【視覚障害者の投票】静岡県内の衆院選投票で選管が点字器用意できず…。「自力で記入したい」と切実な思い。もっと配慮が必要だ
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「視覚障害者の投票」。先生役は静岡新聞の川内十郎論説委員です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年11月5日放送)
(川内)今回は、衆院選の投票で、視覚障害者への不適切な対応が県内であった話です。
(山田)どのような不適切な対応があったのでしょうか。
(川内)三島市の期日前投票で視覚障害者の男性が公職選挙法で認められた「点字投票」ができなかったんです。市の選挙管理委員会が、点字を記入するための「点字器」をその場に用意できなかったためで、男性はやむなく会場の係員に記入してもらう「代理投票」で票を投じました。
選管は会場の商業施設に点字器を持っていきましたが、管理が徹底していなかったためすぐには見つからず、男性に代理投票を提案し、男性は仕方なく受け入れたとのことです。点字器は男性の投票後に見つかりました。
(山田)点字器というのがあるんですね。普通は投票所に備えてあるんですか。
(川内)点字器は持参したものを使うこともできますが、投票所に用意することは総務省がまとめた障害者の投票への対応例にも記されています。この出来事を知って取材を進め、静岡新聞のストレート記事や「時論」でも書かせてもらいましたが、点字投票を望む人の存在をどこまで現実的に意識し、準備に当たったのだろうかという気がします。
「自力で記入したい」
(山田)当然あるだろうと思ったものが無かったということですね。
(川内)「自力で記入したい」というのは視覚障害者たちの切実な思いです。社会に参加している手応えにもかかわります。その重さを認識し、しっかり後押ししなくてはなりません。代理投票については、視覚障害者の場合、口頭で投票先を伝える必要があり、「投票の秘密」を知られることや、周囲に漏れる可能性を不安視する声もあります。
(山田)男性は今回の出来事をどう受け止めたのでしょうか。
(川内)「投票という行為を能動的に行えることがいかに大切であるかを、身をもって実感した」と話していました。そして代理投票については「率直に言って心地よいものではなかった。すごくモヤモヤした」と語っています。「投票の秘密」は憲法で定められていることであり、重要性を社会が認識する必要あります。三島市の事例については、県選管も次の選挙を前にした市区町選管の連絡会で伝え、注意を促したいとのことです。
(山田)僕は親から投票先は誰にも言ってはいけないと教えられました。
筆記の補助具も登場している
(川内)視覚障害者で点字を利用できる人は決して多くはなく、筆記の補助具も登場しています。投票用紙を挟み込むプラスチック製のファイルで、候補者名や政党名を記入する部分がくりぬかれていて、全盲の人でも表面を触ると位置を確認できます。また、弱視の人が分かりやすいように、記入部分を黒く縁取りし、際立たせています。
(山田)便利ですね。シンプルだけどよく考えられている。
(川内)利用者からは「あきらめていたことができてうれしい」との声が上がるなど好評です。県内でも導入する自治体があり、さらに広がればいいなと思います。
投票と選挙情報入手の環境整備
(山田)障害の種類や程度に応じた適切なサポートが必要ですね。
(川内)選挙権は憲法で保障された権利であり、有権者の誰もが投票しやすい環境を整えなければならないことはいうまでもありません。投票所では係の人に付き添いや手助けを頼むことができますし、補助犬も投票所の中まで入ることができます。平易な言葉や絵でQ&Aを書いた「コミュニケーションボード」や要望事項を意思表示できる「投票支援カード」なども用意してあります。
(山田)当事者の声を聞きながら改善していってほしい。
(川内)投票の前提となる選挙情報を確実に届けることも重要です。候補者の主張や政策などが掲載された選挙公報について、公選法は提出された文面を「原文のまま掲載しなければいけない」と定めていて、点字版や音声版は「公報」として認められていません。
(山田)厳しいというか、もっと柔軟に考えられないんでしょうか。
(川内)県選管は「選挙のお知らせ」という別の名称で各地の点字図書館などでつくる「視覚障害者選挙情報支援プロジェクト」が発行する資料を購入し、配布しています。先日、県選管で5人が立候補した衆院選静岡1区の資料を見せてもらいました。B5判、13枚がとじてあるものでした。
公選法は選挙公報を有権者に配るよう選管に義務付けていますが、点字版や音声版に関する規定はありません。また、国は点字版や音声版を配るよう各地に選管に要請していますが、配布環境は全国の各自治体で異なります。より確実に手元に届けるため、法的に位置付けるべきだと思います。
静岡市でも不適切対応
(山田)ほかにも県内で不適切な対応があったようですね。
(川内)最高裁裁判官の国民審査の期日前投票では、静岡市で視覚障害者本人の意向が確認されないまま、知らぬ間に代理投票が行われる事態も起きました。この弁護士の男性は精神的苦痛を受けたとして、静岡市に100万円の損害賠償を求める訴訟を静岡地裁に起こしました。市選管も男性の意向を確認しないまま投票を行った事実を認めています。
(山田)これも「誰をも取り残さない」という意識が欠けていた気がする。
(川内)障害者の投票にもっと配慮する必要があるのではないでしょうか。まずはみんなが、その立場になったつもりで、状況を想像してほしいと思います。
(山田)本当にそうですね。皆さんも自分が同じ立場になった状況を頭に思い描き、改善点を考えてはいかがでしょうか。今日の勉強はこれでおしまい。