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「作り手が楽しくないと、視聴者も楽しくない」――『BULLET/BULLET』朴性厚監督の“好き”がエンジンを唸らせる! ノンストップ・カーアクションの制作秘話【インタビュー】

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2025年7月16日(水)よりディズニープラスで独占配信がスタート、7月25日(金)より劇場版・前章「弾丸疾走編」が公開されるオリジナルアニメ『BULLET/BULLET』。

舞台は文明が崩壊し、荒野となった近未来。15歳の少年・ギアはジャンク屋で働く裏で、不当に奪われた品を取り返す”盗み屋”を営んでいました。仲間は4つの人格を持つロボットQu-0213とギャンブル狂のシロクマ。そんな彼の前に謎の少女ノアが現れ……。息つく暇もないカーチェイスとアクションが繰り広げられる、ノンストップ・アクションエンターテインメントとなっています。

本作で原案・監督を務めるのは、アニメ『呪術廻戦(第1期)』『劇場版 呪術廻戦 0』などを手掛けた朴性厚監督。さらに、キャラクターデザインに吉松孝博氏、コンセプト・メカニックデザインに天神英貴氏といった実力派クリエイターが集結しました。

アニメイトタイムズでは朴性厚監督にインタビューを実施。憧れのクリエイターたちと「楽しみながら作った」という制作の裏側、そして作品に込めた想いまで、余すところなく語っていただきました。オリジナル作品だからこそ色濃く反映された、監督の哲学と遊び心とは?

 

 

【写真】『BULLET/BULLET』朴性厚監督インタビュー

原点は10年前の“デモ”。シリアスなテーマをB級ギャグで描く理由

──まずは、本作が生まれたきっかけからお聞かせいただけますでしょうか?

朴性厚監督(以下、朴監督):10年ほど前に、世の中に対して「これは間違っている」と声を上げるデモを目の当たりにしたんです。

その光景を見て、僕自身もかなり感情移入しまして。世の中には物事を斜に構えて見る人もいれば、こうして自分の意見を表明する人もいるんだなと。それが自分の中の一つのテーマとしてずっとあったんです。

──そのテーマを、どのように作品として表現しようと考えたのでしょうか?

朴監督:そのテーマを真正面からシリアスに描いてしまうと、かえって観る人の頭に入ってこないかもしれない。むしろ、みんなが分かりやすい表現で、笑いながらテーマを感じ取ってくれた方が、より深く理解してもらえるんじゃないかと思いました。

クマのキャラクターやB級映画のようなギャグ要素をたくさん取り入れて、ポップな世界観の中にそうしたテーマ性を込めて作りたいという想いがあったんです。

 

 

──シリアスなテーマを、あえてポップに描くと。

朴監督:「ポップ」という言葉自体が、世の中の人たちにとって受け入れやすいものだと思うんです。だからこそ、そうした表現で重いテーマを描きたいと思いました。

──本作はディストピア的な世界観で、裕福な人々とそうでない人々の対立も描かれています。この世界観に込めたメッセージも、やはりそこに繋がっているのでしょうか。

朴監督:そうですね。裕福でない人たちが、自分たちの境遇に対して疑問を持っていないケースも多いと思うんです。でも、そこで「なんで俺たちはこうなんだ?」と声を上げること、歌を一つ歌うだけでも、世界は大きく変わる可能性がある。

貧困の問題は多くの作品でテーマとして扱われていますが、本作では「それに対してちゃんと一言言おう」という点が、一番のポイントなのかなと思っています。

──主人公のギアはかなり若い男の子ですね。

朴監督:「15歳」という年齢設定が重要でした。15歳って、好奇心旺盛で、悪い影響も良い影響もストレートに受け入れてしまう時期だと思うんです。だからこそ、中立な立場で「これはダメ、これがいい」と素直に言えるし、受け入れられる。それが、主人公を15歳にした大きな理由の一つですね。

 

 

