介護職で新人教育担当に!新人職員、Z世代、年上の部下への声かけの例やポイントを紹介します!
本日のお悩み:4月から新人教育、声かけやモチベーション維持のポイントを教えてください!
4月から新しい職員さんが入職してきます。今年で5年目になるため新人教育担当を任されました。
最近は、Z世代とのかかわり方なども話題になっていると思うので、さまざまな場面に対応できるようになりたいと思っています。未経験の介護職の方を指導する際の声かけのポイントやモチベーションの維持方法などを教えていただきたいです。
準備8割、モチベーション2割の法則をおさえて新人教育を行いましょう!
執筆者/専門家
伊藤 浩一
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14
ご質問ありがとうございます。
新年度から新人教育担当を任されたとのこと、すばらしいです。きっと質問者さんの介護職としての専門的スキルはもちろん、仕事に対する熱意や責任感などが評価されたのだと推測します。
さて、ここから未経験の新人介護職さんを育てていく上でのポイントを、「準備8割、モチベーション2割の法則」を用いてお答えしていこうと思います。
準備8割=「対象者の分析」
自分が新人職員だったときのことを思い出してみましょう!
質問者さんは5年目になるとのことでしたが、入職時の記憶を遡ってみましょう。自分が新人のときどのような気持ちだったでしょうか。おそらく不安でいっぱいだったのではないでしょうか。
また、なぜ不安だったのでしょうか?「仕事を覚えられるのだろうか?」「もし覚えられなかったら恥をかいてしまうのではないか?」「人間関係は上手くいくだろうか?」などが思い出されませんか。
新人研修に限らず、講義や説明をする際のよくある失敗があります。それは、対象者を一切無視して自分の伝えたいことばかりを伝えてしまう事例です。
相手を知らないままの教育や説明は逆効果
東京大学出身の大学教授のお母様が、訪問介護サービスを受けるようになったそうです。そこでケアマネジャーから介護の方針やサービスについての説明を聞いたのですが、全くわからなかったとのことでした。
ケアマネジャーは、大学教授ならわかるだろうと説明をしたのでしょうが、大学教授からすれば、介護保険制度については全く未知の分野、聞いたこともない専門用語がたくさんでてきて全くわからなかったそうです。
この事例から読み解けるのは、自分が伝えたいことを相手に理解してもらうためには、「準備」=「対象者の分析」が重要だということです。
では、ケアマネジャーは、どうすればよかったのでしょうか?
例えば、事前に大学教授である息子さんに「介護保険制度についてどのくらい知識があるのか」を確認することはできましたよね。そのうえで全く知識がなさそうであれば、基本的なことから丁寧に説明すれば上手くいったかもしれません。
新人教育の対象について分析をしましょう
では、「準備」=「対象者分析」について、視点を新人教育に戻し深掘りしていきましょう。
「未経験の新人職員」を分析する
未経験の新人職員さんとなると、どのような人物像が想定できますでしょうか。未経験ですので介護のことはわからないのが前提ですね。そのため基本から介護について丁寧に説明することが求められるでしょう。そして、冒頭でお伝えしたように不安でいっぱいな気持ちに寄り添うことも大切です。
また、未経験でも介護職員初任者研修は受講しているかもしれません。その場合、よくある失敗談は、初任者研修を修了しているならばこのくらいわかるだろうという思い込みが先行し、説明を省略してしまうことです。初任者研修を受講していても、「もしかしたらわからないかもしれない」と捉え確認しながら進めることが大切です。
これを怠ると現場に出てから、以下のような場面が生じるリスクがあります。
<指導者>「なんでこんなこともわからないの!」
<新人職員>「ちゃんと教えてもらってない!」
このようなすれ違いを避けるためにも相手の立場に立ち、分析することは大切です。
Z世代を分析する
また、新人職員さんを一概に「新人」とだけまとめてしまうと、個々の特性に寄り添うことができなくなってしまいます。
性格にも個人差はありますが、ここからは近年話題となっている「Z世代」と介護職に多い「年上の部下」について分析してみましょう。
●Z世代とは?
