わが子の未来この決断にかかっている!?自閉症娘の就学先選び、決めた矢先に教育委員会の判定で…大混乱!?
監修:新美妙美
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 特任助教
ずっと頭の片隅にあった「就学先選び」
2歳10か月でASD(自閉スペクトラム症)と知的障害(知的発達症)の診断がついたまゆみも年長さんとなり、わが家も避けては通れない決断の時期を迎えました。
そう、就学先の選定です。
「いずれこの子の人生の岐路を私が選ぶ時が来る」という思いは診断がついた頃からずっと頭にありましたが、具体的に就学に向けた情報収集を始めたのはまゆみが4歳になる頃でした。
少し早めに動いた理由は、居住地における情報を得ることが何よりも重要だと思ったからです。インターネットで得た情報も無駄にはなりませんが、福祉に関しては地域差が大きいため、あくまで参考という位置づけです。
これらのことを正確に知ろうと市の発達支援室に就学相談を申し込むと、「年少児の年齢で就学相談に来た人は初めてです」と驚かれてしまいました。私自身は、早いうちから地域の事情を確認したのはじっくり考えるために正解だったと思っています(ただし私の住む地域の場合、学校見学に行けるのは年長になってからでした)。
最初の就学相談から約2年、まゆみの成長と発達にいろんな涙をこぼしながら、頭の中には常に「特別支援学校か、特別支援学級か」の選択肢が浮かんでいました。どちらかを希望しているわけではなく、あくまで「まゆみにとって一番いい場所を探したい」という思いだけで、「やっぱり特別支援学校が安心かな」「特別支援学級の方が本人は喜ぶかも……?」と、日によって気持ちは揺れ動いていました。そして遂に、本腰を入れて考える時期がやってきたのです。
いよいよ本格リサーチを開始!まずは特別支援学校から
年長の春。最初に見学へ向かったのは特別支援学校でした。
住んでいる自治体には施設がないため、特別支援学校を選ぶなら隣の自治体にある特別支援学校へバス通学することになります。
理由は後述しますが、この頃には親の目から見ても「就学先を特別支援学級にした場合も、おそらく1~2年後には特別支援学校へ転校することになるだろう」と考えるようになっていたため、まゆみの手を握りながら「時期をいつにするかだけで、いずれこの子もここに通うんだなぁ」とドキドキしながら門をくぐりました。
見学させてもらった結果、個別の手厚さで考えるなら特別支援学校を選べば間違いないと思いました。先生方もさすがの知識豊富さで、適切な環境も整っており、支援についての不安な部分は感じられません。
仮に特別支援学校を選ばなかった場合でも、在住の市では特別支援学級から特別支援学校への転校は難しくないため、「18歳までなら、こんなにサポートを得られる場所がまゆみにはあるんだ」と知れたことは、就学先選びの枠を超えてまゆみを育てる中での大きな安心になりました。
一つ気にかかったのは、生徒数が少ない上にほとんどが男子児童ということで、お友だちが好きなまゆみには少し寂しいかもしれない、ということです。けれど先生方は優しく、高学年にはまゆみに話しかけてくれるような女の子もいて、可愛がってもらえそうな環境だと感じました。
特別支援学級の評判が良いA小学校へ
次に向かったのは、自宅から二番目に近く、「特別支援学級がとても良い」という評判が療育先ネットワークから聞こえてきているA小学校です。
通常学級のクラスと同じならびにある特別支援学級は、視覚支援やクールダウンスペースなどの配慮が行き届き、一目見ただけでもよく環境調整されていると感じました。授業風景を見学していても、心得のある方が指導されているのが分かります。
さらに、校長先生が自ら案内してくださる中で知って驚いたのは、校長先生ご自身に県の子どもの発達医療センターの前身施設で勤務されたご経験があり、しかも赴任されたばかりということでした。
