Yahoo! JAPAN

きょうだい児や子どもを亡くした遺族にもケア 「こどもホスピス」の家族への寄り添い方とは

コクリコ

重い病や障害とともに生きる子どもとその家族を支える「こどもホスピス」ルポ第4回。コミュニティ型こどもホスピス「うみとそらのおうち」(横浜市金沢区)で行われている、きょうだい児のケアと子どもを見送った遺族へのグリーフケアについて。全5回

【写真➡】第4回こどもホスピスの“きょうだい児”や遺族のケアを見る

横浜市にあるこどもホスピス「うみとそらのおうち」(略称うみそら)では、重い病や障害と共に生きる子どもたちと家族がリラックスして過ごせるために、日々スタッフが汗をかいています。同時に、闘病中の子どものきょうだいたちや、闘病のすえ子どもの旅立ちを見送った遺族たちの「悲嘆」に寄り添うための取り組みも、2021年の開設当初から続いています。

きょうだい児だけのキャンプを開催

昨年(2024)7月、北海道の支笏(しこつ)湖に、大阪府や愛知県、神奈川県からやってきた子どもたち13人が集まり、3泊4日のキャンプ生活を楽しみました。支笏湖でカヌーに挑戦したり、思いきり水遊びをしたり、森を探検したり、夜には焚き火を囲んでおしゃべりしたり……。

子どもたちには共通点がありました。厳しい病と闘っているきょうだいがいることです。闘病する子どもたちの総称「病児」に対し、こうした子どもたちは「きょうだい児」と呼ばれます。

そしてこのキャンプは、「うみとそらのおうち」(略称うみそら)を中心に、大阪や愛知、北海道の各地のこどもホスピスプロジェクトが共同で、各団体がサポートを続けるきょうだい児たちのために開いたものです。

この「きょうだい児キャンプ」を中心となって進めたのは、うみそらスタッフの本多貴子さんです。本多さんは、うみそらの利用者を支える中で、「きょうだい児ケア」の必要性を感じてきたといいます。

「重い病気のきょうだいがいるとか、亡くなったきょうだいがいるといったきょうだい児さんの経験は、学校とかで話せないものです。同じ境遇の子どもたちと出会うことで、『自分だけじゃない』と思える機会があるといいなと思いました」

重い病の子どもがいる家庭では、必然的に親が病児の看病にかかりきりになり、結果的にきょうだい児が親と過ごす時間は割愛されがちです。

きょうだい児自身、闘病中のきょうだいを「大変なのだから」と気遣い、親に甘えたい気持ちを押し殺したり、家族で過ごしていても、何かと遠慮しがちな傾向があります。

本多さんや各地のプロジェクトのスタッフは、各自で「きょうだい児ケア」に取り組みつつ、当事者同士でつながれる場を提供しようと、支笏湖でのキャンプを企画しました。

初日には、スタッフから子どもたちに、こんな説明をしました。

「ここにいるのは、同じようにきょうだいが重い病気と闘っている友達です。仲間を大切にしながら、いろんなことに挑戦して楽しい時間を一緒に作りましょう」

子どもたちはほぼ全員、一緒に過ごすのが初めてのため、最初は少しぎこちないけれど、例えば森を散策中、こんな会話が交わされました。

「どこの病院?」
「◯◯病院」
「うちと同じだ。すれ違ってたかもしれないね」
「マジで?」

さりげない会話から、同じ境遇にある子どもの間で心の対話が始まりました。こんなとき、大人が子ども同士の会話に介入することはありません。本多さんはこう話します。

「大人たちも活動を共に楽しみながら、子どもの心が自然にほぐれるのを待ち、寄り添いました。きょうだい児たちがとにかく自由に、安心して、自分の思いを共有できる仲間と過ごしてもらうことを最優先に考えました」

日ごろ家族を気遣い、とかく自分の「行きたい」「やってみたい」を我慢して生きるきょうだい児が、その境遇にいるのは「自分だけじゃない」と実感し、誰にも遠慮せずに自分らしく過ごしてもらおう──。それがキャンプの目的でした。

「きょうだい児キャンプ」で、きょうだい児たちは北海道の森の中を歩き、湖で思いきり水遊びを楽しんだ。  写真提供:うみとそらのおうち

きょうだい児は優しい

本多さんは、4日間で「改めて気づいたことがある」といいます。

それはきょうだい児たちの「優しさ」です。一人でいる子どもがいると、必ず誰かが声をかけたり、そっと隣に座ったりするので、誰も独りぼっちの状態ではなくなるのです。

「大人が『あの子、独りぼっちだな』と気づいて声をかける前に、きょうだい児の誰かが気づいて、独りでいる子に寄り添っているのです。その寂しさを誰よりも知っているから、優しくできる。きっと無意識なんだと思います」

本多さんは、うみそらの開設当初から、利用家族を対象に「きょうだい児イベント」を続けてきました。うみそらを利用する病児のきょうだいみんなで最寄りの動物園に行ったり、海水浴を楽しんだり。そしてやはりここでも、子どもの力を信じて、大人はコミュニケーションに介入せず、その場に寄り添い続けます。

本多さんは、看護師として修練を積みながらアウトドアガイドの資格を取り、実地経験を重ねて「キャンプナース」のノウハウを学んできました。経験上、子どもたちは自然の中で自由な時間を共に過ごすことで、感覚的に十分、分かりあえることを、実感してきたといいます。