──まだ何色にも染まれる年齢だからこそ、ですね。

朴監督:そうなんです。逆に、相棒のシロクマは、昔ながらの頑固な親父世代のような、お酒が好きで「こうあるべきだ」と自分の考えを曲げないタイプ。そんな大人の言葉を、15歳のギアがどう解釈して、「こうしたいんだ」と返していく。そして、Qu-0213は「家族」です。ギアが何かを選択するなら、それを温かく見守り、「やるしかないんでしょ?」と背中を押してくれる。この3つのバランスを描きたかった。

彼らを通して、現代を生きる大人や子供、そして家族といった様々な立場を表現しつつ、ワイワイガヤガヤした楽しい作品になればいいなと。

 

 

一つの価値観じゃつまらない。殺し屋は社内コンペで決定!?

──本作はコメディ要素とシリアスな要素が混在していますが、映像に落とし込む上で、そのバランスはどのように考えられていますか?

朴監督:僕は結構、極端なものが好きなんです。やるなら完全にこっち、と振り切りたい。中途半端に繋げてコメディ要素を少しだけ抜く、みたいなことはあまり好きじゃなくて。以前手掛けた『呪術廻戦』でも、シリアスなパートとポップなパートは、はっきりと分けるようにしていました。

今回も、やるなら徹底的にやろうと。B級映画のようなギャグ、ブラックコメディのノリで、殺し屋たちも「こんな変なキャラでいいのか!?」というくらい振り切って作っています。その中に、またシリアスな展開が来る。その中間を取らない感じが、僕個人としての好みでもあります。

 

 

──バッティングセンター斎藤など、登場する殺し屋たちの名前もかなり奇抜ですよね。言葉を選ばずに言うと、いかにもB級な感じで(笑)

朴監督:個人的にB級映画が好きで、いろいろと観ているんです。頭をからっぽにして笑える感じが好きでして(笑)。そういうB級映画の要素こそ、先ほど話した『BULLET/BULLET』の重いテーマを、観る人に受け入れてもらうための大事なポイントだと思っています。

あと、これまでアニメ業界で色々なキャラクターを描いてきましたが、一度、本当に“バカみたいな”キャラクターを作ってみたいなという想いもあって。殺し屋たちは、うちの会社のアニメーター全員でコンペをして、「これいいね!」なんて言いながら作ったんですよ。

──監督だけでなく、色々な方のアイデアで作品が作られているんですね。

朴監督:もちろんです。どんな作品も監督一人では作れませんから。特に『BULLET/BULLET』では、僕が原案を出してはいますが、シナリオ会議には配給のギャガさんのチームや、メカデザインの天神さんも入ってもらって、みんなでアイデアを出す会をやっていたんです。

そこでゲラゲラ笑いながらふざけた話をして、全員が「まさかこのアイデアは通らないだろう」と思っていたらしいんですけど、僕が「あ、いいじゃないですか」と採用するので、「え、通るんだ!?」と驚いていて(笑)。

──(笑)。楽しい現場ですね。

朴監督:この作品のコンセプト自体が、ギアたちだけでなく、周りの殺し屋たちも協力していくというものなので、制作自体も僕が全部決めるのではなく、みんなのアイデアを集めて作りたかったんです。キャラクターデザインをコンペ形式にしたのも、「みんな好きなキャラを描いてくれよ」という気持ちからでした。

 

 

──先ほどお話しいただいたテーマを描くうえでも、色々な価値観から生まれるアイデアは不可欠だったのではないでしょうか。

朴監督:そうですね。一つの価値観だけでなく、多様な価値観が混ざり合うことが、現実の世の中でもすごく大事なことですから。そういう意味でも、本当に楽しみながら作ることができました。

──ちなみに監督が好きな殺し屋は誰ですか?