障害児の保護者の界隈では「特別支援学級の評判がいくら良くても、年度が替わって担任が異動になるとガラッと変わることがある」なんて話はよく聞きますが、校務を司る校長先生が特別支援に明るい方であれば、特別支援学級においても一定のレベルが担保されるのでは?と、その辺りの突っ込んだ質問もさせてもらいました。
すると、「人員配置の都合があるので絶対とは言えませんが、仮に初任者であっても意欲ある人をと考えていますし、在任中は特別支援の質を保つつもりです。また、仮に教室を出てしまうようなことがあっても、補助員は必ずつくので特別支援学級のお子さんを一人にすることは絶対にありません」との心強い答えが。
前向きに取り組まれているのが感じられ、信頼できると思いました。
二度目の見学からはまゆみも連れていったのですが、テンションが上がり切って飛び跳ねているまゆみを見た校長先生は「かなりよく動く子ですね……まぁルーティンが確立すれば大丈夫かな」と苦笑されていました。
本来の校区であるB小学校へ
最後に本来の校区であるB小学校の特別支援学級へも見学へ行き、こちらでも校長先生が丁寧に質問に答えてくださいました。
こちらの特別支援学級は通常学級とは階が違い、場所も校舎の端っこでした。
率直な感想を言うと、「どうして特別支援学級だけこんな離れた場所にあるんだろう。お友だちが好きなまゆみにとっては、通常学級と階が違うのは寂しいかもしれない」と思ったのですが、あとから先輩ママのフォロワーさんに教えてもらった話では、特別支援学級に通う子の中には通常学級に近いと落ち着かない子も多いので、あえて離れた場所に教室を設置しているケースがあるそうです。
中を覗くと特別支援学校を模したと思われる造りになっており、室内に手洗い場や畳スペースがありました。教室の場所もトイレの真ん前……と、ハード面だけでいうなら幅広い障害程度の子を受け入れられそうなポテンシャルを感じます。
少し考える必要があったのは、授業見学をする中で聞いた「現在、特別支援学級には3年生以下の児童はおらず、今年は特別支援学級の見学申し込みもほかにないため、もしうちにするならまゆみさんは1名だけの特別支援学級になる可能性が高い」という言葉です。
校長先生は「まゆみの不利益になり得る」という話しぶりで教えてくれたことでしたが、マンツーマンの手厚い支援が望めるという点では決して悪いことではありません。重要なのはどんな先生が担当してくれるかですが、これは私が希望を出せることではないので祈るのみ……。また、B小学校へは何事もなければ次女のあずさも通うことになるため、この点をどう考えるかも悩むポイントでした。
難しいのは、何を重視するか
当初は三番目に近い小学校へも見学に行く予定でしたが、歩きで通うには少し距離があるのと、近隣小学校の特別支援学級が2校とも良かったため、特別支援学校・A小学校・B小学校の3つに絞って考えることにしました。
それぞれに通った場合のメリットとデメリットを紙に書き出して考え始めると……
これがもう、脳ミソから煙が出るんじゃないかというほど悩みました。何を重視するかで結論が変わるのです。
そもそも、1~2年で転校することになるだろうと思いつつ、特別支援学級を選択肢から外せない理由がこれでした。まゆみの人生を俯瞰して考えた時に、今現在で何を優先すべきかの答えが出せなかったのです。
「まゆみのコミュニケーションの取りづらさを考えると特別支援学校がいいだろう。本人も無理なく過ごせそう」と思っても、保育園でお友だちとまゆみとのほのぼのエピソードを聞くたびに「年長になってお友だちのことが目に入るようになった」という事実が私の心を揺さぶりました。
主治医に就学先の相談をした時に言われた「特別支援学校にするなら、同級生の集団の中に入る機会はもうなくなりますよ」という言葉が頭の中でリフレインします。
