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「奨学金で投資」はアリ?返済計画とリスクの考え方をFPが指南

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【画像出典元】「dee karen/Shutterstock.com」

FPオフィス「フォルテシモ」へ依頼されたお客さまの家計簿を、mymoで診断する【うちの家計簿】。今回は19歳男性で、仕送りと奨学金を支えに一人暮らしをしている大学生の家計簿です。「低金利の奨学金で投資すれば、将来の奨学金返済が楽になるのでは?」と思う大学生もいますが、本当にそうでしょうか。FPとして奨学金の考え方や投資のリスクについて解説していきます。

一人暮らしの19歳大学生Yさんの相談内容

現在、親からの仕送り5万円と奨学金8万円を借り、アルバイトの収入3万円を加えた合計16万円で生活しています。学業が忙しくなったため、アルバイトはこれ以上増やすことは考えていません。家計の支出は一定しておらず、今回より多い支出の月もあります。

新NISAが18歳から利用できるようになったので、将来の奨学金返済のために奨学金を追加で多く借りて、そのお金で投資を始めた方が良いのだろうかと考えていますが、どうでしょうか。

Yさんの家計簿は…?

月々の収入16万円のうち約81%の13万円は仕送りと奨学金となっており、3万円がYさんのアルバイトの収入です。大学の年間授業料は親が負担しています。Yさんの貯金の合計額は10万円です。

Yさんの奨学金は「第二種奨学金」

日本学生支援機構(JASSO)の奨学金には、国内の奨学金と海外留学のための奨学金があります。国内の奨学金には、利子の付かない「第一種奨学金」と利子の付く「第二種奨学金」の2種類があります。

Yさんの奨学金は利子の付く「第二種奨学金」です。第二種奨学金の貸与月額は大学の場合は月額2万円から12万円となっており1万円単位で決めることができます。

Yさんは月額8万円の貸与を受けています。第二種奨学金を上限まで借りるとすると、あと4万円借りることが可能です。

奨学金は返済必須の「借金」だということを忘れずに

【画像出典元】「stock.adobe.com/Geber86」

奨学金は、正科生で経済的理由により修学が困難で、かつ優れた学生であると認められる等の一定の要件を満たせば借りることができます。しかし奨学金は必ず返さなければいけない「借金」であることを忘れてはいけません。

日本学生支援機構では奨学金の返還が延滞すると本人、連帯保証人、保証人に対して、文書と同時に電話による督促が行われます。約束の返還期日までに返還されないと、延滞金が課されます。令和2年3月28日以降は年(365日当たり)3%の割合を乗じて計算した額の合計額が賦課されています。

もし3カ月連続で返済(振替)ができなかった場合は、翌月の振替日に4カ月分の未払い額が一括で振替される上、所定の延滞金が賦課されます。

延滞3カ月で個人信用情報機関に登録

日本学生支援機構では延滞3カ月以上の場合は、個人信用情報機関に個人情報が登録されます。

個人信用情報機関に延滞者として登録されると、その情報を参照した金融機関等がその人を「経済的信用が低い」と判断することがあります。それによって、クレジットカードが発行されなかったり、利用を止められたりすることがあります。また自動車ローン及び住宅ローン等の各種ローンが組めなくなる場合もあります。

一度登録された情報は、延滞中はもちろんのこと、延滞を解消しても一般のクレジットカードと同様に返済履歴が登録され続け、返還完了の5年後に削除されます。

借りたお金を約束通り返すことができなければ経済的な信用を失い、現金一括払いで購入することが難しい車や住宅のローンを組むことができなくなるなど、今後のライフプランにマイナスの影響を及ぼすことを理解しておく必要があります。

奨学金の返還義務を知らない人が多い?

日本学生支援機構による令和4年12月末の奨学金返還者への調査によると、返還義務を知った時期について、奨学金の「申込手続きを行う前」と答えたのは、延滞せず返済している人が89.1%であるのに対し、3カ月以上延滞している人の割合は56.2%に留まり、奨学金制度を利用する申込手続き時に制度の内容について十分理解できていないことが分かります。

また3カ月以上延滞している人では、貸与終了後に返還義務を知った者の合計は14.0%で、そのうち約半数の6.8%は「延滞督促を受けてから」知ったと回答しており、返済計画等をあまり考えていないことが読み取れます。

