻の恭子という女性に対して、どんな印象を持って演じていらっしゃるのでしょうか。

津田:恭子は力強い女性ですよね。でも、彼女もグズグズしている“ダメな部分”がある女性だとは思うんです。特に序盤の方は意見も言えていないですし……。ただ、立ち位置が決まれば、はっきりものが言えるタイプだと思うので、すごく魅力的な女性だと感じています。

夫との関係を修復しようと、最後の最後まで努力してくれる部分は懐が深いと感じますね。最後まで粘り強く頑張ってくれるところは、孝志も魅力を感じているんじゃないかと思います。

──そんな夫婦の口喧嘩が作品にはたくさん登場しますよね。

津田:そうですね。今回の脚本で描かれているコメディ部分が、口喧嘩の中から出てくるんじゃないかと感じています。「それ言っちゃだめじゃん」みたいなことを勢いに任せて言っちゃう。思ってもいないことを、売り言葉に買い言葉で言ってしまったりだとか。そういう部分に、観ている皆さんもきっと共感できるんじゃないかと思います。そこが作品の面白さの大きな要素のひとつなんじゃないかなと思いますね。

 

 

──脚本の足立さんや演出の新井さんとは、オファーの際など何かお話をされたりしましたか?

津田:いえ、お会いはしたのですが、作品や役どころについての本格的な話はまだこれからですね。ただ、足立さんの作品は以前から拝見していたので、ご一緒できることが楽しみです。

──足立さんの作品の中で印象に残っているものはありますか?

津田:映画『喜劇 愛妻物語』などですかね。今回の朗読劇に近いような、夫婦の“ダメな感じ”が描かれていて、でもどこか味わい深い。ラストにちょっとよくわからない感動があるんですよね。なんとも形容しがたい感情が残る作品で……。

あんまり夫婦の口喧嘩だけで魅せていく映画は少ないと思うので、珍しいタイプの映画ですよね。それ自体がエンターテイメントになっているところがとても印象的でした。

──ちなみに、『喜劇 愛妻物語』をご覧になったきっかけは?

津田:プロデューサーのオススメで(笑)。それが、今回の出演で実った形ですね。

 

無力なりに、丁寧に一個一個きちんと作っていけば、もしかしたら何かを生み出せるかもしれない

──今回の朗読劇は、コロナ禍が背景にあります。津田さんご自身も、このコロナ禍を経て変化を感じた部分や、価値観が変わったことなどありましたか?

津田:価値観はそんなに変わっていなくて、むしろ再認識することが多かったですかね。エンターテインメントやアートって、現実的な意味では生命維持に直結するものではないということを改めて認識しました。エンタメは、生きるために必須のものではない。だから決しておごるべきではない。

それでも、人間はご飯だけでは生きていけない。そこを埋めるために、何かほんの少しでも出来ることはあるんだよなと思いました。僕たちは“力がある側”じゃないという前提に立ったうえで、出来ることを考えることが大事だと感じています。

──ご自身の活動を“おごらず、のぼせず”という姿勢で続けていらっしゃるんですね。

津田:そうですね。コロナ禍だけでなく、大災害のときにも同じことを感じました。たとえば東日本大震災の時、自分が無力だと思ったことは、今でも強く覚えています。僕はほぼ無力ですけど、無力なりに、丁寧に一個一個きちんと作っていけば、もしかしたら何かを生み出せるかもしれない。そのために全力を尽くそうということは、昔からずっと思ってきたことです。おごりたかぶることなく、謙虚にやっていきたいなと思いますね。

 

 

──やはり、津田さんにとってもコロナ禍は辛い時期だったのでしょうか。

津田:いや、楽しいこともいっぱいあったんですよね。割とのんびり過ごしていたので(笑)。もちろん大変な思いをされている方もたくさんいらっしゃいましたし、人の生死に関わることでもあったので、それに関してはしんどいなとも思っていましたけど。でも、それだけじゃない。コロナ禍だからこそ、見えてくるものもあったんじゃないかという気はします。

それが今、元に戻りつつあるのも、複雑な気持ちではありますよね。「リモートって効率的だな」とか、「満員電車じゃないとこんなに楽なんだ」とか、コロナ禍で再発見したものがあったと思うんですけど、それがまた以前のように戻ってきている気がして……。ああいった環境じゃないと見えなかったこともたくさんあって、それは決してネガティブなものだけじゃなかったと思うんです。

──コロナ禍なども経験しながら、津田さんは今年でデビュー30周年を迎え、声優や俳優など多岐に渡ってご活動されています。長く活動を続ける上で、どんなことが原動力になっているのでしょうか?

津田:僕もこんなに続けられるとは思っていなかったので、本当にありがたいなと思っています。まあ、人生ってそんなに長くはないですよね。どれだけ長生きしたって100年以上生きられる人も中々いないですし。でも、いつか死ぬなら、「今日をどう生きるか」って意識することが大事だと思っていて。

エンタメなどに関わっていく身としては、「今日、どういう芝居をするか」「どういう作品を作るか」という意識でいます。こういった考え方が、一番パワーになっているかもしれませんね。

──表現者としての理想像はありますか?

津田:ありますけど、恥ずかしいから言わない(笑)。簡単に言えば、いい芝居が出来るようになりたいなって思っています。「いい芝居が一体何なのか」っていう定義は人それぞれだとは思うんですけど、僕にとっての“いい芝居”という意味で。これからは“作る側”としても、“いい作品”を作っていきたいなと思っています。

──“いい芝居”というのは、とても大きなテーマですよね。その定義というのはご自身の中で変化されてきましたか?

津田:そうですね。芝居を始めた当初はわかっていない部分も多かったですけど、「これが“いい芝居”なんだろうな」と目指していた理想は、最初から大きく変わっていない気がします。その理想が、経験とともに輪郭がくっきりしてきているという感覚です。だから、あまり成長してないのかもしれない(笑)。根本が変わっていないんです。

──ありがとうございます。では最後に、本作の上演を楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いいたします。

津田:朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』は、ダメダメで不器用な夫婦のとても生々しい会話劇です。コメディもあり、感動もあり、身につまされるシーンもたくさんあります。ご覧になった方の中で、色々考えて頂けるような、何か景色が変わるような、そんな作品になればいいなと思っています。

若い方にも、年齢を重ねた方にも、性別問わず楽しんでいただける作品です。ただ、性的な表現は入っています(笑)。いい作品にできるように頑張りますので、ぜひ劇場まで足を運んでください。よろしくお願いいたします。

──本日は貴重なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

 
[インタビュー・写真/MoA 文/柴田夕日 ヘアメイク/塩田勝樹(Sui) スタイリスト/藤長祥平]

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