【城定秀夫監督「悪い夏」】 一番常軌を逸しているのは誰だ
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は静岡市葵区の静岡シネ・ギャラリーほかで上映の城定秀夫監督「悪い夏」を題材に。染井為人さんの「悪い夏」(2017年、角川文庫)を「嗤う蟲」などの城定監督が映画化。
ゴミ袋が床を埋め尽くす古いアパートで暮らす生活保護受給者の山田(竹原ピストル)。真夏だというのにネクタイと長袖ワイシャツ姿の佐々木(北村匠海)は市役所生活福祉課の職員。赤いスポーツカーのエグゾーストノートを響かせて自分が経営する風俗店を巡る金本(窪田正孝)は裏社会とつながりがありそう。
雨の中、その車がはねた水でびしょぬれになるシングルマザーの佳澄(木南晴夏)は、夫に先立たれて生活に困窮し、常習的に万引を重ねる。同じシングルマザーの愛美(河合優実)は、佐々木の先輩職員・高野(毎熊克哉)に肉体関係を強要されている。
登場人物がそれぞれの社会階層を代表する存在として描かれる。ある者は下克上の糸口をつかみ、ある者は別層の人物と気脈を通じる。打算の付き合いと弱みの握り合いがスリリングだが、いっとき「真心」がほの見えて、見ているこちらが戸惑う。果たして地獄の一丁目なのか、蜘蛛の糸なのか…。
キャッチコピーにある「クズとワルしか出てこない!」というのは事実だ。「この中で一番常軌を逸しているのは誰だ」という視点で鑑賞するといい。物語が進むにつれて、その印象がコロコロと変わる。そこが本作の巧みなところである。
人によって見え方はそれぞれだろうが、ラストシーンに「救い」があるのもいい。
(は)
<DATA>※県内の上映館。3月31日時点
シネマサンシャイン沼津(沼津市)
MOVIX清水 (静岡市清水区)
静岡シネ・ギャラリー(静岡市葵区)
シネマイーラ(浜松市中央区、5月9日~)