頑張らないのに文句ばかりの娘にうんざり。どうしたら子育て楽しめますか問題
ずっとベンチの娘。試合でもほとんどパスが回ってこないし、本気で走ればいいのに、いつも遅いしボールに追いつくのを諦める。親が助言しても「無理!」と突っぱねる。
娘のスポ少に振り回されてるのに、そんな態度にうんざり。どうしたら子どものサッカーを楽しめるの? というお母さんからの悩み。
今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとにアドバイスを送ります。
(文:島沢優子)
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
<<5年生より弱い6年生。6年だけで戦うか、実力主義でいくのか迷います問題
<サッカーママからの相談>
娘はスポ少に所属してますが、ずっとベンチでした。
6年生になりそれなりには出してもらえるようになりましたが、試合でもほとんどパスが来ずボールタッチの回数が下の学年の子よりも少ないです。
自分でもそれは分かっている上ですねたり、「無理! 頑張ってる!」と私たちの助言を突っぱねます。
本気で走ればもっと速く走れるのに、何だかいつも遅い、諦める、ボールを待つの繰り返しです。
下の兄弟も振り回され、文句ばかり言う娘にうんざりした父母(私たち)が怒るという流れが毎回です。
どうしたら親も子も楽しめるか知りたいです。
<島沢さんからの回答>
ご相談いただき、ありがとうございます。
試合に出られないわが子に対し、親御さんが意欲が足らないと怒ってしまう。これは少年サッカーあるあるのひとつ。どの競技にもよく聞かれます。
そして、それは私が少年スポーツにかかわり始めて20年弱になりますが、普遍的な問題のようです。
■わが子が頑張っているように見えないとイライラしてしまうのはよくあること
以前も「息子が自主練をしない、積極的にボールにかかわらない、スクールで友達とおしゃべりをする、ドリブル練習を最後までやらず諦めてしまう」という悩みが舞い込みました。
私も皆さんと同じように子育てをしてきたので、目の前のわが子の立ち振る舞いにイライラしてしまう気持ちはよくわかります。
私の息子もサッカーをしていましたが、走れない子でした。他の選手が一生懸命走っているのに、ひとり下を向いたまま歩く姿にこちらはあきれ果てていました。
一緒にビデオで観ながら「なんで地面見てるの? ボール見なきゃダメじゃん」と怒っていました。
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■走らないのではなく「走れない」のかもしれない
ところが数年前のことです。高校から部活動のエンジョイサッカーに転換し成人した息子が「俺、小学生のころ、なんであんなに走れなかったのか、わかったよ」と言ってきました。
アメリカ大陸でも発見したかのように目を輝かせています。息子はフォワードでした。私は「きついのが嫌だったんじゃないの?」と冷たく言い放ちましたが、違っていました。
「動き方がわからなかったんだ」
サッカーの成り立ちがわからなかった。コーチは走れ、走れと怒るけれど、どこをどう走ればいいかわからなかった。高校くらいから少しずつ分かり始めたけれど、成人して海外のサッカーをたくさん見るようになって、よりサッカーの戦術眼が磨かれたそうです。
よって、現在草サッカーを楽しんでいますが「小中学生のころよりも、いま走れるんだよ」と嬉しそうに言うのです。
そこではたと気づきました。息子は少々こだわりの強い子でした。人と同じようにすることをよしとしない。自分が論理的に納得がいかなければ腰が上がらないところがありました。根性論好きの大人が好む「がむしゃら」というやつが苦手でした。
ああ、走らなかったのではなく、走れなかったのだ。私はそうやって怒ったことをとても後悔しました。子育て自体は、親がガミガミ言ったとて子どもが変わることはあり得ないことを、脳科学や心理学を学んで理解していました。
サッカーで走れないことも、息子自身の問題だとうすうすは悟っていましたがネチネチ言ったと思います。
■自分と他者の「課題の分離」をすること
そこで、アドバイスをひとつ。
オーストリアのアルフレッド・アドラーが提唱し、後継者たちが発展させてきた心理学の体系である「アドラー心理学」をご存知でしょうか。
そのなかに「課題の分離」という概念があります。
アドラー心理学の中心的な考え方のひとつでもあるこの「課題の分離」は、自分の課題と他者の課題を明確に区別したほうがいいよ、という考え方です。
自分の課題については真摯に向き合い責任を持ちますが、他者の課題には立ち入らないようにする。 他者の課題に不必要に介入することは、相手への支配や依存につながる危険性があるためです。
ところが、親子や夫婦、はたまた上司と部下のように、関係性が近ければ近いほど分離できません。
■お母さんの主観と娘さんの課題を分ける
このことを娘さんに当てはめてみると「試合でほとんどパスが来ずボールタッチの回数が下の学年の子よりも少ない」のは娘さんの問題です。
お母さんが「本気で走ればもっと速く走れる」というのはお母さんの主観であり、「何だかいつも遅い、諦める、ボールを待つの繰り返し」であることも娘さんの課題です。
もっといえば、娘さんがそれを課題であると考えるかどうかも娘さんの問題であり、お母さんの課題ではありません。
それらは本人にしかコントロールできませんし、その結果試合に出られなかったり、上達できなかったとしても、それも含めて子どもの体験です。
■子どもは親と別人格、自分の力で力強く歩めるようにすることを考えよう
子どもは親の思うようにすることなどできません。自分とは別人格であり、親たちとは異なる時代を自分の力で力強く歩めるようにするにはどうしたらいいか考えましょう。
それは、親が子どものためにできることをしてあげるだけでいいのです。経済的に許す限り必要なものを与える。毎日おいしい食事を作る。汚れたユニフォームを洗ってあげる。サッカーのお当番をやる。
加えて子どもの心理的安全を確保できるよう、夫婦間の人間関係をなるべく良好に保つ(けんかばかりしていると子どもが安心できません)。そして、それらをエンジョイする。それで十分です。
二度と戻らない子育ての黄金期を、娘さんのダメなところばかりを数えて暮らしますか?
お母さんがおっしゃっているように、楽しく子育てしたいのであれば、お母さんたち親が変わるしかありません。
■「頑張らない子」を育てているのは誰?
(写真は少年サッカーのイメージ ご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)
以前、都内のサッカースクールで指導していた30代のコーチが私にこう言いました。
「親が子どもに『なんで頑張らないの!?』と怒っています。でも、そういう子どもを育てているのは誰なんですか? って僕は思う。天に唾(つば)してるわけですよね」
顔に唾が落ちてきませんか? 本気で走っているかは本人しかわからないことです。じりじりしますが結果も含めて達観して待ちましょう。
待つ時間は、わかり合う時間です。娘さんのサッカーからまずは距離を置くこと。それって誰の課題だっけ? と常に考えること。
「課題の分離」をぜひ実践してください。
島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実 そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産 彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキル ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。