定型発達児の模倣や集団行動ができるようになり、やっと子ども同士でのコミュニケーションの萌芽が見えてきた大切な時期なのに、同級生の集団と離れるのは果たしてまゆみのためになるのだろうか……。一番迷っていたのはこの点でした。
また、言動からは想像がつきにくいのですが、まゆみは拗音や促音を含むひらがな・カタカナの読み書きと、数の合計・分解がある程度できます。これは療育先での先生と本人の努力が積み重なった結果なのですが、1年生のお勉強に関しては少しだけ貯金があったことも迷いに拍車をかけました(こんな言い方をしていますが、特別支援学級を選択肢に入れられる水準にまで学力を伸ばしてくださった療育の先生には感謝ばかりです……!)。
自分だけで考えていると落とし穴がありそうなので、療育先や主治医の先生とも相談を重ねましたが、みんな揃って「見た感じの印象よりもできることが多いので、判断に迷うんですよねぇ……」という回答。
やはり最終的に決めるのは親である自分なんだというプレッシャーで夜眠れなくなることもありました。
困ったら、いろんな視点から検討する
結論から言うと、就学先は「A小学校の支援学級」で申請しました。
メリット・デメリットで考えていても決められなかったので、リスクから考えてみた結果です。
確定している環境変化を前に、障害児の保護者が一番懸念することは【わが子がこれまで積み上げてきたものが崩れること】ではないでしょうか。
現在の神経発達症育児の主流は「迷ったら、子ども本人に負担がかからない道を選んであげる」という考え方ですが、これは上記のリスクを回避すべく言われているように思います。
言い換えるなら「不適応を起こして二次障害になるくらいなら、最初から伸び伸びできるほうを選んであげましょう」ということで、私もこの考えにはおおむね賛成です。わが家の場合も、安全策でいくなら特別支援学校に軍配が上がります。しかし……
・特別支援学級の評判がよいA小学校が近くにあること
・A小学校は児童数が少なく、先生と児童に丁寧な関わりが持てる土壌があること
・赴任されたばかりの校長先生が特別支援に理解が深く、在任中は特別支援の質を保つつもりだと明言されていること
・まゆみ自身に他害や自傷といった面での困難さがなく、排泄がほぼ自立していること
・サポートは必要なものの、1年生の勉強ならどうにかついていけそうなこと
これらの条件が揃っている幸運の中、果たして懸念するようなリスクは高いといえるのか?
むしろ、同級生集団からの学習機会の損失のほうが、まゆみの人生をトータルで見た時のリスクになるのでは?
そんな考えが頭をよぎります。ちなみにこの段階で、不確定要素の多いB小学校はリスクが排除しきれず候補から外しました。
あとは、特別支援学校とA小学校のどちらにするかですが……。
ここで改めて夫と意見のすり合わせを行いました。各校へ一緒に見学へ行った夫は最初からずっとA小学校を推しています。
話し合いの結果、以下の点からまずはA小学校の特別支援学級へ通い、まゆみの成長を見ながら翌年以降は特別支援学校へ移るタイミングを慎重に見るという方針で決まりました。
教育委員会の出した判定と親の希望が違う!どうする⁉
しかし、ここからまた一波乱ありました。教育委員会から出された判定は「特別支援学校が望ましい」というもので、固まったはずの方針はグワングワン揺らぎました。
月曜に判定の電話をもらい、金曜日までに就学先の最終回答をしなくてはいけないということで、考える時間は5日間しかありません。
もう一度、全てイチから検討し直そう!!と、白紙の状態から考え出しましたが、数か月かけて悩んできた道のりを数日間で再現するだけで夫婦の結論はやはり「A小学校の特別支援学級」になります。
でも、教育委員会がそう判定するからには特別支援学校にしたほうがいいんだろうか?
社会性が伸びつつある今、もう少しだけ同級生集団と過ごさせてあげたい私の考えは間違っているんだろうか?
特別支援学校が妥当と判定された子が特別支援学級へ行くと、先生やほかの子の迷惑になってしまうだろうか……?