「あなたはあなたのままでいいというメッセージを、大人が行動で伝えられたら、きょうだい児たちも、ここでは自分らしくいていいんだとリラックスできる。そういう場所を、一つでも多く提供したいと思います」

遺族当事者が中心でグリーフケア

家族との死別など、人生の中で起きる喪失から引き起こされる「悲嘆(グリーフ)」に苦しむ人たちに寄り添い、支えることを「グリーフケア」と呼びます。うみそらでも、子どもが亡くなった遺族のグリーフケアにも取り組んでいます。

中心となってグリーフケアの活動を続けるのは、2013年に次男の航平くんを小児脳幹部グリオーマで亡くした杉山真紀さんです。杉山さんは自身の経験から、遺族同士がゆるやかにつながれる場になるようにと、年に数回、うみそらで「グリーフカフェ」を開催しています。

「我が子を亡くし、悲嘆に苦しむ親たちは、複雑な思いを誰にも言えず、心の居場所を失ってしまいます。せめて当事者同士でつながることで、少しでも安らぎを感じてもらえたら」と杉山さんは話します。

グリーフカフェでは、お茶会や工作ワークショップ、クリスマスコンサートなどを通じて、子を亡くした親同士が時間を共有してきました。本多さんの「きょうだい児ケア」同様、杉山さんも、会合にはイベントの要素を取り入れつつ、細部は参加者間のコミュニケーションに預けるようにしてきました。

杉山真紀さんと、次男の航平くん。杉山さん夫婦は航平くんの名には「穏やかな子に育つように」との思いを込めた。「本当にそのとおりの、穏やかな子どもに育ちました」(杉山さん)  写真提供:杉山真紀さん

しかしうみそらが3周年を迎え、グリーフカフェの運用を再考する必要が出てきました。

これまでは、うみそらの利用実績に関係なく、子を亡くした遺族を「カフェ」の参加対象としてきましたが、うみそらの年間利用者数(のべ人数)が1000人近くなり、利用後に子どもが亡くなるケースが増えました。

そのため施設利用時から続く「一連のケア」として、グリーフケアを位置付ける必要がある、という議論が、スタッフ間で始まりました。

杉山さんは、揺れる思いを語ります。

「利用者が増えるごとに、利用者家族へのさまざまなケアが必要になるものですね。一方で、施設見学に来て、『我が子を亡くしました』とお話される方や、ボランティア登録者の中に『子どもを亡くしたので何かやりたい』という方もいます。

これまで同様、そういう方々にも『こんな会がありますよ』とお声がけできる場でありたいと思うんです」

2024年12月、「うみとそらのおうち」で開かれた「グリーフカフェ」のクリスマスイベント。ボランティアの演奏家たちが、子どもたちの思い出の楽曲をかなで在りし日をしのんだ。  写真提供:うみとそらのおうち

4年目に入ったうみそらでは、グリーフケアの運用だけではなく、利用者家族を多面的にサポートする体制など、さまざまな変化が求められています。1月末のスタッフミーティングでは、こんな会話が交わされたそうです。

「利用者が100人いたら、こちらの支えかたも100通りになるよねって。個々のご家族のニーズに応じて『こうしたらいいのかな』と考え続け、柔軟に対応していこう、それが医療機関とは違う自分たちの強みだね、という話をしました」

杉山さんが取り組むうみそらのグリーフケアも、ニーズに応じて変化していくのでしょう。

取材・文/浜田奈美

フリーライター浜田奈美が、こどもホスピス「うみとそらのおうち」での物語を描いたノンフィクション。高橋源一郎氏推薦。『最後の花火 横浜こどもホスピス「うみそら」物語』(朝日新聞出版)

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. アレク、妻・川崎希についてママ友から言われたこと「気づいてたみたい」

    Ameba News
  2. 市川團十郎、嶋﨑斗亜ら出演のJAPAN THEATER『SEIMEI』 楽曲を担当したSUGIZOの特別出演が決定

    SPICE
  3. 兵庫県内各地で『スギ花粉』シーズンに入りそう。県が飛散状況を発表してる

    神戸ジャーナル
  4. 「お父さんが描いたハチワレ」の渋すぎるセリフ 「人生の重みを感じる」

    おたくま経済新聞
  5. 私がiPhoneに見切りをつけて「2つ折りのAndroid端末」に移行した、これだけの理由

    ロケットニュース24
  6. 美容室チェーン「アルテジェネシス」が理容事業に参入。関西で創業77年のグランド理美容株式会社の理容部門を事業譲受

    Dig-it[ディグ・イット]
  7. 『アニメ「鬼滅の刃」 柱展 ―そして無限城へ―』総来場者数が20万人を記録 福岡会場での開催が決定

    SPICE
  8. 【午後3時の新商品】春を味わう純米酒「たからやま純米生貯蔵~春の陽に~」蔵出し開始|宝山酒造

    にいがた経済新聞
  9. 独特の美しさに魅了されるレンゴー尼崎工場の「工場夜景」を撮影してきました! 尼崎市

    Kiss PRESS
  10. 管理釣り場の基本テクニックをセンドウタカシが解説

    つり人オンライン