Z世代とは、1990年代後半から2010年代前半に生まれた世代で、幼い頃からスマートフォンやSNSに親しんできた「デジタルネイティブ」です。多様性を自然に受け入れる価値観を持ち、タイパ(タイムパフォーマンス)と言われる効率や合理性を重視する傾向もあります。
私は、介護福祉士養成校で教壇に立っていますが、この世代の教育で気をつけていことは、能動的な教育(アクティブラーニング)を行うことです。例えば、認知症の中核症状について教える際、記憶障害、判断力の低下等々、言葉を教えてしまうことは簡単ですが、それでは頭に入っていきません。
そのため、スマホを活用しても良いので「自分で調べる」という行動を引き出します。そして、答えがでてきた後「なぜそれが答えなのか?」という理由を考えてもらいます。これにより、認知症がどういう疾病なのか?脳のメカニズムはどういう状況なのか?という知識をより深く能動的に学ぶことができます。
ー○○ハラスメントにも要注意!
一方で、この世代はハラスメント(嫌がらせ)という言葉にも敏感です。なぜなら、多様性や個人の価値観を大切にする教育を受けてきているからです。
そのため従来から問題視されている、パワハラ、セクハラはもちろんですが、ジェンダーハラスメントのような発言(男なんだから、女なんだからという性別に関する決めつけ)やプライバシーを軽視する発言(彼氏彼女はいるの?など関係性ができていないのに過度に私生活へ踏み込む)には気をつけましょう。
●【具体例あり】Z世代に指導する際の声かけ例
いわゆるZ世代の新人職員に教育や指導を行う際は、以下のことに配慮するようにしましょう。
1.自分で考えることができるようオープンクエスチョンを用いる
2.ハラスメント(強要すること)に考慮する
ー1.自分で考えることができるようオープンクエスチョンを用いる
オープンクエスチョンを用いた声かけの具体例は以下の通りです。
「これについてどう思いますか?」
「どうしてそう考えたのですか?」
このように、なぜ、どうしてなどといった5W1Hを用いて声をかけると、自分で考えたうえで学びを得ることができるでしょう。
ー2.ハラスメント(強要すること)に考慮する
また、先述したようにハラスメントや上司からの強要と受け止めてしまう発言は控える必要があります。とはいえ、教育や指導は行う必要があるので、相手に寄り添った声かけをするようにしましょう。
「無理に話さなくて大丈夫だよ」
「みんな違って当たり前だから、私も入職時は不安でいっぱいだったよ」
年上の部下を分析する
新人職員は年下の方だけでなく、自分より年上の方がいらっしゃる場合もあります。特に、介護業界では、介護助手の増員を国が後押ししていることもあり、ある程度社会経験を踏んだシニアが介護業界で働くことも珍しくありません。
私はこのような社会経験がある方たちが、介護業界で働いてくださることは大歓迎です。なぜなら介護は、人生の大先輩である高齢者の方やさまざまな境遇で生活している障害のある皆様を支える業界であるからです。介護を行うにあたって重要なことは、「対象者を理解すること」、「思いや考えを受容すること」であるため、人生経験の中で得た懐の広さが大きな強みとなります。
ー「人生の先輩」であるという認識をもって新人教育をしましょう
しかし、教える側とすれば、自分より年上の方に教えるとなると萎縮してしまう気持ちも非常にわかります。私が、年上の部下に指導する際に気をつけていることは、「相手を立てる」ことです。
質問者さんが年上の方に教えることに対し萎縮してしまう一方で、年上の教わる側も「年下から教わるなんて…」という気持ちが少なからずあると思います。そのため、年上の方が年下から教わるという後ろめたさを緩和するには、まず年上であること=人生の先輩であることに対し尊敬の念を持って接することが大切です。年上の方も、「ちゃんと敬って接してくれているんだな」と感じると、スッと聞く姿勢ができるでしょう。
●年上の部下に指導する際の声かけ例
年上の部下に教育や指導を行う際に気をつけることは、先述した通り、人生の先輩であることをリスペクトすることです。年上であるからといって誤った介護を行ったり、仕事を覚えようとしなかったりするのは絶対に許されません。
しかし、相手も年下から教わることに抵抗をもったり、威圧的な態度の場合は反抗心を抱いたりしてしまいます。そのため、尊敬していることが伝わる声かけを行いつつ、教育や指導をしていきましょう。以下で、声かけの具体例を紹介します。
「〇〇さんのように社会経験が豊富な方と一緒に働けるのは心強いです」
「私もまだまだ学ばせていただくことが多いです」
「馬の耳に念仏」の教育にならないよう準備をしていきましょう!