朴監督:デストロ犬と天麩羅寿司丸ですね。実は、天麩羅寿司丸は第2話の演出さんが考えたキャラクターなんですけど、最初はすごくカッコいいキャラクターだと思っていたんですよ。でも、彼がカッコつけてジャンプするシーンで、ものすごく派手に跳ぶのかと思いきや、あんまり跳べないんです(笑)。その“雑さ”がたまらなく面白くて。演出としても、すごく好きなシーンです。

──カーアクションを担当された三沢伸さんを始めとして制作陣もかなり豪華な面子が集まっていますよね。

朴監督:本当に! 三沢さんは、僕が業界に入って初めて原画を担当した作品の監督だったんです。僕がまだ原画マンだった頃、『capeta』という作品でご一緒しました。三沢さんの車を描く演出が本当にすごかったんですよ。当時は隣の席で仕事をしていたんですが、緊張して何も話せませんでした(笑)。

そんな憧れの方が、僕の監督作品でカーアクションのディレクションをしてくださるなんて……。加えて、キャラクターデザインの吉松孝博さんも大ファンですし、マクロスシリーズが大好きなので、天神英貴さんが参加してくれたことも嬉しくて。この作品の制作を通して、僕自身もたくさんのことを勉強させていただきました。

──作中では、天神さんがデザインされた車も多く登場します。ご覧になっていかがでしたか?

朴監督:最高でしたね。カッコいいだけじゃなくて、デザインに要素が全て入っています。特にクックトラックは、『トランスフォーマー』のオプティマスプライムの車両を参考にしているんですけど、そこに料理人(クック)の要素も入れなきゃいけない。デザイン面に関してはこだわりが詰まっているので、それだけで1時間くらい話せます(笑)。基本的には「天神さんの好きなようにやってください!」という感じでした。

 

 

──ちなみに、ギアの愛車がマスタングなのは何故でしょうか?

朴監督:あれは単純に、僕がマスタング好きだからです(笑)。以前手掛けた作品でもキャラクターにマスタングを乗せていたんです。天神さんと実際に69年式のマスタングに乗りながら、「この車、いいですよね」なんて話をしていたら、天神さんもマスタングがお好きだったみたいで、本作に合う形で色々とバランスを調整してくださいました。

──マスタング好きになったきっかけは?

朴監督:昔の映画に出てくるマッスルカーにすごく憧れがあって。エンジンの音とか、フォルムとか。アメリカの一直線の国道を走る光景が、韓国で育った僕にとってはすごくファンタジーに見えたんです。日本もそうですが、広大な荒野ってなかなかないじゃないですか。だから、オープンカーで荒野を走る姿は、子供心に焼き付いていますね。「いつか自分でもマスタングを買いたいなあ」と思っています。

──本作にはギア役の井上麻里奈さんを始め、声優陣もかなり豪華な顔ぶれですね。特にQu-0213のキャストは、非常に贅沢な使い方だなと感じました。

朴監督:きっかけは、僕が初監督を務めた『牙狼<GARO>-VANISHING LINE-』で、関智一さんと釘宮理恵さんのお二人の掛け合いが、本当に兄と妹みたいで素晴らしかったんです。そこにおばあちゃん役が加わったら、家族みたいで面白くなるような気がして。

その後、『劇場版 呪術廻戦 0』が終わってから、緒方恵美さんと花澤香菜さんと食事に行く機会がありました。それまでは里香ちゃんの叫ぶようなお芝居のイメージだったのですが、普段の声を聞くと「この声で釘宮さんとケンカしたら面白くない?」と思いついて。その場で「もしよかったら……」とお声掛けさせていただきました。

──本当に家族のような掛け合いでしたね。

朴監督:ただ、実はQu-0213のメンバーは一度も全員揃って収録したことがないんです。関さんは完全に別撮りなのに、その場の雰囲気で、本当に“何にも役に立たないおじさん”を完璧に演じきっていました。花澤さんと釘宮さんも別々の収録だったこともあったんですが、完成した音声を聞いたら、本当にその場で喧嘩しているみたいで。皆さん、本当に天才だなと思いました。

 

 