どうにも苦しい気持ちになり、A小学校の校長先生に事情を話すと、キョトンとした声で「そもそも、どういう理由で特別支援学校という判定になったんですか?」と聞かれてハッとしました。確かに、その理由を知らないことには悩んでいても仕方がありません。けれど、膨れ上がった不安はもう止まらず、言葉が次々と口を突いて出てしまいました。
「ですが先生、重ねてのお伝えになるんですが……希望通りにA小学校へ入学させていただけたとしても、親を含めた周囲の支援者全員が『1~2年で特別支援学校へ転校するのが現実的なところだろう』と考えているんです。そんな境界上にいる子が腰かけのように特別支援学級に在籍することで先生方やほかのお子さんに迷惑がかからないでしょうか。私も夫もA小学校にお願いしたいと考えていますが、その点をとても心配しています」
すると校長先生はこんな言葉を掛けてくださいました。
「それは親御さんが考えることじゃないんですよ。それをどうにかするのが我々の仕事です。お母さんはまゆみさんにとって一番だと思える道を考えてください。まゆみさんがうちに6年間通ってもらう中で私たちも可能な限りのことはしていきます。一緒に成長を見守っていきましょう」
「6年間」という言葉に、腰かけのつもりで受け入れるのではなく、可能な限りまゆみの新しい居場所になろうとしてくださっている意思が伝わって恥ずかしながら号泣しました。いずれA小学校を去る時が来るとしても、この時の気持ちはきっと忘れません。こうしてまゆみは【A小学校の特別支援学級】へ就学することになりました。
就学先選びを振り返って
ドキドキしながら教育委員会に最終回答を伝えると、「特別支援学級ですね、分かりました!」とアッサリした返事。拍子抜けして電話を切った瞬間、全身に震えが来てボタボタと涙が止まらなくなったことに自分で驚きました。
何年も頭の中にあり、身を引き絞るほどにわが子の未来を考えて選び取ったまゆみの進路です。
人ひとりの人生に関わる決断の重さを知りました。
周りを見ていると、就学先選定は「まったく迷わなかった」という人と、「ノイローゼになりそうなほど迷った」という人に二分される気がします。子どもの発達や家庭の事情はそれぞれですし、どちらが良いということはありません。わが家よりもっと判断の難しいケースもあるでしょう。ただただ、この関門を通る全ての親御さんにお疲れ様ですと言いたい気持ちです。
余談ですが、特別支援学校と判定された理由はその後に思いがけず知る機会がありました。
おそらく自治体によって判定方法が異なるのと、正規の手続きで知らされたわけではないため詳細は伏せますが……わが家と同じ状況になった人の参考になるかもしれないので個人的な感想だけ書いておきます。
教育委員会に不満があるのではなく、日頃の本人を知らない方々が限られた資料と20分の面談で進路を決めるシステムに限界があるのです。まゆみのような、医師やベテランの先生方でも判断に迷うような子はなおさらで、日頃から本人に接している知識と経験のある人の意見をよく聞いて、チームを組んで就学先選びを進められたら理想だなと思います。
わが家の選択が良かったかどうかは時間を重ねてみないと分かりませんが、「考えるべきことは考えつくしてまゆみの人生のコマを進めた」という完全燃焼感があります。今後もこんなことはあるのでしょうが、きっとその積み重ねが親を強くしてくれるんだろうなぁ……なんて燃え尽きた頭で思いました。
当事者の意向が最大限に尊重されるようになったのも2013年の学校教育法施行令の改正からで、それまでは決して当たり前ではありませんでした。涙を呑んだ人も多かったはずです。
4月からの一年を当たり前だと思わず、多くの幸運と多くの人の厚意の結果与えられたものと感謝して、小学生になるまゆみの伴走を務めたいと思います。
執筆/にれ
(監修:新美先生より)
就学時の学校選びについてとても詳しく書いていただきありがとうございます。にれさんの行動力がすごいです。
まずは候補になる学校・学級はどんなところがあるのかについての情報収集ですね。普段通っている病院の主治医・リハビリ担当者や、療育施設担当者などに複数聞いてみるとよいでしょう。一人だけだと偏ることがないとはいえないので、複数の人に聞いてみるといいかもしれません。
候補の学校がいくつかめどがついたら、見学に行きましょう。本人を連れていくと突っ込んだ質問をゆっくりする時間がとりにくいと思ったら、保護者のみで行く日と、本人も連れて行く日を別に日程をとってもらえるといいかもしれません。
にれさんも話題にされていたように、学校は異動があるというのが盲点になります。見学して、この先生なら信頼できると思って決めたのに、年度が替わったらお目当ての先生が異動してしまって話がぜんぜん違うよ……というのはあるあるです。「この人」と一人の人のみで決めるのはリスクがあります。赴任してどれぐらいか、お住まいの地域で異動が何年単位かといった情報は参考にしつつ、異動はあるかもしれないということも考慮に入れておきましょう。
もっとも大切にするのは、お子さんが毎日そこに、楽しくのびのび通えそうかという視点です。見学に行った際の保護者の直感や、お子さんのことをよく知っている病院・療育・園の担当の先生などの意見も参考に、保護者が最善と思える選択をしていくしかないですよね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。