車椅子ユーザーが自ら出かけて作ったバリアフリーマップ
テーマパークや文化施設。車椅子での移動のしやすさは?
観光やイベント、帰省などで外出機会が増える年末年始ですが、障害や病気、高齢などで車椅子を使っている人向けに、訪問先の移動しやすさ、過ごしやすさを調べて発信している「車椅子でお出かけ - バリアフリーマップ -」というウエブサイトがあります。
「車椅子でお出かけ - バリアフリーマップ -」トップページ
関東を中心に北は福島、甲信越、西は中部や大阪まで、ショッピングモール、テーマパーク、文化施設やスポーツ施設など28ジャンル、約1400箇所のバリアフリー情報が掲載され、年間約20万人が閲覧しています。今年の秋には、このサイトの「紅葉の名所」の情報を乗せたページが検索サイトのリストのトップに挙がるなど、多くの人に利用されています。
このサイトは本人が車椅子ユーザーの欠端厚志さんが自ら出向いてバリアフリーのチェックをし写真つきで情報を掲載しているのが特徴です。欠端さんは30歳の時に事故で脊椎損傷して下半身や上肢に障害があり日常生活は車椅子を使っています。ただ自動車の運転ができるので、色々な場所に出かけ階段や段差があるか、車椅子用の駐車場、トイレ、エレベーターがあるか、野外の通路や施設内のスロープについても介助なしで車椅子ユーザーひとりで移動できそうか、などを具体的に点検してサイトに反映させています。
欠端さんはウェブサイト製作が本職で、2012年にこのウエブを作り、今も年間約50箇所情報を追加し、大阪や京都など近畿圏にも出向いてサイトの内容を充実させています。運営者の欠端さんに、サイトを作った理由を聞きました。
「ひとつは自分がもともと出かけるのが好きだったことがあります。僕は事故による中途障害で、障害者になって出かけるのには支障がいろいろあるんですけど、それでも外出好きは変わらないです。もうひとつの理由は、車椅子ユーザーが街にいないと感じることですね。車椅子ユーザーってネットで調べると200万人ぐらいいるらしいんですよ。その数は日本の人口 1億2000万人 に対して1.6% になるじゃないですか。ということは、道で100人すれ違えば1.6人の車椅子ユーザーがいるはずなのに実際、外出してもそこまでいないなって。僕が作るようなウェブサイトがひとつあるからといって、それだけで人がたくさん外に出るわけではないのは分かってるんですけど、だけど、できれば、車椅子ユーザーに、町にもっと出かけてほしい。それで、車椅子ユーザーの意識を変えていきたい思いもあってサイトを作ってます。ライフワークとして始めて、今に至ってるって感じですね」(欠端厚志さん)
欠端さんのバリアフリーチェックはかなり細かく、具体的です。たとえば「車椅子用駐車場は屋根はあるが雨をしのげる深さではない」など、細部までチェックしています。坂の勾配についても、「障害レベル2ならひとりで移動可能」のように当事者視点の情報をルートの写真つきで掲載しています。
欠端さんによれば、近年オープンしたショッピングモールや、2021年の東京オリンピック・パラリンピックで新築、改修されたスポーツ施設などはバリアフリーが行き届いていて、ひとりですべて回れるそうです。いっぽう鉄道の駅など移動に重要な施設にはまだバリアフリーが行き届いてないところもあり、そうした偏りの改善が今後の課題と考えているそうです。
山手線のバリアフリー状況をチェックしてみた
今回、欠端さんと一緒にJR山手線のバリアフリー状況を見てきました。欠端さんは車椅子用のドアがどこにあるか、ホームが狭くなっていないか、エレベーターの位置など細かいところまでチェックしていました。電車とホームの間の段差や隙間が小さければ欠端さんはひとりで車椅子をこいで電車に乗りますが、車椅子で乗れるマークのある、ホームに突起を作ってを電車のドアとの隙間を狭くしたバリアフリー対応でも、各駅ごと段差や隙間の大きさに差があり、困ることがあると欠端さんは言います。
欠端さんが山手線のホームをチェックしている様子
「駅で注意してみるのは電車とホームの間の段差と隙間です。僕だったら段差は3センチぐらいだったらいけるけど、5センチあるとちょっとひとりで車椅子で電車に載るのはきつくなる。ホームとの隙間は5センチぐらいだったら、まぁいけるかなと思うんですけど、それより広いと、越えられるかわからなくなる。乗り降りしたことがあって、状況が分かっているホームがあれば、いけるかいけないか、判断がつく。だけど乗り降りしたことのないホームだと、ドアが開いてみないとわからないので、困りますね。駅員に声をかけてスロープを用意してもらう方法もありますが、そうすると降車駅の同じドアに駅員を配置するのに時間がかかったり、スロープを頼まないで乗ったら、降りる駅では隙間が広かったりするとどうにもならないですし、隙間が広く見えるホームを一人で降りて、隙間にはまってしまうこともあるので、恐怖との戦いがあります」(欠端厚志さん)
こうした困りごとは実際に利用した当事者でないと分かりにくい要素です。欠端さんは文化施設や公園などでも、このように細かく調べてサイトに掲載し、それによって車椅子ユーザーにとって、かゆいところに手が届くような 具体的で有益な情報のあるサイトになっていることが分かりました。欠端さんはこうした情報を社会にフィードバックして、今後のバリアフリー充実に反映させられればと言っていました。
「僕はかなり重度な障害で、世の中に僕が泊まれるホテルは本当に全国で数軒です。電動ベッドかつサイドレールが割れてるタイプじゃないと乗り移りできないので。それに対比して、何かで聞いたことあるのはペット歓迎のホテルって1万室ほどあるそうです。重度障害の人間が泊まれるホテルがペットに比べて1万分の5ぐらいの歓迎率って、ペットOKなのに車椅子はダメなのか?って思うしかないですよね。そういうところにバリアフリーの「偏在」があるんですよ。でも、そういう部分には、泣き寝入るしかないのが現状です。ただ、施設側がもし「あ、彼に使わせられないで帰っちゃったな」っていう失望を持ったとして、それが僕に続く人間が 2人3人4人10人、100 人といれば、施設側も「みんな失望させて帰っちゃうな、これは改善したい」と思うかもしれない。そう思われたら正解なんですよ。それに対して車椅子ユーザーが、最初から出かけなさすぎるから解消されない事情も若干あるんじゃないのかと感じます。だから、もっと車椅子ユーザーに外出してもらうために「バリアフリーマップ」はあると思ってます」(欠端厚志さん)
こうしたサイトの情報から、施設側が気づく改善点も多いと思います。バリアフリーの「偏在」が解消されて車椅子ユーザーにとって外出が負担にならない社会にしたいと思いました。
年末年始。神社やお寺のバリアフリー状況は?
ところで年末年始、初詣に出かけたい車椅子ユーザーもいると思うので、欠端さんに関東圏の有名な神社やお寺のバリアフリー状況を聞きました
「都内だと浅草寺は完全にバリアフリーでエレベーターがあります。千葉県の成田山新勝寺もエレベーターがちゃんとあります。埼玉県、大宮の氷川神社はちょっと坂はきついけど社殿までいけますね。神奈川県の鎌倉、鶴ケ丘八幡宮はあまりバリアフリーではないです。一都三県でいうと、そんな感じかな」(欠端厚志さん)
(TBSラジオ『人権TODAY』担当:藤木TDC)