自身が借りている奨学金の種類を確認し、返済が必要な奨学金かどうか制度内容をよく理解して利用することを心がけましょう。

図表:独立行政法人日本学生支援機構「令和4年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」より一部抜粋

投資にはリスクが伴います 

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有価証券等への投資は、預金とは異なり元本割れ等のリスクを伴います。単純に奨学金の貸付金利よりもNISA等を利用した投資信託の利益の方が高く見込めるので、低金利でできるだけ多くお金を借りて投資をしようと考える人もいるかもしれません。

しかし2024年3月末と2023年3月末の運用損益を比べると、運用損益で利益が出ている人の割合は2024年が91%、2023年が68%でいずれも100%ではありません。また、今後必ず利益が出ると決まっているわけではありません。

借りたお金に対して具体的な返済計画を立てず、必ず増えるとは決まっていない金融商品に投資することについての危うさを知ることが大切です。

図表:金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析<2024年3月末基準>」より一部抜粋
図表:金融庁「投資信託の共通KPIに関する分析<2024年3月末基準>」より一部抜粋

投資は余裕資金で

Yさんの家計を見ると、毎月の生活費16万円のうち自分でまかなえている金額は3万円のみです。奨学金や親からの仕送りに支えられている家計状況といえます。
一口に学生といっても、自宅通学の学生や、Yさんのように一人暮らしの学生などで家計状況は様々ですが、自分の収入のみで自立した生活ができていない状況の中、運用目的に「奨学金」の借入額を増やすことは賛成できません。

投資は「必ず利益が出る」「〇年後に必ず〇円になる」と確定している金融商品ではありません。あくまでも生活に支障のない「余裕資金」で行うことが大切です。

奨学金返済はいつから始まる?

奨学金の返済は毎月定額で返済する「月賦返還」の場合、貸与期間終了の翌月から数えて7カ月目から始まります。大学1年生の時から投資を始めて4年で卒業するとしても、投資期間は4年で、短期の投資ということになります。

長い期間投資を続ければ、投資で得た収益を元本にプラスして運用することで得られる「複利」の効果が大きくなり安定した収益の確保が期待できますが、長期で投資できるのか考えておくことが大切です。

仮に4年後に返済が必要になった際に投資の評価額が下がっていたらどうなるか、しっかり考えておく必要があります。

返済には安定した収入を得ることが大切

奨学生とは経済的理由や学業成績などの要件を満たし、学費の免除や給付を受けられる学生のことを言います。
奨学金の返済状況を職業別で見ると、「正社(職)員・従業員」の割合は延滞者41.1%に対し無延滞者74.5%となっており、安定した就業状況であるほど延滞するリスクが低いことが分かります。

また奨学生本人の年収についても「300万円以下」の比率は、延滞者では合計68.9%であるのに対し、無延滞者では合計40.0%と大きな差が見られます。

無理のない奨学金の返済を考えると、まず安定した収入を得ることが大切です。自分がどのような仕事で収入を得ていきたいかを検討し、実現していきましょう。

図表:独立行政法人日本学生支援機構「令和4年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」より一部抜粋
図表:独立行政法人日本学生支援機構「令和4年度奨学金の返還者に関する属性調査結果」より一部抜粋

家計管理についてのアドバイス

まずは、Yさんが目標とされている「4年で卒業する」こととその後の自立について考え、実現していただければと思います。

2024年からの新NISAは非課税の期間が無期限となり、Yさんが自分の収入で自立した生活を送るようになってから投資をスタートしても遅くはありません。借りるお金はできるだけ少なくし、充実した学生生活を送ってください。

アドバイスを受けたYさん談

実は友人から「奨学金を増やして投資している」ということを聞き、自分が遅れているような、なんだか焦るような気持ちがあって相談したのですが、友人の家計状況も知らないし、投資は「必ずお金が増える」ものではないことは分かったので借りたお金で投資をすることはやめようと思います。奨学金はとても助かっているので、自分の実現したい目標のために使い、できれば無利子の奨学金を受けられるように頑張っていこうと思います。

家計簿診断を終えて

経済的に困難な学生を支援する、返済不要の奨学金の制度が2024年度から支援対象が拡大されました。在学中も申請可能です。将来、自立して活躍できるように制度を十分理解して活用しましょう。
参考:高等教育の修学支援新制度の周知用リーフレット(在学)

※資産運用や投資に関する見解は、執筆者の個人的見解です。投資に関する最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようお願いいたします。

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