──シロクマ役の山路和弘さんについては、監督からオファーをされたそうですね。

朴監督:そうなんです。最初に決めたのは山路さんでした。僕、山路さんの声が一番好きなんですよ。『ウィッチャー3 ワイルドハント』というゲームが大好きで。僕が初監督をしていた頃、毎日1時間くらい遊んでいたら、クリアするのに1年かかったんです。つまり、1年間ずっと山路さん演じるゲラルト(主人公)の声を聞いていて(笑)。そこからどハマりしてしまいました。

──作品づくりにおいてもゲームから影響を受けた部分などはあったのでしょうか?

朴監督:もちろんです。本作の冒頭にも、ゲームのようなカメラワークを取り入れたカーチェイスのシーンがあります。一人称視点や三人称視点といったゲームならではの視点はすごく勉強になりますし、最近のオープンワールドゲームはカメラを360度回せるので、キャラクターをどう見せるか、カメラの位置をどうするか。そういった発想の助けになります。

──『ウィッチャー3 ワイルドハント』に加えて、影響を受けたゲーム作品を挙げるなら?

朴監督:『DEATH STRANDING』の音楽と映像のマッチング。小島秀夫監督の演出はすごく好きです。それから『The Last of Us』のディストピア感。色使いや音楽、全てが一本の映画のようで、こういう作品をアニメでもやりたいと常々思っています。

──本作は音楽にもかなりこだわられていますね。オープニングテーマはちゃんみなさんの「WORK HARD」です。

朴監督:元々ちゃんみなさんのファンだったんです。彼女は日本語、韓国語、英語を話せて、様々な経験をされていて、それが『BULLET/BULLET』のコンセプトとすごく合うんじゃないかなと。

僕はあまりアニメっぽいオープニングが好きではなくて、多様な音楽をアニメーションでどう解釈するか、という方向性の映像作りが好きなんです。今回はそれがバッチリはまって、ちゃんみなさん自身も作品のテーマを深く理解して歌詞に落とし込んでくださって、本当にプロだなと感じました。

 

 

──そして、エンディングテーマはNewspeakさんの「Glass Door」。

朴監督:Newspeakさんの曲を聴かせていただいて、「すごくいいな」と思い、ぜひお願いしたいと思いました。今ではすっかりどハマりしてしまって、毎日アルバムを聴いています(笑)。

僕の信条として、誰が偉いとかではなく、みんな同じ目線で話したいというのがあるんです。ちゃんみなさんもNewspeakさんも、あれだけ有名なアーティストなのに、同じクリエイターとして対等な目線で作品を理解しようとしてくれました。打ち上げにも来てくださって、そうした交流もすごく印象に残っています。

 

「作り手が楽しくないと、視聴者も楽しくない」

──本作はディズニープラスでの配信と劇場公開、二つの形で視聴者に届けられます。それぞれの魅力について教えてください。

朴監督:映画は、ある意味でのパッケージですよね。演出家としては「トイレにも行かせないぞ!」という気持ちで作っているので、一つの物語に没入していただけると思います。

一方で配信は、自分のペースで一時停止したり、巻き戻したりしながら、見逃していたディテールをじっくり追いかけることができます。

劇場版では僕らが提示したプランを一気に観ていただいて、配信ではじっくりと楽しむという形が理想的です。

 

 

──最後に、配信と公開を心待ちにしているファンの皆さんへメッセージをお願いします。

朴監督:僕が本当に作りたかった作品をこうして世に出すことができて、すごく感動しています。何より、スタッフ全員で楽しく作った作品なので、その楽しさがフィルムに現れているはずです。

僕の持論ですが、「作り手が楽しくないと、視聴者も楽しくない」と思っています。この作品を観ている時間だけでも、辛いことは全部忘れて、ビール片手にゲラゲラ笑ってください。そんな風に、純粋なエンターテイメントとして楽しんでいただけると嬉しいです。

 
[インタビュー/失野]

 

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