ここまでで、新人教育のポイントの1つ目は、教える前の準備=対象者分析が重要であるとおわかりいただけましたでしょうか。
この準備を怠ると、教育や指導における声かけは、「馬の耳に念仏」です。逆に準備をしっかり行うことができていれば、効率的かつ効果的な研修となるでしょう。すなわち、準備8割が重要なのです。
モチベーション2割=「自立するタイミングを見極める」
次に新人教育における新人職員のモチベーション維持について考えていきましょう。
【経験談あり】モチベーションを維持することができなかった失敗談
ー丁寧に教育をしようと綿密に立てた新人育成計画
これは私の失敗談があります。
「新人職員さんはわからないことだらけだし、不安が多いだろうから、研修期間を半年ほどとって慎重に教育しよう」と思い、介護福祉士養成校の卒業者である新人職員さんに対して、綿密に新人育成計画を作成し、研修を実行したことがあります。しかし、結果は、まさかの退職となってしまいました。
ー社会で認められる人材になりたかった…
では、なぜ退職を選んだのでしょうか。
理由は、一人前として認めてもらえないからでした。新人教育が始まった1ヶ月は「丁寧に教えていただいてこの職場で良かったです!」なんて言っていたのが、2ヶ月、3ヶ月経過すると次第に顔が曇っていきました。教えている側としては「なぜ?こんなに丁寧に対応しているのに…」と戸惑いしかありません。
しかし、私は気づけなかったのです。なんのために新人職員は入職したのか?それは、社会に必要とされる人材になりたかったからなのです。
そして新人教育は何を目標としているのか? それは、社会に必要とされる人材に育成することです。社会に必要とされる=労働の対価としてお給料をいただけるということですよね。
この事例は、教えられる期間が長すぎて、自分が社会の役に立っていると思えなくさせてしまった失敗事例です。
失敗を認め、サポートすることも新人教育
モチベーションの類義語を辞書で調べると「目的意識」と出てきます。つまりモチベーション維持とは「目的意識」を継続し続けること。
もちろん早すぎる自立は、無責任な放置となってしまいますが、過保護にすることで「目的意識」を低下させてしまいます。「なんでこの仕事に就いたんだっけ」と思わせないよう、トライアンドエラーを認める寛容さをもち、適切なタイミングで独り立ちさせることがモチベーション維持の肝になるでしょう。すなわち、モチベーション維持が、残りの2割を補う重要な教育要素なのです。
最後に:双方向型の新人教育をおこないましょう!
未経験者の新人教育について、「準備8割、モチベーション2割の法則」を用いて解説させていただきました。お恥ずかしながらこの法則は私の失敗経験から導き出されたものです。もちろん、人は千差万別、この法則に当てはまらない人もいるでしょう。
しかし、この法則の柱は教える側の一方通行にならないということです。
私も新人教育では試行錯誤の日々が続いています。試行錯誤をしつつ、よりよい新人教育を行っていきましょう!
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